索 引
1. 結論:本家が日本で権利を取得し、第三者の登録は全て無効に
シンガポール本家のHero Holdings Pte Ltdが、日本で商標登録第6399336号と商標登録第6402461号を取得しました。
一方、日本で先取り的に登録していた第三者の株式会社gramは、異議申立てと無効審判の2つの手続きを経て、すべての商標権が消滅しています。
以下が登録データの一覧です。
無効になった後発第三者による商標画像
特許庁で公開された商標公報より引用
横取りされた本家本元の商標画像
“https://thetiramisuherojapan.com/”のホームページより引用
本家側の登録(存続中)
第三者側の登録(すべて消滅)
文字商標「ティラミスヒーロー」(登録6031954)は無効審判により無効になりました。猫ロゴ「THE TIRAMISU HERO」(登録6073226)は、異議申立てで第30類・第35類・第43類が取り消され、その後の無効審判で残っていた第29類も無効となり、全体が消滅しました。
なお、この問題が大きく報道された当時、「とくダネ!」に生出演し、商標「ティラミスヒーロー」横取り問題の解説がオンエアされました。(2019年1月22日)
2. 事件の経緯を時系列で振り返る
2013年前後、本家ティラミスヒーローはシンガポールで人気を集め、日本でも販売や催事出店を繰り返していました。雑誌・テレビ・ウェブメディアにも多数取り上げられていた時期です。
2017年、本家とは無関係の株式会社gramが動きます。文字商標「ティラミスヒーロー」を第29類と第43類で出願し、2018年に登録第6031954号として登録されました。同じく2017年に猫ロゴ「THE TIRAMISU HERO」を第29類・第30類・第35類・第43類で出願し、こちらも2018年に登録第6073226号として登録されています。
2019年、異議申立ての結果、ロゴ登録(6073226)の第30類・第35類・第43類が取り消されました。ただし第29類だけは残った状態です。
2021年、無効審判により、文字商標(6031954)が公序良俗違反(商標法第4条第1項第7号)で無効に。ロゴ登録の残っていた第29類も無効となり、登録第6073226号は全体として消滅しました。
最終的に、本家Hero Holdings Pte Ltdが日本で商標登録第6399336号・第6402461号を取得。第三者側の登録はゼロとなり、本家が日本の正当な権利者として認められる形で決着しました。
3. 日本の商標制度は「登録主義」を採用している
日本を含む多数の国では、登録主義(先願主義)を採用しています。先に特許庁へ出願した人が原則として権利者になる仕組みです。
「先に使っていた人」ではなく「先に出願した人」が有利になるため、商標を未登録のまま放置すると、第三者に先取りされるリスクがあります。
ただし、先に出願すれば何でも登録できるわけではありません。異議申立てや無効審判など、不当な横取りを正す手続きが用意されています。
4. この事件で何が具体的に問題だったか
本家が使っていた文字は「ティラミスヒーロー」、ロゴは手書き風の「THE TIRAMISU HERO」の文字に仰向けの猫を組み合わせたデザインでした。第三者が登録した商標は、文字もロゴも本家のものとほぼ同一か酷似していました。
特に問題となったのは出願の経緯です。審決・決定では、「本家の表示や露出を知りながら、未登録であることを利用して略奪的に先取り出願した」と強く推認されました。
こうした商標制度の秩序を乱す出願経緯は、公序良俗違反(商標法第4条第1項第7号)に該当し、登録の取消・無効の対象となります。
なお、本件では混同のおそれ(第15号)や不正の目的(第19号)などの主張もありましたが、最終的に結論の柱となったのは第7号(公序良俗)でした。
5. 「異議申立て」と「無効審判」の違いを理解する
異議申立ては、登録後まもない段階で行う見直しの手続きです。不適切な登録と判断されれば、その登録が取り消されます。
無効審判は、登録を遡って無効にする手続きです。いったん成立した権利を「なかったこと」にできます。
本件では、まずロゴ登録の一部(第30類・第35類・第43類)を異議申立てで取り消し、次に残った第29類を無効審判で無効にする、という二段構えで処理されました。
6. 「文字商標」と「ロゴ商標」と著作権の関係
文字だけの商標は、通常は著作権の保護対象になりにくいです。一方、キャラクターやデザイン要素を含むロゴは、著作権で保護される可能性があります。
商標法第29条の趣旨として、他人の著作権を侵害する形では登録商標であっても使えません。つまり、商標登録を取れたとしても著作権侵害になれば使えない場合があり得ます。
本件でも、ロゴのほぼそのままの複製が不正の推認材料の一材料となりました。
7. 登録主義でも不当な先取りを正す仕組みが存在する
商標法には、不当な先取りを防ぐための規定がいくつもあります。
自己の業務に使う意思がない商標は登録できない(第3条第1項柱書の趣旨)。他人の周知商標に似ている場合は拒絶される(第4条第1項第10号・第15号など)。外国で周知な商標を不正の目的で出願した場合も拒絶対象(第4条第1項第19号)。出願経緯が社会通念上問題であれば公序良俗違反で登録できない(第4条第1項第7号)。
これらは審査段階でチェックされるほか、登録後でも異議申立てや無効審判で是正できます。本件では最終的に第7号(公序良俗)が決め手となりました。
8. 「先使用権」の活用は可能か
出願前からその商標を著名に使用していた側には、一定条件で先使用権(商標法第32条)が認められる余地があります。ただし、自動的に付く権利ではなく、著名性や使用の実態を証拠で立証しなければなりません。
注意点として、先使用権は相手方の商標権が有効であることを前提に、「侵害ではない」と抗弁するものです。安易に先使用権で対応しようとするのではなく、弁理士・弁護士と事前に相談して方針を決めるのが実務上は望ましいです。
本件のように登録そのものを取り消し・無効化できるなら、先使用権を持ち出すまでもなく、本家が改めて登録を取り直すほうが確実です。実際に今回はその方法で決着しています。
9. 現在の権利状況とこれからの実務ポイント
現在の日本での権利者は、本家のHero Holdings Pte Ltdです。
保有登録:商標登録第6399336号、商標登録第6402461号
第三者(gram)の登録:文字商標(6031954)、ロゴ商標(6073226)ともに全て無効・消滅
ブランド保護の実務的なポイントとして、以下を挙げておきます。
海外ブランドでも日本で先に出願する。文字とロゴの両面で押さえておく。公報監視で怪しい先願を早期に見つけ、異議や無効審判で速やかに対処する。催事・媒体露出・売上・SNS・販促物・制作データなどの証拠を日頃から整備しておく。キャラクターやロゴは著作権の観点でも制作日・原稿データを残しておく。
10. まとめ:この事件から学べる教訓
日本は登録主義なので、商標の未登録放置にはリスクがあります。ただし、不当な先取りが行われても、異議申立てや無効審判(とりわけ公序良俗違反の第7号)を使って是正する道はあります。
証拠をしっかり積み上げておくこと、そして早い段階で出願しておくことが、正当な権利を守る一番の近道です。
本件は、横取り側の登録が全て無効になり、本家が日本の商標登録を取得するという、筋の通った結末になりました。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247
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