索 引
商標登録出願の願書には、商標を使用する商品・役務と、その区分を記載します。商標権はマークだけを独占する権利ではなく、登録商標と指定商品・指定役務の組合せを中心に効力が定まります。
同じ区分内にも性質の異なる商品・役務があります。「第3類」「第35類」と区分だけを決めても、必要な権利範囲を確保したことにはなりません。同じ区分の中なら、商品・役務を書き足しても特許庁料金は増えません。反対に、書き忘れた商品・役務は出願後に追加できず、取り直すには別の出願と費用が必要になります。この記事では、願書に何をどこまで書くかを決めるときの考え方をご説明します。
1. 指定商品・指定役務が権利範囲を決める
指定商品は商標を使用する商品、指定役務は商標を使用するサービスです。願書では、内容と範囲が明確に分かるように記載します。審査官は、表示が明確か、正しい区分に記載されているかを商標法6条に基づいて審査します。
表示や区分が不明確・不適切なら拒絶理由が通知されます。また、出願商標を使用しているか、使用予定があるかを確認する必要がある場合は、商標法3条1項柱書に基づく拒絶理由が通知されることがあります。
商品名やサービス名は、社内の呼び方をそのまま転記せず、取引の内容を確認します。例えば、ソフトウェアそのものを提供するのか、ダウンロードできない形で利用させるのか、受託開発を行うのかで、候補となる表示や区分が変わります。
一つの商品名に複数の機能がある場合も、主な用途だけで決めず、販売資料、利用規約、見積書、納品物を見ます。顧客が何を購入し、事業者が何を提供するのかを書き出すと、商品と役務の取り違えを減らせます。
2. 区分を書くだけでは足りない
区分は商品・役務を45類に分類する枠であり、料金計算の単位です。一つの区分を指定しても、その区分に属する商品・役務すべてが自動的に権利範囲へ入るわけではありません。
例えば「化粧品」と「つけづめ」は同じ第3類に属しますが、願書に「化粧品」だけを書いても「つけづめ」を指定したことにはなりません。せっけん類と歯磨き、調理用具と食器類も同じ関係です。反対に、材質や用途によって同種の商品が別の区分へ分かれる場合もあります。
- 区分:分類と料金計算の単位
- 指定商品・指定役務:権利を求める具体的な対象
- 類似群コード:商品・役務の類似関係を調べる手掛かり
特許庁に納める出願料と登録料は区分数を基礎に計算されます。同じ区分の中で商品・役務を書き足しても、区分数が変わらなければ特許庁料金は増えません。区分、表示、類似群コードを別のものとして確認すると、「同じ区分だから含まれる」という記載漏れと、「無料で書けたのに書かなかった」という記載漏れの両方を防ぎやすくなります。
3. 出願後に追加できない範囲と、取り直しの費用
出願後の補正は、願書に最初から記載した指定商品・指定役務の要旨を変えない範囲に限られます。表示を明確にする補正や、指定範囲を削除・減縮する補正が認められる場合はありますが、記載していなかった商品・役務を後から足す補正は、要旨変更として認められません(商標法16条の2)。審査の途中でも、登録の後でも同じです。
必要な商品・役務を落とした場合は、その範囲について新たな出願をやり直すことになります。現行料金では、1区分の出願から10年分の登録までの特許庁印紙代だけで44,900円かかり、特許事務所に依頼すればその手数料も別にかかります。最初の願書に一行書き加えれば0円だった権利に、後からはこれだけの費用を払うことになります。
新出願には別の出願日が与えられるため、その間に第三者の出願があれば先後関係も変わります。同じ名前で隣の商品を売る競合が先に登録すれば、後から自社がその商品へ展開しようとしたときに、その名前が使えなくなることもあります。料金だけでなく、出願日の違いも記載漏れのリスクです。
一方で、不明確な表示に拒絶理由が出たからといって、直ちに補正不能とは限りません。当初の記載から合理的に理解できる範囲で明確化できるかを、拒絶理由と審査基準に沿って検討します。
4. 記載漏れを防ぐ選定手順
願書を作る前に、名称やロゴを使う場面を事業の流れに沿って洗い出します。商品を製造して販売する事業なら、商品そのもの、オンライン販売、店舗運営、修理、教育、アプリなどを分けて確認します。
- 現在販売・提供している商品と役務を一覧にする
- 発売、採用、契約、開発など使用準備の資料がある計画を分ける
- J-PlatPatの商品・役務名検索で候補表示、区分、類似群コードを調べる
- 特許庁の当年版「類似商品・役務審査基準」と国際分類表を確認する
- 同じ区分の中で無料に含められる隣の商品・役務を書き出し、外すなら外す理由を確認する
- 区分が増える商品・役務は、抜けた場合の事業影響と区分追加の費用を比べる
検索データベースに表示が見つからない商品・役務は、用途、素材、提供方法を表す語へ分解して調べます。採用例のない自由記載を使うときは、内容と範囲が明確に伝わるかを確認します。
願書を提出する前に、願書に記載される弁理士へ「この指定商品・指定役務で漏れはないか」「同じ区分で無料に含められる商品を外した理由は何か」を直接尋ねてください。実際に願書を作った弁理士なら、その場で答えられるはずです。一度願書を提出すると追加はできないため、確認できるのは提出前だけです。
5. 「狭く絞れば安全」ではない
当事務所が特許庁の公報データを調べたところ、せっけん類はあるのに歯磨きがない、調理用具はあるのに食器類がない、というように、同じ区分の隣の商品を入れ忘れた商標権が、2020年を境に一斉に増えています。同じ区分なら特許庁料金が増えない商品が、願書から消えているのです。件数の推移は商標登録の費用ページで解説しています。
個々の出願の事情は公報からは分かりませんが、当事務所は、権利範囲を狭く絞って出願し、そのまま登録まで通す実務が業界に広がった結果と見ています。指定商品を狭くすれば、先行商標と衝突しにくく、拒絶理由通知が来にくいので、早く登録でき、審査対応の費用もかかりません。出願を扱う側にとっても、拒絶査定で費用を回収できない事態を避けられます。狭い権利は、出願を通す側には都合がよいのです。
そのしわ寄せは、入れ忘れに気づいて権利を取り直す段階でお客さまに来ます。「短期間で登録できます」という説明を受けたとき、その速さが権利範囲を削って得たものではないか、その範囲は自分が望んだものかを、一度立ち止まって確かめてください。
不使用取消審判は隣の商品を外す理由にならない
「使わないかもしれない商品まで指定すると、不使用取消審判を請求されるのが心配」という説明を目にすることがあります。不使用取消審判は、継続して3年以上日本国内で使用していない登録商標の取消しを求める制度ですが(商標法50条)、指定商品・指定役務ごとに請求され、商品単位で判断されます。
使っている商品を含めて請求されても、使用の証拠を出せばその商品の権利は維持されます。現に使っている権利が攻撃されたのですから、証拠を出して守るのは当然の対応です。使っていない商品だけが請求された場合は、何もしなければその商品の分だけが取り消され、使っている商品の権利は影響を受けません。答弁しなければ費用もかからず、実害はありません。
使う意思のまったくない商品・役務を手当たり次第に並べることを勧めているのではありません。一つの区分の中で多数の類似群にまたがる広い指定をすると、使用意思の確認を求められることもあります。ただ、それは事業の隣にある商品を一つ加える話とは別です。無料で含められる隣の商品を、取消審判への心配を理由に外すのは、守れたはずの権利を最初から手放す判断です。
他社の願書は参考資料にはなりますが、そのまま写すものではありません。事業内容、使用態様、出願時期が違えば、必要な指定も変わります。選定時の資料は出願後も保存し、事業内容が変わったときは、既存登録で足りるか、新たな出願が必要かを確認します。
6. よくある質問
Q1. 区分を指定すれば、その類の商品すべてを保護できますか?
できません。願書に具体的に記載し、登録された指定商品・指定役務を中心に権利範囲が定まります。
Q2. 出願後に商品・役務を追加できますか?
当初の指定範囲を超える追加は、要旨変更となり認められません。必要な範囲について新たな出願になり、1区分の印紙代だけで44,900円と手数料が別途かかります。
Q3. 同じ区分の隣の商品も入れておくべきですか?
同じ区分なら特許庁料金は増えず、後から足すことはできません。事業の隣にある商品・役務を外すなら、外す積極的な理由があるかを、願書を提出する前に確認してください。
Q4. J-PlatPatにある表示を選べば拒絶されませんか?
表示と区分の問題を減らす助けにはなりますが、商標自体の識別力や先行商標など、ほかの拒絶理由までなくなるわけではありません。
Q5. 使っていない商品を含めると、取消審判で権利全体が消えますか?
消えません。不使用取消審判は指定商品・指定役務ごとに請求され、商品単位で判断されます。使っている商品は使用の証拠で守れますし、使っていない商品だけが請求された場合は、放置してもその部分が取り消されるだけで追加の費用はかかりません。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247
参考資料
- 特許庁「商品・役務を指定する際の御注意」
- 特許庁「指定商品・指定役務を記載する際のよくある間違い及び商品・役務名のQ&A」
- 特許庁「類似商品・役務審査基準〔国際分類第13-2026版対応〕」
- 特許庁「産業財産権関係料金一覧」
- 特許庁「商標登録取消審判」
- e-Gov法令検索「商標法」
商標のことでお困りですか?
商標登録の出願・調査・侵害対応について、
弁理士が無料でご相談に応じます。お気軽にお問い合わせください。
ファーイースト国際特許事務所|弁理士 平野泰弘
