1.商標登録とは?
1-1.商標登録を分かりやすくいうと?
商標登録とは、商品とかサービスを他人の商品等と区別する目的で使用される商標の設定登録により、商標権を生じさせる特許庁の行政処分です。
商標登録制度とは何か
商標登録制度を最初に解説します。
特許庁に権利取得の出願を行い、審査に合格した後、登録手続により商標権が発生します。出願から審査を経て商標権を発生させる登録設定の正式な行政処分が商標登録です。
商標登録は、商標権を発生させる行政処分なんだね!
そうだよ。ちなみに「登録商標」は特許庁に登録されて商標権が発生している商標のことだよ。
商標の種類
商標の種類としては文字・図形・記号・色彩の一つひとつやこれらの組み合わせ等の平面のもの、立体的形状、音声やホログラム等があります。
商標には基本的に言葉として認識できる文字だけでなく、目で見て認識できるもの、音や動きの商標など、人間の知覚を通して認識可能なものが入ります。
図形商標
図形商標と聞けばどのようなものを連想しますか?
有名なものとしては、クロネコヤマトの宅急便のクロネコの図形、ナイキのレの形の図形等があります。図形商標には文字情報がなくても、一発でどこの商標かを視覚的に知らせる効力があります。
役務商標
平成4年までは商品を対象とする商標はありましたが、役務を対象とする商標は日本では制度としてありませんでした。
平成4年以降は商品商標(トレードマーク、Trade Markから”TM”と略されます)に加えて、役務商標(サービスマーク、Service Markから”SM”と略されます)も登録が認められるようになりました。
役務商標は、例えば、スーパー銭湯等の入浴施設の提供業務とか、レストラン等の飲食物の提供業務等、サービスに使うものです。
標章とは
文字・図形・記号・色彩・立体商標等のそれぞれが標章です。
商標(しょうひょう)と標章(ひょうしょう)の違いは何かと疑問に思う人が多いと思います。
標章とは、商標を形成する要素です。
商標を最終製品に例えると、標章は一つひとつの部品です。基本的に単独の標章や複数の標章が集まって商標ができます。
最終製品と部品とを同じ名前で呼ぶと混乱が生じますので、商標法では”商標”と”標章”とを違う言葉で表します。
願書に記載する商標は文字のみでも、文字情報のないロゴマークだけでも問題ありません。また文字とマークとを合体したロゴ商標も認められます。
標章は文字や図形などの要素なんだね!
標章を商品や役務等の業務に使ったものが商標なんだ。
「標章」は部品で、「商標」は完成品、ということ?
部品と完成品を同じ言葉で呼ぶと混乱するから、「標章」と「商標」の言葉を使い分けているんだ。
商標の事例紹介
商標の例は、中小企業や企業の会社名、ブランド名等のビジネスに用いられるネーミング等が代表的です。
下記の各商標は有名な商標の具体例です。
左上のコカ・コーラ社の商標の様に、文字の字体をデザイン化した商標(ザ コカ・コーラ カンパニー社の出願商標、特許庁で公開された商標公開公報から引用)、
右上のベンツマークのように文字情報を含まない、記号だけから構成される商標(ダイムラー・アクチェンゲゼルシャフト社の登録商標、特許庁で公開された商標公報から引用)、
左下のくまモンの様にキャラクター図形だけの商標(熊本県の登録商標、特許庁で公開された商標公報から引用)、
右下のピカチュウの様にキャラクター図形と文字情報による組み合わせの商標(任天堂社他の登録商標、特許庁で公開された商標公報から引用)等、いずれのケースも商標です。
なお商標権の範囲には同じ読み方の商標も入るから、基本的にひらがな、カタカナ、アルファベット等の読み方の違うパターンの全てを権利申請する必要はありません。
文字商標のデザインが特にないケースでは標準文字と呼ばれる、特許庁が備える文字による商標登録出願も選べます。
ピカチュウやくまモンも商標登録されているんだね!
商標とは
また商標とは、事業を行う者が同業者がビジネスで扱う商品とかサービスから、自己の商品とかサービスを他社の商品とかサービスとは違うことを消費者に知らせる目的で使われる営業上の識別標識をいいます。
消費者が商品の購入を検討するときに、同様な商品群の中から自社の商品を選び出す手がかりになる役割を果たすものが商標なのだ。このようにご理解ください。
商品や商品の包装に商標が付いていると、商品や役務がどこにある会社の提供か、どこにいる個人の提供かの出所を知らせる効果があります。
商標が有名になると、商標が付いた商品をこれまで使った経験とか知識から、その商品がどの程度の品質を持つのかを消費者が簡単に認識できる効果があります。
消費者は商標の付いている商品を安心して選択可能になります。
出所表示に利用されるものを商標と呼び、他社の商品を消費者が誤って買うことを防止し、自己の商品だけを消費者に選択させる目的で利用されます。
なお商標は商品の包装に貼っても、商品そのものに直接表示しても有効です。
ざっくり例えていうなら、商標は自己の商品・役務の目印となる「名前」です。
商品の名前の場合であれば、特定の商品を他の商品から区別できることが特許庁の審査通過の条件です。
例えば「お米」との「特徴のない説明語句」ではどのブランドのお米を買ってくればよいのか分かりません。
「コシヒカリ」とか「ユメピリカ」との特徴がある名前の目印があれば簡単に購入するお米を特定することができます。
また例えば「電車の写真を撮ってきて」と言われても、電車という「特徴のない一般的な説明語句」ではどの電車の写真を撮ればよいのか分かりません。
「のぞみ」との特徴のある名称であれば、これを目印として写真を撮る電車を簡単に特定することができます。
上記の例のように、需要者が期待するものを特定する手がかりになる識別標識が商標です。
商標は「説明語句(多くはカテゴリー分類名)だけの、特徴がない商品名」とは違うのです。
商標は、いわば名前なんだね!
そうだよ。商品の内容説明や説明語句とは違うよ。
商品・役務の指定とは
商標登録には、申請する商標に加え、その商標の使用対象となる商品やサービスとを選択します。
商標が表示される商品とかサービスは、権利申請の願書の指定商品、指定役務の欄に書きます。
これらの指定商品や指定役務は、業種ごとに第1類から第45類までの45個の区分の一覧に商標法上分類されていて、一覧の中より該当する区分を選択して願書に書きます。
商売の際に実際に取引の対象となる指定商品としては、例えば、化粧品、パソコン、スマホアプリ、自動車、文房具、書籍、アクセサリー、かばん、衣服、靴、家具、おもちゃ、運動具、食品、酒類等の商品が商標分類の第1類から第34類に規定されています。
また、業務対象の指定役務(サービス)について、例えば、広告業、人材紹介、金融、不動産売買、建築、通信、レンタカー、引越、旅行、コンサル、学習塾、レンタルサーバ、飲食サービス、宿泊業、美容、エステ、整体、医療、冠婚葬祭サービス等の業種毎の役務が商標分類の第35類から第45類に規定されています。
もちろんこれらは一般的な代表例であり、実際には非常に多くの業種の分類の細かい規定があります。
商標だけを登録することはできないの?
商標登録の際には、必ず商標を使用する商品や役務を選ぶ必要があるんだ
1-2.商標権の付与
商標権は、特許庁に商標登録の手続を実施し、審査に合格した後、登録手続により正式に発生します。
登録商標とは
商標権は、特許庁に商標登録の手続を実施し、審査に合格してから、登録手続を経て正式に生じます。
登録商標とは
商標登録された商標を、登録商標といいます(商標法第2条第5項)。
商標権の内容は特許庁で管理されている商標原簿に正式に登録されています。原簿に登録のある内容が商標権の正式な中身です。
特許庁に実際に登録が済んで商標権が発生した登録後の商標そのものを登録商標と呼びます。
商標と登録商標との違いとは
商標と登録商標との違いは、商標には登録商標が含まれることから、商標が上位概念、登録商標が下位概念との関係にあります。
一般に商標は、商標権の発生済みのものも未発生のものも含み、登録商標は商標権の発生済みのもののみをいいます。
商標は商標権が発生しているものも発生していないものも含むのに対して、登録商標は商標権が発生しているものだけをいうんだね!
商標権者は何ができる?
この登録商標を、登録設定の範囲で使用可能なのは登録を受けた商標権者だけです。
また商標権の範囲には、登録を受けた商標そのものの他に、登録商標の類似商標も入ります。
権利者が許可すれば他人は登録商標を使用することができますが、あなたに無断で使用することは禁止されます。このため、商標登録すれば他人が関与する商標の許可なしの使用を権利者は防止・排除可能です。
具体的には差し止めや損害賠償請求が可能になります。
商標権が生じるには、特許庁へ商標登録申請したのが大前提です。
行政処分である商標登録があってはじめて商標権者になれます。
どれだけ有名な商標であっても、他の誰かが使う前から使っていた実績があったとしても、商標を特許庁へ未出願なら商標権者にはなれないです。
誰よりも先に特許庁へ権利確保のための商標登録出願を完了することにより商標権者の地位が得られます。
また他人の商標権に抵触する商標は、特許庁の審査を通過できません。
商標登録を済ませて商標権を得た後に、登録商標の登録を保持している間は、その登録商標を使ったとしても、他人の権利者より商標権侵害を理由に提訴されるのを防止可能です。
特許庁に権利申請しなければ商標権者になれないんだね。
商標登録を済ませておけば、他人から登録商標の権利範囲内の使用で訴えられることは防止できるよ。
1-3.海外の商標権の付与
海外で商標権を取るには、外国毎に審査を受けることが要求されます。実務では直接国ごとに出願するか、国際条約により統一された手続きにより実際に出願します。マドプロと言われる、国際条約のマドリッドプロトコルによるケースであっても審査は外国ごと、領域(欧州など)毎です。
米国などで商標権を受けるには特許事務所を通じて米国の専門家に発注します。海外で商標登録するケースでは、世界的に通用するブランド名を考えて、戦略的に国際社会で通用する企業のブランドを検討します。
日本の商標登録の効力は日本国内だけなの?
日本の法律の効力が及ぶのは国内だけだからね。外国で権利が必要なら各国で権利化が必要になるんだ。
1-4.商標登録制度の歴史
日本の商標登録制度運用が始まったのは特許法、意匠法等の関連する知的財産権の法律の運用開始よりも早いです。
明治17年施行に、条例の商標条例によりスタートしました。明治時代に他者の商標の模倣を禁止可能になったのです。
知的財産権の権利を守る仕組みとして、商標条例は特許や意匠等の産業財産権関連法よりも先に開始されました。
現在では商標の使用の定義の中に電磁的方法により映像に商標を表示したケースも商標の使用に定義される等、商標登録制度発足時から変化した部分もあります。
しかし明治時代の最初の条例の時点から登録主義、先願主義、更新制度、類別などの現在の商標法の基本枠組みは準備されていました。
徳川時代が終了した大政奉還から20年足らずで一般的なブランド保護制度が制定され運営されてきたことに驚きませんか。
商標制度の歴史は130年以上あるんだね!
2.商標登録の目的
2-1.商標登録の目的
(1)第三者による商標の無断使用を防ぐことができます
商標登録により、第三者による商標の無断使用を防止・排除できます。登録商標を使えるのは商標権者だけです。
仮に第三者が無断で商標権に抵触する形で商標を使ったケースでは、その第三者による商標の使用を止めさせる差止請求を行えます。また、無断で商標を使用している第三者に、過去の使用による損害賠償請求できます。
これらの差止請求や損害賠償請求は民事的救済措置と呼ばれ、裁判所に提訴して、訴えが認められた場合には民事的救済措置を受けることができます。
さらに民事的救済措置に加えて、商標権侵害事例が悪質な場合には刑事的救済措置も受けることができます。商標権を侵害した者は、懲役10年以下、個人の場合は1000万円以下の罰金、法人の場合は3億円以下の罰金が課せられる場合があります。
商標権侵害で懲役10年以下、罰金3億円以下!
商標権を侵害すると、警察に逮捕されることもあるよ。
(2)第三者から商標権侵害で訴えられることを防ぐことができます
先に説明した通り、他人の商標権を侵害する商標は特許庁の審査を通過できません。逆に特許庁の審査を通過できたなら、他人の商標権を侵害していないとの国によるお墨付きがもらえます。これにより商標登録を完了すれば、他人から商標権侵害で訴えられないか、との心配をする必要もありません。
商標権を侵害するか否かの判断は、当事者は互いに自分に有利なように判断してしまいがちです。このため商標権を侵害する程度に似ているかどうかの当事者同士の話合いは互いに譲らないため結論がでない場合が多くあります。
これに対して特許庁の判断はどちらの当事者とも利害関係のない、いわばレフリーの判断としての意味を持ちますので、当事者の判断よりは比較的公平な判断がなされます。この中立の立場の特許庁の判断には従う、という当事者は意外と多いものです。このため、商標登録をしておけば、商標権侵害を巡る当事者同士の不要な争いを防ぐことができます。
(3)他人に商標を盗られてしまうのを防ぐことができます
盲点になりやすいのですが、商標権者になれるのは、先に商標を使った者ではないのです。先に実際に特許庁に商標登録出願の手続を完了した者が商標権者になります。
先に商標登録を済ませておけば、同じ商標について他人が商標権を取得してしまうことを防ぐことができます。
(4)商標ライセンスにより収益を挙げることができます
商標権というと分かりにくい権利のように感じるでしょう。
けれど商標権は土地の権利と同じ性質があります。駐車スペースを他人に貸して月極駐車料を受け取るのと同様に、登録商標の使用の許可と引き替えに登録商標の使用権としてライセンス料を受け取ることもできます。
実際、当事務所のお客さまの中にも、商標権のライセンス料だけで生活費の全てを賄っている方もいらっしゃいます。
(5)商標権を売却して収益を挙げることができます
商標権は第三者に合法的に権利移転することができます。この商標権の移転手続を有償で行うことにより、事実上、商標権を売買することができます。実際に数千万円から数億円規模で売買される商標権もあります。
例えば、コカコーラやユニクロやセブンイレブンの商標権は、いくらなら譲って貰えるか、想像すればお分かり頂けるのではないでしょうか。
商標権のケースはいくらで売却しなさい、との法律上のしばりは一切ありません。オークションの原理と同じで、欲しいという人があれば商標権の価値は天井知らずに伸びていきます。
ちなみにコカコーラやユニクロやセブンイレブンの商標権でさえも事業のスタート時点ではそれらの価値はゼロでした。事業のスタート時点では創業者以外誰もコカコーラやユニクロやセブンイレブンの重要性を知らなかったからです。
ところが現在はどうでしょうか。
商標登録の意味は、実は、事業開始の時点では分かりにくいものになっています。何故なら事業のスタート時点では商標に価値がないので、そもそも価値がないものを保護する意味がぴんとこないからです。
商標登録の意味は、親の意見や冷や酒と同じく、後になってからじわじわ実感できるようになります。
2-2.商標登録をしていなかった場合のデメリット
商標登録をしていなかったケースのデメリットは、こちらの商標を他人に奪われることです。
ほとんどの国で、先に商標を特許庁へ申請手続きした人が権利者の地位を得る制度が採択されています。このため、商標登録せずに放置していた場合、当方の商標を誰かに横取りされます。
他人に当方の商標を横取りされると、現在使用している商標を差し止められて使用できなくなることだけが問題になるのではありません。
こちらが苦労して集めたお客さまからの信用・信頼を根こそぎ奪われる点が問題なのです。
ちなみに商標の使用開始時点で問題となる商標が存在しなかった場合でも、商標登録していないなら、後になって商標を使用できなくなるケースもあります。
こちらが商標を使用し始めていたことを知った第三者が無断で特許庁に商標登録出願をしたとします。そうすると形式的には、その無断で商標登録出願をした第三者が、正当な商標権者になってしまいます。
商品の販売開始時やサービスの提供開始時には、それぞれの商品やサービスについてのネーミング、つまり商標を決定しておく必要があります。ところが事業の初期時点では商標登録をする意味がよく分からないために、商標登録を失念している場合があります。
業者によるピコ太郎のPPAP商標横取り問題が生じたように、悪徳業者はこちらが商標登録をしていないことをいいことに、無断で商標を横取りする目的でこちらの商標を特許庁に出願してきます。
商標権は売買できるので、財産と同じように売り抜けることができるからです。
特許庁では実際にされた商標登録出願が横取り目的でされているかどうかは調べようがない場合が多いです。
また出願人に「この出願は他人の商標を横取りしたものではないか」、と審査官が仮に悪徳業者に問いただしたとしても、悪徳業者は知らぬ存ぜぬを貫き通すばかりか、「自分こそが横取りされている」、と審査官に申し開きをする可能性もあります。
また中国などでは大企業だけでなく、中小企業や個人の商標出願が盛んです。日本の商標が無断で横取り出願されることも報道記事であなたもご覧になった経験があると思います。
第三者からの商標の横取り出願を防ぐ唯一の方法は、自分の商標が他人に横取りされる以前に、先に特許庁に商標登録の手続を済ませる点にあります。
先願主義の制度が採用されているため、商標登録は先手必勝です。
後手を引けば、最終的に商標をこちらの手元に取り戻すことができたとしても、時間とお金が必ず掛かります。また先に商標登録を済ませておけば、いやな想いをする必要もなくなります。
商標登録を済ませていないと、他人に商標を先取りされる?
商標登録は申請の早い者勝ち。先手必勝の制度なので出遅れないようにしなければ!
2-3.注意点
(1)商標権の効力は、指定商品・指定役務と類似までカバーします
商標権の範囲が、登録された指定商品や指定役務までカバーすることはほぼ全ての人が理解していると思います。
反面、指定商品や指定役務に類似する商品や役務に対して商標権の効力が働くのを忘れるべきではないです。
例えば指定商品が「せっけん類」であった場合、登録商標を商品「シャンプー」について第三者が無断で使用すると権利侵害になります。「せっけん自体とシャンプーはそれぞれ固体と液体で、全然違うじゃないか」、といってもダメです。せっけん類とシャンプーとは、商標法上は類似するものとして扱われるからです。
また例えば指定商品が「電気通信機械器具」であった場合、登録商標を商品「デジタルカメラ」について第三者が無断で使用すると権利侵害になります。「デジタルカメラ自体には通信機能は付いていない」、といってもダメです。電気通信機械器具とデジタルカメラとは、商標法上は類似の範囲に入るためです。
商標権の範囲は、指定商品・指定役務に似た商品・役務も含むんだね。
(2)指定商品・指定役務と関係のない商品・役務には商標権の効力は及びません
商標権の効力は、商標登録の際の指定商品や指定役務の似た範囲も入るのですが、商標登録の際に指定しなかった関係のない商品や役務の商標の使用までは商標権の範囲に入りません。
仮に指定商品を「化粧品」にして商標登録した場合、化粧品とは関係のない文房具は商標権の効力範囲に入りません。もし文房具にまで商標権の効力を及ぼす必要があるなら、商標登録の出願の際に、指定商品として「化粧品」に加えて、「文房具」を記載しておく必要があります。
仮に希望する指定商品や指定役務に本当は取得すべきなのに取得漏れが残ったケースでは、第三者に空いた部分を押さえられなければ後になって商標登録可能なケースもあります。もし抜けがあったことに気付いた場合は、追加の申請により抜けを防ぎます。
指定商品や指定役務に記載漏れがあると、商標権に穴ができるから注意が必要だね。
3.商標登録の流れ
3-1.出願前の準備
まずは商標の検索と調査です。特許庁への商標登録の出願に挑戦しても、同じような商標が先に登録されているケースでは、後追いでは審査を通過できません。
商標の検索と調査の際に、商標のみを指定せず、その商標を使う対象の商品や役務を指定して調べるのです。
商標登録の際には「この商品・役務が商標登録されない商標なら、商標登録の価値がない」と感じる商品とか役務はありませんか。この商品・役務を特定して調べます。
商標の調査検索の際には、必要不可欠な商品・役務を特定して調査検索することが大切です。
商標の検索と調査が終了したら、特許庁に提出する商標登録出願の願書を作ります。
願書は書類にまとめます。願書の作成方法は商標法および商標法施行規則に細かく規定されていますので、法律に規定に従って作成します。
願書の項目の中には、特許庁に願書を提出した後には追加変更記載ができないものがありますので、抜けがないか慎重に見直します。
商標関連の記載とは別に会社の住所や名称を書き入れます。
特許庁の受理後は商標等の改変ができませんので、事前に専門家がチェックすると安心できます。
特許庁に願書を提出した後は、内容の追加変更ができないので、事前に専門家にチェックしてもらえば安心!
3-2.出願審査
特許庁に商標登録出願の申請が完結すれば、出願番号が与えられます。願書を受理した特許庁では、願書が法律に定める形式的な要件を満たしているか否かの方式チェックが行われます。
願書の記入事項に間違いがあるなら特許庁から補正するよう命令がきますので、命令がきたら指定された期日までに対応します。
特許庁で願書の方式チェックが終わると、審査官が審査に着手するまで審査待機の状態になります。
毎年特許庁へ年間10万件前後の商標登録出願があって、これら全てを東京・虎ノ門にある特許庁の一カ所で全部をみています。
あなたの出願の前に処理しなければならない出願の束が数万件あり、この山積みされた出願の束が処理されてはじめて、あなたの商標登録出願の願書が特許庁の審査官の机に到達します。
日本では2023年1月から8月までの時点で商標公報が発行された約8万件の商標権についての商標登録出願から登録までの期間は、6ヶ月が最頻値です。
商標の出願から登録までの期間
【令和5年度版】出願日から、商標権が発生するまでの期間を示すグラフ
2023年1月から8月までの時点で商標公報が発行された約8万件の商標権については中央地は半年程度だよ。データには登録されなかったものが含まれていないので注意してね。
3-3.登録
審査を突破すれば、特許庁から登録査定がきます。
ここで登録査定以降の手続を入学試験に例えると、登録査定とは、入学試験の合格通知です。
ただし、合格通知をもらっただけでは入学することができません。別途、入学のための手続と入学金の支払が必要です。
特許庁における商標登録の手続も同様です。登録査定がきたら、特許庁から指定のあった期間を過ぎる前に登録料の支払いと登録手続を完結させます。
これらの手続が終わると、特許庁の内部で、設定の登録が実施されます。
特許庁による登録手続完了に伴い商標権が生じます。
登録手続を特許庁にしてから、一ヶ月程度で特許庁から登録証が送られてきます。
商標登録証が届いて、一連の商標登録の流れが終わります。
登録証が手元に届いて、一連の流れが完了するんだね。
3-4.更新
商標権は、商標権が存続期間の満了により消滅する前に、特許庁に更新登録申請すれば権利をまた更新できます。これは自動車の運転免許の更新の場合と同じで、最初の一回は試験を受けるのですが、試験に合格した後は、10年毎の更新登録申請を忘れなければ権利を存続可能です。
なお、10年分の登録料の支払いを5年毎の二回払いの料金に分割した場合には、5年の期間経過前に登録料の料金納付があります。
更新登録申請や分割分の登録料の支払いを忘れると権利が失効しますので、注意が必要です。
自動車の運転免許制度と同じで、更新手続により商標権の存続期間を延長できるよ。
3-5.審査で拒否されたら
審査の結果、商標法に規定する審査に合格できない理由を審査官が見つけると、こちらにその理由を通知して指定された期間内に意見を述べるよう指令がきます。この指令通知のことを拒絶理由通知といいます。
審査官の指令に対しては、意見書を出して反論できます。
意見書により全部の拒絶理由が無くなれば審査通過、つまり登録査定です。
3-6.意見書を提出して拒絶理由が解消しないと
審査官の拒絶理由に対して意見書により反論したのに、審査官から指摘された拒絶理由通知のうち、解消されていない拒絶理由が一つでも解消されていないと、拒絶査定となって審査が終わります。
拒絶査定を受けた場合、別途特許庁に対して不服申立が可能です。これを拒絶査定不服審判と呼び、通常の訴訟の東京地裁による第一審に相当する準司法手続により審判が行われます。
今度は審査官ではなく、審判官が不服内容を調べます。そして審査官の判断に誤りがあった場合には拒絶査定を取り消す登録審決が言い渡されます。
逆に拒絶査定不服審判において拒絶理由が一つでも解消されないままでは、拒絶査定を維持した拒絶審決が言い渡されます。
拒絶査定不服審判で請求が認められなかった場合には、知財高裁に拒絶審決の取り消しを求めて訴えを起こすことができます。この訴えのことを審決取消訴訟といいます。さらに知財高裁における審決取消訴訟で敗訴した場合には最高裁に提訴することも可能です。
拒絶査定になった場合、拒絶査定不服審判を請求する方法の外にも、拒絶査定になった理由を取り除いてから、また新たな出願から始める方法も採れます。
4.商標登録の費用
4-1.調査費
調査費は、弁理士が調査を行う際の費用になります。商標出願を望む商標が登録できるかを調べる調査は、有料の対応により料金請求のくる特許事務所と、無料により検索調査が可能な特許事務所があります。
商標調査費で、無料との宣伝広告の表記があったとしても、その表記をうのみにせず、後になって調査費用や関連する料金が請求されるケースの有無を調べます。
油断していると「最初の1件のみが無料」とか「先着3名様に限り無料」とか、小さく表記されている場合があるかも知れないからです。
ファーイースト国際特許事務所では、商標調査は回数に依存することなく費用ゼロです。
調査内容が否定的なケースでも、出願の意味がないのに調査費用が発生することはありません。出願のスタート地点に立つ前に調査費用が要求されるなら、それは無料とは異なります。
4-2.出願費
出願費は、特許庁へ商標登録出願にかかる料金です。
出願費用には、特許庁に収める印紙代と、特許事務所に支払う手数料との二つがあります。
商標登録出願の願書を作り特許庁に提出する際に、願書に特許印紙を貼る必要があります。特許印紙代は特許庁に支払う費用で、この特許印紙代は、自分で出願しても、特許事務所が出願しても同じになります。
また特許事務所に支払う手数料は、特許事務所同士で同じではありません。
特許事務所の費用の注意点は、「手数料の請求とは別に、手数料とは項目名を変えた請求の有無」です。
例を挙げると、他業者と較べて格安の費用を見せておき、実際の請求においては、表示した手数料に加えて、図面調整料、電子出願料、出願管理料等(この名目は多種多様です)の費用が後付けで請求されて総額が膨らむ場合があります。
また、審査に合格できない場合には手数料を返金するとしてお客さまを集めておきながら、いざ出願する段階になると、「あなたの場合は手数料返金保証の対象外です」と一方的に通告してきます。
ファーイースト国際特許事務所は、手数料とは名目を変えた後付けの課金操作は一切行っていません。
また、審査に合格できないなら、例外なく出願手数料を返金しています。
4-3.審査対応費
審査対応費は、特許庁の審査結果に対処する費用です。
特許庁による商標登録出願の審査の結果、審査を通過させるべきではないと審査官が判断すれば、意見書を提出して釈明するよう指令がきます。この指令のことを拒絶理由通知といいます。
この拒絶理由通知に対応するために、特許事務所側に支払う審査対応費が一般に発生します。この対応手数料は特許事務所によってまちまちです。
審査対応費の注意点としては、「¥10,000- 〜」といったように、上限が示されていないときとか、審査対応費を事前にいってくれないときでは業務を依頼するのは避けます。本当に10万円、20万円の請求が後からくることがあります。
特に審査対応費はどこまで請求されることがあるのか、忘れず前もって見ます。
さらに拒絶理由通知に対処したのに、最終的に審査を突破するに至らないケースも生じます。そういったケースでは審査対応費は返金されるのか、前もってみます。
ファーイースト国際特許事務所では、審査突破が失敗したケースは、審査対応費の返金があります。
4-4.登録費
登録費は、特許庁に登録手続をする際に要する料金です。登録費は、特許庁に納入する印紙代と、特許事務所に支払う手数料との二つです。
商標登録の審査突破して、特許庁に登録料を払うと設定登録と共に商標権の発生となります。
登録の際の特許印紙代は特許庁に払う費用で、特許印紙代は、どの特許事務所でも同じです。
しかし特許事務所に払う登録時の料金は、特許事務所同士で同じではありません。
特許事務所の登録費の支払の際に、出願費と登録費を分けている特許事務所の方が安全です。
登録時の手数料は要りません、と広告のある特許事務所ですと、審査突破後に登録しないケースで支払う特許事務所手数料が最終的に割高です。
出願時の特許事務所手数料と登録時の特許事務所手数料が出願時に合算されて請求された場合、事情があって登録を取りやめると、結果的に出願時の特許事務所手数料と登録時の特許事務所手数料の合算額が登録しないにもかかわらず請求されることになるからです。
また登録費の特許庁印紙代は通常10年分一括で支払いますが、5年分に分けて払うこともできます。
登録日の10年後に更新したなら、また商標権の存続期間を更新できます。
10年ごとの更新により、理論上は商標権を半永久的に持つことが可能になります。
4-5.更新登録
更新登録費は、商標権の存続期間を更新するのに必要な費用です。登録費としては、特許庁に支払う印紙代と、特許事務所に支払う手数料との二つがあります。
更新登録の際に収める特許印紙代は特許庁が取るもので、この特許印紙代は、特許事務所同士で変化はないです。
一方、特許事務所に支払う更新登録の手数料は、特許事務所ごとに同じではありません。
更新登録が必要になる10年後に特許事務所が消えてなくなっていては困ります。また弁理士が病気や怪我で入院すると連絡ができなくなる問題が発生します。
10年先のことを見越して、複数の若い商標専門弁理士の在席が確認できる特許事務所を選ぶようにしましょう。
ファーイースト国際特許事務所では、無料で商標を検索調査してくれるよ。
審査に不合格の場合は、ファーイースト国際特許事務所の手取りはゼロ、なんだって。
5.商標登録の確認・検索方法
5-1.J-PlatPatとは?
J-PlatPatとは、特許庁の特許情報プラットフォームのことです。
J-PlatPatは特許庁の管轄下、独立行政法人工業所有権情報・研修館が運営しています。
ネットで誰もが無料によりアクセス可能で、無料で特許庁のデータを検索可能です。
J-PlatPatの画面上部のヘルプデスクに電話して問い合わせると無料で相談可能で、使い方の詳細について教えてもらえます。
J-PlatPatを使用することにより、気軽に登録済みの商標を検索、検討可能です。
商標登録出願のあった内容は、一律に出願公開されます。この審査を通過していない商標がJ-PlatPatの結果表示に合算されます。
検索結果のリストにある商標全てが商標権ではないです。
無料で商標登録の検索・調査の確認ができるよ!
5-2.種類
特許・実用新案
J-PlatPatの特許情報プラットフォームを使えば、特許権や実用新案権も気軽に検索可能です。
J-PlatPatには平成のデータに加えて、昭和時代のデータも格納されているので、適切なキーワードを使ってこれまで発表された発明を検索することができます。
意匠
意匠とは物品のデザインのことをいい、商標とは別の意匠法により保護されます。この意匠権についてもJ-PlatPatで検索可能です。
ただ意匠の場合は、審査に合格して登録になったデザインしか公開されないので、審査を通過していない意匠は検索できません。
商標
J-PlatPatの特許情報プラットフォームで、出願中の商標や、審査に合格して登録された商標権を検索可能です。
商標登録出願があると、特許庁の受理後、1〜2週間で出願公開されます。
一方、特許庁のデータベースで検索を試みても、公開された商標登録出願の詳細な内容が検索結果に出てくるまで出願の手続きから1〜2ヶ月程度を要します。
出願公開とは別に、商標出願の内容を検索可能な状態にするために、特許庁の内部でJ-PlatPatのデータベースに組み込む一定の作業が別途必要になるからです。
このため商標を検索しても、相手の商標を検索することができないブラックボックスの期間が存在します。ただ、ブラックボックスの期間があるのは他のみんなも同じで、あなただけがブラックボックス期間の影響を受けるわけではありません。
5-3.J-PlatPatで分かること
インターネットを使ってアクセスできる特許庁のデータベースであるJ-PlatPatを使えば、自社の商標と変わらない、同一の商標を検索できます。加えて同一とはいえない商標、似ている商標も検索可能です。
商標権は同一商標に加えて、似た商標も効力の範囲内です。
こういった事情により商標の検索に同じ商標のみを検討しても足りません。似ている商標まで見なければなりません。
検索結果に表れた商標が自社の商標と似ているか否かは、外観(商標の見た目)、称呼(商標を口ずさんだときの音感)および観念(商標が表す意味合い)を判断要素に、商標全体より総合判断して実施されます。
6.これは商標登録できますか?
6-1.屋号は登録できますか?
屋号も商標登録の対象です。
ただし、屋号を登録する際は、需要者に提供する商品やサービスを特定しなければなりません。例えば、服やかばん類を販売している店なら、服やかばん類を商品に指定して、屋号の登録を行います。
6-2.商号は登録できますか?
商号ももちろん商標登録の対象になります。
商号の場合も屋号と同じで、商標登録の際には需要者に提供する商品やサービスの特定が求められます。
また商号の登録は法務局に対する商号登記とは異なります。商標登録のためには全国に一カ所しかない特許庁に登録申請します。
6-3.氏名は登録できますか?
氏名も商標登録の対象です。
ただし、苗字だけを申請してもありふれた氏として審査に合格できない場合が多いです。また氏名については、同姓同名の許可を特許庁から要求されることもあります。
6-4.普通名称は登録できますか?
普通名称はみんなが使う言葉だから、一般に登録できません。
例外的に、地名と商品の普通名称が合体した、「関さば」や「松坂牛」等は、地域を取りまとめる協同組合等が申請すれば地域団体商標として登録されることもあります。
一方、商品の販売場所とか産地を示す品質表示等の一般名称も登録が認められないです。例えば「東京」とか「大阪」などの産地表示は登録できません。
東京や大阪などの地名であっても、他の言葉と組み合わせると、商標全体では場所や産地の表示とは異なって登録に至るケースもあります。
6-5.国旗は登録できますか?
国旗、国の紋章、国際機関の使っている商標、赤十字マーク、公共機関のマーク等は出願しても審査に合格できません。一個人が後から独占しようとしても認められないことが商標法に規定されています。
6-6.保護対象に制限はありますか?
例えば、公共の利益と対立する、いわゆる公序良俗を乱す商標は、特許庁の審査で落とされます。
例えば差別的な内容の商標や、他人を理由なく中傷するような商標の登録は否定されます。
6-7.登録の終わっていない商標は審査合格の妨げになりますか?
未登録の商標であっても、非常に有名な著名商標や、名前が知られた周知商標と類似する商標は登録できないです。
商品や役務が関係なくても、著名商標と経済活動上なんらかの提携関係にあると需要者が間違ってしまうような商標も審査で弾かれます。
商標の中には登録が制限されているものもあるんだ。
7.商標権が消滅する場合はありますか?
商標権は更新手続を繰り返すことにより、権利を希望するだけ延長することができます。
しかし商標権も未来永劫に権利が続くことを保証されたわけではなく、権利が消滅してしまうケースがあります。
商標権が消滅してしまう場合に、注意が必要だね!
7-1.存続期間の満了
権利期間が満了したのに、更新手続をしないと商標権は消滅します。
- 商標権は自動更新しない
- 特許庁から期間満了のお知らせはこない
上記の点がポイントです。権利が失効しても満了日から半年以内(最大1年)であれば復活できる場合がありますので、権利を失効させたことに気付いたら、直ちに専門家に相談してください。
7-2.会社が倒産し、相続人が不在
商標権者がお亡くなりになる、とか、法人が倒産した場合に、商標権の引き取り手がいなければ、商標権は消滅します。
実務上は、特許庁が商標権者の生存とか法人の倒産を逐一チェックすることはありません。しかし相続人等の権利の承継者がいなければ次回更新時に手続をする人が存在しないので、更新手続はされず商標権が失効します。
7-3.商標権の放棄
商標権者が積極的に特許庁に対して商標権の放棄手続きを行うことにより、商標権を自らの意思で消滅させることもできます。
7-4.商標登録の無効
商標権が適正な法律の手続により発生したとしても、後に利害関係者から無効審判を請求された場合には、商標登録が無効になることがあります。
ただ商標権には除斥期間があり、登録から5年を経過した後は、無効審判の請求は制限されます。
7-5.商標登録の取消
商標登録があっても、第三者が特許庁に何らかの間違いがあったとして、特許庁を相手に異議申立できます。
異議申立が通ると、登録の取り消しがあり、商標権は初めから生じなかったとされてしまいます。
異議申立は商標公報発行より2ヶ月間の制限はあるのですが、期間経過後は無効審判の請求が可能です。
7-6.料金の未払い
特許庁に支払うべき料金を払わなかった場合も商標権が消滅します。権利が失効した後でも半年以内(最大1年)であれば復活できる場合があるのは先に説明した場合と同じです。
7-7.登録商標の不使用
商標権者なら登録商標の使用を求められます。登録商標を国の中で三年に渡って使った活動がなければ、他人より申立があれば、使用がなかったことから商標登録の取り消しがあります。
不使用取消審判請求後にあわてて登録商標を駆け込み使用してもやはり取り消されます。みせかけの活動は通用しないのです。
登録を受けた商標そのものを使用していないと、登録商標と似た商標を使っても登録の取消があります。
ファーイースト国際特許事務所