「ティラミスヒーロー」商標横取り問題はどうなった?【結末まで】

無料商標調査 商標登録革命

1. 結論:本家が日本で権利を取得し、第三者の登録は全て無効に

無効になった後発第三者による商標画像

後発第三者に商標登録されてしまった商標画像
特許庁で公開された商標公報より引用

横取りされた本家本元の商標画像

本家本元のティラミスヒーロー画像
“https://thetiramisuherojapan.com/”のホームページより引用

最終的にシンガポールを拠点とする本家Hero Holdings Pte Ltdは、日本国内で商標登録第6399336号と商標登録第6402461号の権利を取得しました。

出願番号/登録番号/国際登録番号:登録6399336(商願2018-126103)
商標(検索用):ザティラミスヒーロー, ティラミスヒーロー, ヒーロー
区分:30, 43
出願人/権利者/名義人:ヒーロー、ホールディングス、ピーティーイー、リミテッド
出願日:2018/10/09
登録日:2021/06/08
ステータス:存続 – 登録 – 継続
出願番号/登録番号/国際登録番号:登録6402461(商願2018-135644)
商標(検索用):ティラミスヒーロー, ヒーロー
区分:30, 43
出願人/権利者/名義人:ヒーロー、ホールディングス、ピーティーイー、リミテッド
出願日:2018/10/31
登録日:2021/06/15
ステータス:存続 – 登録 – 継続

一方、日本で一度は先取り的に登録を獲得していた第三者の株式会社gramについては、異議申立てと無効審判という2つの手続きを経て、すべての商標権が消滅する結果となりました。

出願番号/登録番号/国際登録番号:登録6031954(商願2017-074462)
商標(検索用):ティラミスヒーロー, ヒーロー
区分:29, 43
出願人/権利者/名義人:株式会社gram
出願日:2017/06/02
登録日:2018/03/30
ステータス:消滅 – 登録 – 取消/無効
出願番号/登録番号/国際登録番号:登録6073226(商願2017-161654)
商標(検索用):ザティラミスヒーロー, ザチラミスヒーロー, ティラミスヒーロー, チラミスヒーロー, チラミス, ヒーロー
区分:29
出願人/権利者/名義人:株式会社gram
出願日:2017/12/08
登録日:2018/08/17
ステータス:消滅 – 登録 – 取消/無効
出願番号/登録番号/国際登録番号:商願2018-025681
商標(検索用):ティラミスヒーロー, ヒーロー
区分:30, 35
出願人/権利者/名義人:株式会社gram
出願日:2018/03/05
登録日:
ステータス:終了 – 出願 – 拒絶/却下又は無効

文字商標「ティラミスヒーロー」の登録第6031954号は無効審判により無効となりました。さらに、猫のロゴを含む「THE TIRAMISU HERO」の登録第6073226号については、異議申立てにより第30類・第35類・第43類が取り消され、その後の無効審判で残存していた第29類も無効となり、最終的に全体が無効化されました。

2. 事件の経緯を時系列で振り返る

2013年前後、本家のティラミスヒーローはシンガポールで人気を集め、日本国内でも販売や催事出店を多数行っていました。雑誌やテレビ、ウェブメディアでも取り上げられ、広く露出していた時期です。

2017年になり、本家本元とは関係のない第三者である株式会社gramが、文字商標「ティラミスヒーロー」を第29類と第43類で出願しました。この出願は2018年に登録され、登録第6031954号となりました。同じく2017年には、猫のロゴを含む「THE TIRAMISU HERO」も第29類・第30類・第35類・第43類で出願され、2018年に登録第6073226号として登録されました。

2019年には、異議申立ての手続きによってロゴ登録の第30類・第35類・第43類が取り消されました。ただし、第29類だけは残存する状態となりました。

2021年には無効審判が請求され、文字商標の登録第6031954号が公序良俗違反(商標法第4条第1項第7号)により無効となりました。同時に、ロゴ登録の残っていた第29類も無効となり、登録第6073226号は全体として無効化されました。

最終的に、本家であるHero Holdings Pte Ltdが日本で商標登録第6399336号と商標登録第6402461号を取得し、第三者の登録がゼロになったことで、本家が日本における正当な権利者として認められる形で決着しました。

3. 日本の商標制度は「登録主義」を採用している

日本を含む多くの国では、登録主義、別名先願主義と呼ばれる制度を採用しています。

商標を先に使った者に権利を与える先使用主義では、本当の権利者が誰かを決定するのが困難です。これに対し、登録主義の場合は、誰位が先に特許庁に願書に提出したかで決定できるため、誰が本当の権利者か、争いがない点で優れます。

この登録制度では、先に出願した者が原則として権利者となります。そのため、商標を未登録のまま放置していると、第三者に先取りされるリスクが存在します。

ただし、先に出願すれば何でも登録できるわけではありません。不当な先取りを防ぐため、異議申立てや無効審判といった是正の仕組みが設けられています。これらの手続きを通じて、不適切な登録を取り消したり無効化したりできます。

4. この事件における具体的な問題点

本家の使用していた文字は「ティラミスヒーロー」であり、ロゴは手書き風の「THE TIRAMISU HERO」という文字と仰向けの猫を組み合わせたデザインでした。第三者が登録した商標は、文字面もロゴも本家のものと酷似していました。

特に問題視されたのは、出願に至る経緯です。審決や決定では、本家の表示や露出を認識していながら、未登録であることを利用して略奪的に先取り出願したと強く推認されました。このような商標制度の秩序を乱す出願経緯は、公序良俗違反として商標法第4条第1項第7号に該当し、登録の取り消しや無効の対象となります。

本件では、混同のおそれ(第15号)や不正の目的(第19号)などの主張も行われましたが、最終的な結論を支える柱となったのは公序良俗違反の第7号でした。

5. 「異議申立て」と「無効審判」の違いを理解する

異議申立ては、登録後まもない段階で行われる登録見直しの手続きです。不適切な登録であると判断されれば、登録が取り消されます。一方、無効審判は、登録を遡って無効にする手続きであり、成立していた権利をなかったことにできます。

本件では、ロゴ登録の一部の区分を異議申立てで取り消した後、残った区分を無効審判で無効化するという二段構えのアプローチが取られました。この結果、第三者の登録は完全に消滅しました。

6. 「文字商標」と「ロゴ商標」と著作権の関係

文字だけで構成される商標は、通常、著作権の保護対象となりにくい傾向があります。一方、キャラクターやデザイン要素を含むロゴは、著作権で保護される可能性があります。

商標法では、他人の著作権を侵害する態様では、登録商標であっても使用できないという趣旨が第29条に定められています。つまり、商標登録が認められたとしても、著作権侵害となる場合は使用できないケースがあり得ます。本件においても、ロゴがほぼそのまま複製されていた点が、不正な意図を推認する材料の一つとなりました。

7. 登録主義でも不当な先取りを正す仕組みが存在する

商標法には、不当な先取りを防ぐためのさまざまな規定が設けられています。

まず、自己の業務に使用する意思がない商標は、商標法第3条第1項柱書の趣旨により登録が認められません。また、他人の周知商標に類似している場合は、第4条第1項第10号や第15号などにより登録できません。さらに、外国で周知な商標を不正の目的で出願した場合は、第4条第1項第19号により拒絶されます。

そして、出願の経緯が社会通念上不適切である場合は、第4条第1項第7号の公序良俗違反により登録が認められません。これらの規定は審査段階でも適用されますし、登録後であっても異議申立てや無効審判によって是正できます。本件では、最終的に第7号の公序良俗違反が決め手となりました。

8. 「先使用権」の活用は可能か

商標の出願前から著名に使用していた者には、一定の条件を満たせば先使用権(商標法第32条)が認められる場合があります。ただし、この権利は自動的に付与されるものではなく、著名性や使用実態を証拠によって立証する必要があります。

ただ、先使用権は、商標権者側の権利を侵害することを前提に主張されるものです。安易に先使用権を主張してよいかどうかは、弁理士・弁護士と事前によく相談してから行うことが重要です。

本件のように、登録そのものを取り消したり無効化したりできる場合は、先使用権を主張するまでもなく、本家が改めて登録を取得する方が確実です。実際、今回はこの方法が採用されました。

9. 現在の権利状況とこれからの実務ポイント

現在、日本における権利者は本家本元のHero Holdings Pte Ltdであり、商標登録第6399336号と商標登録第6402461号を保有しています。一方、第三者である株式会社gramの登録は、文字商標の登録第6031954号もロゴ商標の登録第6073226号も、すべて最終的に無効となりました。

ブランドを守るための実務上の要点として、海外ブランドであっても日本で先に出願を行うことが重要です。文字商標とロゴ商標の両方を出願しておくことで、多角的な保護が可能になります。また、公報を監視して疑わしい先願を早期に検知し、異議申立てや無効審判で迅速に対処することが求められます。

証拠の整備も欠かせません。催事や媒体での露出、売上データ、SNSでの反響、販促物、制作データなどを体系的に保管しておくことで、いざという時の立証がスムーズになります。さらに、キャラクターやロゴについては著作権も意識し、制作日や原稿データを保全しておくことが大切です。

本件の場合は、第三者の登録は異議申立てと無効審判によって全て消滅し、本家が日本で登録を取得しました。これにより、事件は「本家が権利者」という形で完全に決着しています。

10. まとめ:この事件から学べる教訓

日本は登録主義を採用しているため、未登録のまま放置するとリスクがあります。しかし、不当な先取りが行われた場合でも、異議申立てや無効審判、特に公序良俗違反の第7号などを活用することで、最終的に是正できます。

証拠をしっかりと積み上げ、早期に出願を行うことが、正当な権利を守るための最も確実な方法です。本件は、不当な先取りがすべて最終的に無効となり、本家が登録を取得するという、筋の通った結末を迎えました。

本件について「とくダネ!」に生出演、商標「ティラミスヒーロー」横取り問題の解説がオンエアされました。(2019年1月22日)

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

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