索 引
あなたの会社名、守られていますか?
1. 会社名にも商標のリスクがある
「会社名だから商標登録しなくても大丈夫」と考えている方は多いのではないでしょうか。しかし、この認識には大きなリスクが潜んでいます。
商標法第26条第1項では「会社名には商標権の効力が及ばない」と定められています。
ただし、この規定が適用されるのは”普通に用いられる方法”で表示する場合に限定されています。ロゴを施したり、デザイン性を加えたりして、看板やウェブサイト、商品のパッケージに使用する場合には、もはや「商標」として扱われることになります。
会社名であっても、他社が先に登録してしまえば、自社の会社名が使えなくなる事態が生じます。このリスクを回避する最も有効な方法が「商標登録」なのです。
(1−1)あなたの会社名、先に登録されてしまったら?
こんな状況を想像してみてください。あなたの会社が着実に知名度を高め、取引先も増えてきた頃、競合他社があなたの会社名を商標として登録してしまったとしたら、どうなるでしょうか。
商標は「早い者勝ち」の制度です。どちらが先に使っていたかよりも、「どちらが先に出願したか」で権利の帰属が決まります。
たとえあなたが創業者であっても、商標権を他社に取得されれば「自社名を商標として使い続けられない」という事態に直面します。
看板、名刺、パッケージ、ウェブサイト、これらすべてを作り直さなければなりません。そしてなにより、長年積み上げてきたブランドの信頼を失うことになってしまいます。
(1−2)知らずに他人の権利を侵害しているかも?
逆のケースも想定されます。あなたが名付けた会社名が、実はすでに他社の商標として登録されていた場合です。
知らずに使っていたとしても、「知らなかった」という理由では法的責任を免れることはできません。差止請求や損害賠償を求められる可能性もあります。
だからこそ、商標登録を検討する際には既存の商標を調査することが重要になります。このプロセスを経て登録すれば、「他人の権利を侵害しない」「自社の権利を守る」という両方の安心を得られます。
2. 会社名を商標登録するときに必要なこと
では、会社名を商標登録するには何が必要でしょうか。
商標登録は「ただ名前を登録する」だけでは成立しません。特許庁に提出する際には、「どんな商品・サービスに使うのか」を明記します。
会社名そのものを守るのではなく、どんな事業に使う会社名を守るのかを明確にする必要があります。たとえば、飲食業であれば「飲食店の運営」、アパレルなら「衣服の販売」といった具合に、ビジネス内容と結びつけて出願します。
(2−1)「小物など」では登録できない? 区分の落とし穴
商標登録は、特許庁が定めた「第1類から第45類までの区分」に基づいて行われます。会社の事業内容に合った区分を選ばなければなりません。
たとえば「小物など」といった曖昧な表現では出願できません。理由は簡単です。「小物」と言われても、それが文房具なのか、ガラス製品なのか、判断できないからです。
同じ”小物”でも、実際には次のように分かれます。
- 第16類:「紙、紙製品及び事務用品(家具を除く)」
- 第21類:「家庭用・台所用の器具、ガラス製品、磁器製品、美容用ローラーなど」
「パンなど」と言われて店員が困るように、「小物など」では特許庁も判断できません。登録をスムーズに進めるためには、自社の扱う商品・サービスを明確に特定することが欠かせません。
(2−2)今、あなたの会社に必要な商標とは?
商標登録は出願後に「やっぱりこれも追加したい」と思っても追加できません。別の区分を登録する場合は、新たに出願し直す必要があります。
また、区分ごとに料金が発生するため、不要な区分を減らせばコストを抑えられます。したがって、登録の際には「今の自社に本当に必要な商品・サービスは何か?」を見極めることが重要です。
3. 商標登録は「防御策」であり「ブランド戦略」
会社名の商標登録というと、「守りの手続き」と思われがちです。しかし、実際には「攻めの経営戦略」としての意味合いも大きいものです。
登録された商標は、あなたの会社の信用を象徴する「ブランド資産」となります。商標権を取得しておけば、模倣や不正使用を防ぐだけでなく、投資家や取引先への信頼度も高まります。
また、フランチャイズ展開やライセンス契約など、事業の拡大時にも、商標権があることで交渉を有利に進められるケースが多いのです。
会社名の商標登録は「リスクを回避する手段」であると同時に、「成長を支える経営基盤」でもあるのです。
4. 会社名の商標登録を怠った企業の事例
実際に、商標登録を怠ったことでブランドを失った事例は少なくありません。
たとえば、地元で人気の飲食店が全国チェーンに展開しようとした際、すでに同名の商標が他社に登録されていたケースがあります。結果、店名を変更せざるを得ず、長年築いてきた顧客の信頼とブランド価値が失われることになります。
「うちは小さい会社だから関係ない」と考えている方こそ注意が必要です。地域発の小さなブランドがSNSで話題になり、知らないうちに他者に先に商標登録されるケースがあるのです。
5. 登録を通して、会社の「軸」を見直す機会に
商標登録の手続きでは、「会社が何を提供しているのか」「どんな分野で認知されたいのか」を具体的に書き出します。このプロセスは、単なる申請作業ではなく、自社のビジネスを言語化し、整理するきっかけにもなります。
実際に、商標登録を検討するなかで「うちの事業は本当は何を目指しているのか」「今後どんな方向に広げていくのか」を見つめ直し、新しいサービス展開に踏み出した企業も少なくありません。
会社名を守るということは、会社の理念と未来を守ることでもあるのです。
6. まとめ:会社名の商標登録は経営リスク対策の第一歩
会社名の商標登録は、単なる「法的な防御」ではありません。それは、あなたの会社の信頼、ブランド、そして未来を守るための第一歩です。
- 他社に先取りされるリスクを防ぐ
- 自社ブランドを法的に保護できる
- 他社の権利を侵害する心配を減らせる
- 経営戦略の明確化にもつながる
商標登録は、早い者勝ちの世界です。「うちの会社名は特別だから大丈夫」と考えているうちに、他社に登録されてしまうこともあります。
いまこそ、自社の名前を守るための準備を始めましょう。会社名を商標登録しておくことは、将来のトラブルを未然に防ぐ有効な手段です。
7. 最後に:あなたの会社名、今すぐ検索してみてください
まずは、特許庁の商標検索サイト「J-PlatPat(ジェイプラットパット)」で、自社名が登録されているか確認してみましょう。
もし同じ名前がすでに出願されていた場合は、早めに弁理士、弁護士に相談することをおすすめします。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247