(1)会計処理を始める前に
商標権は基本的に、固定資産のなかで形をもたない無形固定資産とされるため、「資産」として計上しますが、「損金」とできるものもあります。
(1−1)まず、必要な語句を知りましょう
まずは、商標登録にまつわる費用の取り扱いについて把握することが大切です。そのためには、商標の会計を処理するために必要な用語を知っておきましょう。
無形固定資産
固定資産のうち、物的な存在形態をもたない資産を指します。商標権、特許権、著作権などを含む法的権利と、企業の超過収益力を内容とする営業権の2種があります。
減価償却資産
時間の経過などによって価値が減っていく資産を減価償却資産といい、無形固定資産はこれに該当します。資産に計上された後、毎決算期に減価償却によって費用を処理していきます。商標権については、取得から償却までの期間は10年となっています。
取得価額
その物や物件を購入した代価や手数料を指します。
損金
資本などの取引によるものを除いた法人の資産の減少をきたす原価・費用・損失の額とされるものです。
(2)出願から登録までの費用の仕訳は?
商標を登録するまでには、各段階で必要とされる料金があります。これらをどのように会計処理すればよいのかを考えていきましょう。
まず固定資産のなかには、取得価額にしないですむものとして「登録免許税その他登記又は登録のために要する費用」が定められています(法人税基本通達7-3-3の2より)。
このように取得価額に算入せず、損金とできるものを把握しておかないと、税金を必要以上に支払うことになってしまいます。
(2−1)これは取得価額に? 損金に?
では出願から登録までにかかる料金で、どれが取得価額になり、どれが損金となるのか具体的にみていきます。
出願前
- 弁理士に支払う手数料
- 外部デザイナーへの報酬
事前に商標を調査する際の料金として支払います。これは基本的には「取得価額」となります。
ロゴの作成などを依頼した場合の代金です。これも「取得価額」となります。
*ただし、これらは固定資産の「取得価額」に当たるため、10万円以下の費用の場合については、「損金」とすることが可能です(少額減価償却資産として)。また、取得価額に含まれたものは、その後10年間で償却していくことになります。
出願時
- 特許庁へ納付(商標登録出願印紙代)
- 弁理士への手数料
特許庁に支払う印紙代は、「損金」となります。
上記の「登録のために要する費用」に当たるため、「損金」となります。
拒絶査定時
- 弁理士への手数料
拒絶理由通知に対する意見書、補正書などの作成・提出の料金は「損金」となります。
登録時
- 特許庁へ納付(商標登録印紙代)
商標登録料金の支払いには分割納付(5年分)と一括納付(10年分)がありますが、いずれも登録印紙代は「損金」となります。
- 弁理士への手数料・成功時の報酬
これは金額によっては「取得価額」として資産計上したほうがよい場合もありますが、少額減価償却資産に該当するケースが多くなっています。その場合は「損金」となります。
更新時
- 特許庁へ納付(更新登録印紙代)
- 弁理士への手数料
こちらも「損金」となります。
印紙代のため、「損金」となります。
(3)ライセンス契約した場合などの使用料の仕訳について
(3−1)親会社が商標権を得て、関連会社が商標権の利用料を払うとき
親会社の仕訳は、得た商標権を「無形固定資産」として、定額法による減価償却を10年間で行うことになります。
関連会社の仕訳は、親会社に支払う利用料について、その利用料の支払いが1年以上に及ぶ場合には「繰延資産」とします。そして特別な定めがない場合には、3年間という使用契約期間で償却していきます。
また、使用料をある一定の期間、費用として毎月支払うものの場合には、その支払時の「損金」とすることもできます。
さらに、共同で親会社と関連各社が商標権を取得するようなケースでは、それぞれが負担する額を取得価額とし、各々が「無形固定資産」となります。そして減価償却を10年間の定額法で行います。
(4)まとめ
費用の仕訳というと難しい印象があるかもしれませんが、1つずつひも解いていけば、理解しやすいのではないでしょうか。
もちろん込み入った状況であれば、個々のケースに合わせて会計や税の専門家に相談することも必要です。
適切に処理し、これからもあなたの商標を大切に守り続けてください。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247