索引
(1)各年度の出願実効件数と登録の割合
各年度の出願実効件数と実際の商標登録数
特許庁から発行されている特許行政年次報告書(2018年度版)を参考に、各年度の商標登録出願実効件数と登録数などをFig.1にまとめました。
Fig.1 各年度の出願実効件数と登録件数の推移
上記のグラフは、縦軸が件数、横軸が期間(年)を表しています。
青ー黄緑ー黄ー赤の四つがワンセントで一年分です。左端が2008年、右端が2017年です。
また青は、商標登録の総出願件数、黄緑は出願実効件数、黄は審査合格数、赤は登録数を示しています。
ここで黄緑の出願実効件数とは、実際に審査官の審査を受けた出願の件数です。
総出願件数の中には、法律に従って願書が記載されていなかったり、受理に必要な特許印紙が貼られていなかったりするもの等があります。直すように特許庁から指令があったにも関わらず対応しなかった場合には出願が却下されます。
このため審査を受ける程度に書面内容が整っていない場合には、審査官の内容審査を受けずに終わります。
総出願件数に対して出願実効件数が違うのは出願実効件数に審査官の内容審査を受けずに終わったものが除かれているからです。
総出願件数よりも出願実効件数が多い年がありますが、これは前年以前の出願案件が含まれているからで、前年以前の貯まっていた出願を早く処理した場合に起きる現象です。
最新2017年の統計データでは、12万6000件の出願実効件数があり、審査に合格したのは11万5000件です。審査合格率は全体で92%程度で、実際に審査官が内容を審査するもののうち、9割以上は合格しています。
(2)異議申立と無効審判の実請求数の推移
不服申立の手段
他人に商標権を横取りされた場合、対抗手段としては異議申立や無効審判等の請求があります。
異議申立とは、商標登録手続完了後、特許庁から権利内容を知らせる商標公報が発行されてから二ヶ月以内にできる、商標登録の取消を求める行政処分申請です(商標法第43条の2等)。申立は誰でもでき、匿名でも異議申立を行うことができます。
一方、無効審判の場合は、原則として異議申立期間を経過後も請求することができます。ただし、無効審判を請求することができるのは、利害関係人、つまり当事者に限定されるという制限があります。
異議申立や無効審判が認められると、商標権が消滅します。
なお登録商標を日本国内で3年間使用していないと、不使用を理由に登録の取消を請求できます。しかし実務上は3年も待てない場合が多いです。
異議申立件数の推移
Fig.2 各年度の異議申立件数の推移
上記のグラフは、縦軸が件数、横軸が期間(年)を表しています。
青ー黄緑ー黄ー赤の四つがワンセントで一年分です。左端が2008年、右端が2017年です。
また青は、異議申立の請求件数、黄緑は取消成功数、黄は取消失敗数、赤は取下・放棄を示しています。
最新2017年の統計データでは、426件の異議申立があり、取消に成功したのは49件です。異議申立取消成功率は12%程度です。
無効審判件数の推移
Fig.2 各年度の無効審判件数の推移
上記のグラフは、縦軸が件数、横軸が期間(年)を表しています。
青ー黄緑ー黄ー赤の四つがワンセントで一年分です。左端が2008年、右端が2017年です。
また青は、無効審判の請求件数、黄緑は無効成功数、黄は無効失敗数、赤は取下・放棄を示しています。
最新2017年の統計データでは、92件の無効審判が請求され、無効に成功したのは29件です。無効審判成功率は31%程度です。
(3)表だって商標権を取り消す行為に踏み切る割合は
2017年の統計データを基準に、出願実効件数12万6000件のうち、実際に異議申立や無効審判に踏み切るのは0.5%未満です。
この数字から分かる通り、実際に不服申立手段に訴えずに平穏無事に99.5%以上は商標登録されています。
また各年度のグラフから分かる通り、不服申立手段の件数が年々増えている事実もありません。
他人の商標の横取り出願はどれくらいあるのか
一社で年間1万件も2万件も他人の商標を出願する会社もあります。
しかしこのような横取り出願は特許庁も把握していて、審査に合格できないです。年間数万件はあると思われる横取り出願は、実際に審査官による審査の前に特許庁で弾かれています。
Fig.1を見れば、ここ数年で総出願件数である青の件数は伸びていますが、出願実効件数である黄緑の件数は大きな変化はありません。
審査官の審査を受ける前に、門前払いを受ける出願が数万件単位あります。
他人の商標の横取り出願が少ないなら安心できるか
確かに統計上は問題がでていませんが、実際にトラブルに遭われた方は対応の仕方が分からず、泣き寝入りをする場合もあると思います。
実際に泣き寝入りをした場合には、統計上の数字には反映されませんので、その実体を把握するのは一般に困難です。ただし、1万数千件以上の商標登録出願の実績があるファーイースト国際特許事務所での相談数は、概ね特許庁のデータと一致しています。
商標を横取りされた側の心理
他人にこちらが使っている商標を横取りされた側は、被害を受けた気持ちになるでしょう。
しかし法律上は、商標権を実際に持っている側が被害者で、商標を横取りされた側は登録商標を使用すれば権利侵害になるので、実際は加害者側に回ります。
商標権を横取りされた場合、法律違反になっている事実が公になると、協力会社や商社などに迷惑をかけるため、内々に処理するケースがあると思われます。
(4)まとめ
日本は珍しい国で、落とした財布が手元に戻る民度の高いところです。他人の迷惑にならないように心がけ、争いを好まず高いモラルを保ちます。
このため、他人が実際にこちらの商標を横取りしてしまうことを事前に想像するのは難しい面もあります。
しかし文句を言わない日本人は、ある意味、おとなしい羊の群れです。この中に悪いことを考える狼が一匹でも混入すると、羊たちが餌食になり、狼のやりたい放題になってしまいます。
シンガポールのティラミスヒーローの商標横取り問題に代表されるように、羊たちの隙を突く狼たちが存在するのも一方で事実です。
今後も横取り業者の情報をできる限り公開して、消費者の注意喚起に努めていきます。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247