商標を登録する際、重要なポイントの一つが、自分が登録しようとする商標が、既に存在する他人の商標と同一か、または似ているかどうかです。もし、先に誰かが登録している商標があると、その商標は登録できません。
完全に同じ商標なら判断は簡単ですが、問題はその商標が類似している場合です。
全く同じでなくても、少しでも似ていれば、それは登録を受けられない可能性があります。しかし、その類似度合いの判断は非常に難しく、微妙な違いが重要になってきます。
商標の類否判断は、徐々に変わるグレーゾーンをどのように評価するかにかかっています。実際の業務では、簡単な事例ばかりではなく、多くの場合、その判断が非常に複雑です。審査では決まらず、時には審判やさらに上級の裁判所で争われることもあります。
1. 教科書的な事例を除き、通常は専門家の間でも意見は分かれる
比べる商標同士が似ているかどうかの判断については、教科書に出てくるようなわかりやすい場合だけとは限りません。
教科書的な事例であれば、専門家でも意見は100:0になるでしょう。けれども実務ではこのように意見が一方に決まるのはまれです。
通常は、60:40とか55:45とか微妙なラインになります。後はどちら側で戦いたいか、という判断になります。
2. 人工知能の判断を持ってしても容易ではない
比べる商標同士が似ているかどうかの判断については人工知能の判断結果は多いに役に立ちます。
では人工知能まかせでよいか、というとそうではありません。権利が衝突する内容の商標は特許庁で登録されませんので、似ているか似ていないの判断は前例がない場合が多いのです。
違う事例を参考に、自分の事例を検討することになりますが、よそ様の事例が自分の事例にあてはまるかどうかには疑問があります。
このため人工知能の判断情報は、あくまで参考情報で、多くの意見を聞いた上で決定する必要があります。
3. 特許庁内部でも商標が似ているかどうかの意見が分かれる
特許庁の商標審査官の判断が、上級審の拒絶査定不服審判で覆ることもあります。この場合は、審査官の判断と上級審の審判官の判断は、結論として180度逆だった、ということになります。
この様な事例は少なくありません。簡単に決着がつかない場合もあります。
4. どうしても自分ひいきに判断してしまう
商標同士が似ているかどうかの判断については、どうしても立場によって自分の都合のよいように解釈する傾向から抜けきれません。
商標権者は比較的広く権利範囲を解釈するのに対し、新たに商標権を取得する人は、先行登録商標は似ているようにみえても、自分の商標とは関係がない、と考えがちです。
自分に都合のよい解釈で前進すると、後で痛い目にあいますので、商標同士が似ているかどうかの判断は慎重に行う必要があります。
このように、商標登録の類否判断には、緻密な論理と丁寧な作業が必要とされるのです。商標をしっかりと比較し、問題点を明らかにすることが、適切な判断を下すための鍵となります。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247