はじめに
ビジネスをネットの仮想店舗やリアルの実店舗で始め、事業が軌道に乗り始めると、様々な問題に直面することになります。その中でも特に困難な問題の一つが、他社からの模倣や盗用です。競争相手からの模倣や盗用をどう防げば良いのか、悩んでいる企業も少なくないでしょう。そこで今回は、事業を運営する際に最低限押さえておきたい防御策について取り上げます。
索引
1.ホームページの模倣防止対策
ビジネスを行う上で、ライバルの存在を認識しない企業などありません。全ての事業者は、競合他社の弱みと強みを把握し、それを元に自社の強みを最大限に活用することが求められます。
ウェブサイトを開発する担当者もまた、他社のウェブサイトの内容に影響を受けることが避けられません。競合他社の調査を通じて、他社の情報に影響を受けているのです。ウェブサイトの開発者が意図していなくても、作成したウェブサイトの内容が他社のものと酷似している、という事態は実際に起こり得ます。
つまり、あなたのサイトは、意図的であろうがなかろうが、他社からの模倣や盗用の対象になっているのが現実です。
では、自社のウェブサイトを他社からの模倣や盗用から守るために、何ができるのでしょうか。
(1)独自で優れたコンテンツを作り上げ、競争相手を追い越す
自社のお客様へ、独自で質の高いコンテンツを継続的に提供すること。これがウェブサイトの模倣対策における最初の一歩と言えるでしょう。
質の高いオリジナルコンテンツをお客様に提供するものの、それが競争相手に模倣されることで意味がないと感じているのではないでしょうか?
私は異なる視点から考えています。模倣されることを想定し、それでも質の高いオリジナルコンテンツを大量に提供し続けるべきだと考えています。
模倣や盗用を行う企業は、自らが大量の優れたオリジナルコンテンツを継続的に提供できないからこそ、そのような行動に出るのです。もし彼らがそれを可能にできるなら、模倣や盗用の必要性は生じません。
模倣や盗用は手っ取り早く楽を求める行為です。
しかし、コンテンツの世界は巧妙にできており、大量の質の高いオリジナルコンテンツを模倣・盗用したとしても、その内容は必然的に表面的で、浅い理解に基づいたものとなってしまいます。
つまり、模倣や盗用によって表現された内容は、どうしても穴が見えてしまうものとなります。これは、手っ取り早く楽を求め、自身の能力を磨くことを選ばなかった結果です。
その結果、お客様にはあってはならない箇所に欠陥が見つかります。
ウェブサイトを閲覧するお客様にとっては、あなたが一生懸命に表現した内容は他社に模倣されるかもしれません。しかし、あなたの真心から来る熱意までは模倣することはできません。
模倣や盗用を行う側が本当の悪人になりきることができれば良いのですが、完全に悪人となることができないため、模倣や盗用した内容はどうしても中途半端な表現になります。鋭い洞察力を持つお客様が、そのようないい加減な表現を許容するでしょうか。
ウェブサイトの美点は、質の高いオリジナルコンテンツを提供することで、それがインターネット空間上に資産として蓄積されていく点です。
インターネットの検索エンジンで調べてみると、大量の質の高いオリジナルコンテンツを継続的に提供したウェブサイトが、検索結果に容易に上位表示されます。
つまり、お客様が見つけやすいウェブサイトになるのです。
可能であれば、競争相手が自社のウェブサイトを見たときに、その規模と質に圧倒されるほどのコンテンツを揃えることに注力しましょう。歴史的にも、大量のリソースを持つ側が長期戦になるほど有利となることが分かっています。
(2)一つのページで完全に議論を尽くす
当然ながら、模倣や盗用をする側が、我々のウェブページの内容を単純にコピー&ペーストすることはありません。それを行った場合、ただちに露見するからです。
では、模倣や盗用をする側は何をするでしょうか。彼らは、内容を深く理解した上で、異なる視点から同じ議論を進めてくるのです。
ライバルが我々のサイトの内容を理解し、それを自身の言葉で同じテーマについて語る場合、これは著作権法違反で訴えることはできません。完全に内容をコピーすると著作権法違反になりますが、議論のテーマそのものは著作権により保護されないからです。
何かをテーマに文章を作成する行為は表現の自由であり、我が国の法律では表現の自由が保障されています(憲法第21条)。そのため、他人が文章を作成すること自体を禁止する手段は、現行の日本の法制度では基本的に存在しません。
このような事情を踏まえると、他社による模倣を完全に排除することは難しいですが、模倣や盗用をする側が模倣の意欲を失わせる、という戦略も有効な対抗策となります。模倣や盗用をする側が我々のサイトを見て、「同じ話題についてこれ以上説明することはないだろう」と感じるほど内容が充実していると効果的です。
つまり、我々のコンテンツを見て模倣する意欲を失わせるほどの内容を用意することが重要、というわけです。
(3)模倣・盗用を未然に防ぐための工夫を行う
後述しますが、我々のウェブページの内容がそのままコピーされると、それは著作権法違反となり、相手を訴えることが可能です。
そこで、我々のコンテンツが無断でコピーされることに備えて、様々な工夫を施します。
画像に透かしが入れる
フォトショップ等の画像編集ツールを活用し、画像に透かしを挿入します。同一色相の背景と組み合わせ、透明度を調整した透かしを画像に埋め込みます。細部まで確認しない限り、透かしの存在は見逃されやすいです。
HTMLやCSSなどのコードに暗号を仕込む
我々のサイトがそのままコピーされた証拠を残すために、HTMLやCSSなどのコード内に暗号を仕込みます。
これは、一見すると意味のあるコードに見えるが、実際にはウェブページに影響を与えず、特定の表現を復号することが可能な暗号を巧妙に組み込むというものです。
コードを見ても内容を理解できないレベルの人が全体をコピーすると、容易に騙すことができます。
ウェブページに意図的に誤記を仕込む
例えば、商標登録に関する記述で、「権原のない第三者が商標権を侵害した場合には(○:正しい表現)」を「権限のない第三者が商標権を侵害した場合には(×:誤った表現)」にしたり、
「商標登録を無効にする(○:正しい表現)」を「商標権を無効にする(×:誤った表現)」にするなどとします。これらは一見しただけでは気づきにくいです。
これらの表現がコピーされた場合、後から検索エンジンで検索するとコピーされた表現がヒットします。
ただし、これを過度に行うと自社の知識レベルが疑われてしまうので注意が必要です。
2. 積極的な模倣・盗用防止のための知的財産権
ここまで述べた対策は個人でも実行できます。これらの対策が完了したら、次に法的拘束力を持つ対抗策の導入を考えます。
競合他社と我々との関係は、社会的には平等です。一方が他方を気に入らなくとも、互いに直接的な指示を出すことはありません。
しかしながら、知的財産権を活用すれば、その権利を侵害する者は法律違反者となり、被害を受けた我々は被害者となります。すなわち、正義は知的財産権を保持する我々の側にあるのです。
(1)特許によるビジネス防衛
発明のアイデアを保全する最善の方法は、現在のところ、それを特許で守ることです。これはビジネス界で「ビジネスモデル特許」として認知されています。
ただし、特許により保護される発明は、基本的には技術面における革新的なアイデアのみとなります。アルバイトやパートのスタッフ向けの業務手順、頭脳だけで構築される利益創出の仕組み、市販のソフトウェアを利用した業務処理方法などは、特許審査に通る可能性は低いでしょう。
技術的な新規性がない発明は、審査に通過できません。また、他人が容易に思いつく可能性のあるアイデアであっても、審査に通過することは難しいです。
(2)実用新案によるビジネス防衛
現行の実用新案法によれば、特許庁は内容の審査をせず、フォーマットが正しい書類全てを登録します。このため、実用新案の中には無効なものも含まれています。
他社を排除するために実用新案を利用する場合、その実用新案が有効か否かを記載した「実用新案技術評価書」を特許庁から取得する必要があります。
この評価書が問題なく承認されれば、権利行使が可能となります。しかし、そうでない場合、その実用新案は有効とは認められず、権利行使はできません。この評価書を得るレベルは、特許と同様に厳格です。
特許の場合、審査官の指導を受けながら、明細書の内容を修正し特許を取得することが可能です。しかし、実用新案の場合、特許に比べて内容を修正することは難しく、有効な権利を得ることが困難となる場合があります。
特許や実用新案は、あなたのビジネスを一段高く飛躍させる道具です。しかし、ビジネスがまだ固まっていない段階でこれらの手段に頼るのは、単なる資金の浪費となりかねません。私が見てきた限りでは、特許や実用新案を使ってビジネスを有利に進める人は、特許や実用新案がなくても、しっかりとしたビジネスを運営することができる人たちです。
成功したビジネスパーソンがさらに上を目指す際に活用するのが特許や実用新案なのです。まだビジネスの基盤が固まっていない段階でこれらに手を出すのはおすすめしません。それは成功を確保できなければ、結局、費用を無駄にするだけだからです。
(3)ビジネス保護と著作権
著作権とは、一度創作物が生み出された瞬間に生じる権利のことを指します。この権利は文化庁や特許庁への登録手続きなどを行わなくても発生します。
著作権がどのように作用するかと言えば、それは主に著作物の複製に制限を加えることです。
たとえば、ビジネスにおいて利益を生む新たな手法を考え出したとします。その方法を文書に記録した場合、その文書は著作権法によって保護されます。
つまり、第三者が無許可でその文書をコピーすれば、それは著作権法に違反する行為となります。
しかしながら、その文書を読んだ第三者が記述された方法を具体的に実行したとしても、これは著作権の侵害とはならないのです。
なぜなら、著作権が保護するのは「文書の複製」であり、その文書に書かれたアイデアを活用する行為自体は著作権の対象外だからです。
(4)商標権によるビジネス保護
ウェブサイトのタイトル、商品名、ショップ名などは、商標権により保護可能です。これらを商標登録することで、指定された業種に関しては登録された商標の使用は商標権者だけに限られることになります。
商標登録の欠点
自社が商標を登録したとしても、競合他社は名前を一部変更して商標権侵害を回避することが可能です。また、ビジネスが成功しなかった場合、商標登録のためにかかった費用は全て無駄になるリスクもあります。
さらに、商標権は先に使用した者が保持するものではなく、先に特許庁に申請した者が保持する制度となっています。これは、事業が軌道に乗ってから商標登録を考えた際、競合他社に主力商品の商標を登録されてしまう可能性を含んでいます。
商標登録の利点
商標を登録しておけば、自社の商標に対する侵害の可能性がある商標が審査に通過することはありません。これにより、競合から主要な商品の商標を取られるリスクを防ぐことができます。
さらに、他人の権利を侵害する商標は特許庁の審査に合格することができません。従って、商標を登録すれば、少なくとも他人の権利を侵害しないという保証を日本国から受けることができます。
3. 競争対策の注意点
競争力を高めるための重要なポイントは、ライバルより一歩先に出過ぎないことです。例えば、設備投資を倍にしたからといって利益が同じ倍率で上がるとは限らないですし、宣伝広告費を倍にしても、それが利益の倍増につながるかは定かではありません。
一歩ずつ前進しながら調整を続ける、この地道な努力こそが重要です。ライバルを遥かに凌駕するような競争策をとらないことも、賢明な戦略と言えるでしょう。
ある比喩として、エンジンの排気量が小さい車で全力でアクセルを踏み込んでいる状態では、突然の事態に対応しきれない可能性があります。
それに対して、エンジンに余裕がある車では、緊急時にアクセルを深く踏むだけで、速く加速しライバルを追い越すことが可能です。
競争はこれからも絶え間なく続くでしょう。そのため、疲弊しないように、長距離を走り切れる余裕をもって臨むことが大切です。
競争力向上の本質は、顧客に対する我々の一方的な考えを修正することにあります。
競争相手との距離感を理解することで、自社のビジネスの立ち位置が明確になります。ライバルの存在があってこそ、客観的な視点で顧客へのアプローチを見直すことが可能となります。
ライバルは自社の強みと弱みを示してくれる存在なので、彼らを敵視するのではなく、共に成長する存在と捉えるべきです。競争対策を通じて、自社のビジネスが偏見に基づいていないかを確認し、その点を迅速に修正することが求められます。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
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