海外からの登録商標正規品は並行輸入できる?

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1. 「正規品だから並行輸入は大丈夫」そう思っていませんか?

実は、海外で製造された正規ブランド商品であっても、日本への並行輸入が商標権侵害とされるケースがあります。

この記事では、並行輸入ビジネスに携わる全ての方が知っておくべき重要な判例「フレッドペリー事件」を通じて、真正品の並行輸入における法的な境界線を詳しく解説します。

2. 並行輸入とは何か?なぜ問題になるのか

並行輸入とは、商標権者や正規代理店とは別のルートで、海外から真正品を輸入・販売することを指します。

消費者にとっては価格競争による恩恵を受けられる一方で、国内の商標権者にとっては正規流通ルートを脅かす存在となることもあります。

重要なのは、海外からの模倣品・偽造品の輸入が明確に違法である一方で、真正品の並行輸入については一定の条件下で適法とされているという点です。

その「一定の条件」が何なのかを正確に理解している事業者は意外と少ないのが現状です。

3. フレッドペリー事件が示した重要な先例

事件の複雑な背景関係

フレッドペリー事件は、平成15年2月27日の最高裁判決として、並行輸入実務に大きな影響を与えた重要な判例です。この事件の背景には、グローバルブランドの複雑な権利関係とライセンス構造がありました。

英国法人D社は、世界的に有名なスポーツブランド「フレッドペリー」の商標権を多数の国で保有していました。

日本においては、D社の子会社であるB1社が商標権者として登録されていました。D社は事業拡大の一環として、シンガポールのG社に対して特定地域でのライセンス契約を締結しました。

このライセンス契約には重要な制限が設けられていました。

G社は「シンガポール、マレーシア、ブルネイ、インドネシア」の4カ国でのみフレッドペリーブランドを付して製造・販売することができ、製造を委託する下請工場についても厳格な制限がありました。

契約違反から生まれた「グレーゾーン商品」

ところが、G社はこのライセンス契約に違反し、許可されていない中国の工場に製造を委託してポロシャツを製造させました。

この中国製のポロシャツを、日本の輸入業者が購入し、日本国内で販売を開始したのです。

B1社はこの行為を商標権侵害として提訴しました。

輸入業者側は「これは正規のライセンシーが製造した真正品であり、並行輸入として適法である」と主張しましたが、権利者側は「ライセンス契約に違反して製造された商品は真正品とは言えない」と反論したのです。

4. 最高裁が示した「並行輸入適法性の三要件」

三要件テストの確立

最高裁は、この複雑な事案を通じて、並行輸入が適法とされるための明確な三要件を示しました。この判断基準は現在でも並行輸入実務の「ものさし」として機能しています。

第一要件:正当な商標の表示

海外において、商標権者または適法なライセンシーによって真正商品に対して商標が付されたものであることが必要です。本件では、G社がライセンス契約で定められた製造国制限に違反していたため、中国で製造された商品への商標表示は「適法」とは認められませんでした。

第二要件:内外出所の同一性

海外の商標権者と日本の商標権者が同一人物であるか、または実質的に同一といえる関係にあることが必要です。本件では、D社とその子会社B1社という関係にあったため、この要件は満たされていました。

第三要件:品質保証の同一性

日本の商標権者が品質管理を行うことができ、実質的に品質に差がないことが必要です。本件では、許可されていない下請工場での製造により、適切な品質管理が不可能であったため、この要件も満たされませんでした。

三要件の実際の適用と結論

フレッドペリー事件では、第一要件と第三要件が満たされなかったため、最高裁は「真正商品の並行輸入には該当しない」と判断し、輸入・販売行為を商標権侵害と認定しました。

この判決の意義は、単に個別事案の解決にとどまらず、並行輸入の適法性を判断する明確な基準を確立した点にあります。以後、特許庁の解説資料や実務解説書でも、この三要件テストが繰り返し引用されています。

5. 実務担当者が知っておくべき重要なポイント

ライセンス範囲逸脱のリスク

フレッドペリー事件が教える最も重要な教訓は、正規のライセンシーが製造した商品であっても、ライセンス契約の範囲を逸脱して製造された商品は「真正品」として扱われないということです。

製造国の制限、下請先の指定、仕様の詳細など、ライセンス契約で定められた条件に違反して製造された商品は、ブランド側が想定する品質保証体制の外で作られたものとして、並行輸入の「防波堤」を失うことになります。

現実のビジネスにおいて、ライセンシーが経済的な理由から契約条件を破って製造を行うケースは決して珍しくありません。しかし、そのようにして生まれた商品は、見た目には「本物そっくり」であっても、法的には真正品とはみなされないのです。

輸入者の確認義務と注意点

最高裁は、輸入者側の注意義務についても重要な指摘を行いました。関税法第67条により、輸入者は関税申告時に製造地を明示する義務がありますが、それだけでは不十分です。

輸入者は「正規ライセンスの範囲内で製造されたか」「製造国制限に違反していないか」といった点についても確認する義務があり、これを怠った場合の過失推定を覆すことは困難であると判示されました。

実務的には、輸入者は仕入先に対してライセンス契約の詳細を確認し、必要に応じて権利者側からの確認書類を取得するなど、十分な注意を払う必要があります。

ブランド側の品質管理機能の重要性

裁判所が特に重視したのは、ブランド側の「品質管理機能」です。商標権の本質的な機能である品質保証が適切に働いているかどうかが、並行輸入の適法性を左右する決定的な要因となります。

品質管理体制が届かない場所で製造された商品は、たとえ外見上は同一の商品であっても、消費者が期待する品質水準を保証できないため、商標権侵害と認定される方向に傾きます。

6. 現代のグローバル取引における注意点

サプライチェーンの透明性の重要性

現代のグローバル経済において、製造工程は複数の国にまたがることが一般的です。原材料の調達から最終製品の完成まで、複数の国の複数の工場が関与するケースも珍しくありません。

このような複雑なサプライチェーンにおいて、フレッドペリー事件が示した基準は重要な意味を持ちます。権利者は自らのブランドの品質を保証するため、サプライチェーン全体にわたって適切な管理体制を構築する必要があります。

デジタル時代の新たな課題

インターネットを通じた越境取引が活発化する中で、並行輸入の問題はますます複雑になっています。消費者は世界中の商品に容易にアクセスできるようになった一方で、商品の真正性や品質を確認することは困難になっています。

フレッドペリー事件が確立した三要件テストは、このようなデジタル時代においても有効な判断基準として機能し続けています。

7. 今後の並行輸入ビジネスへの提言

リスク管理の徹底

並行輸入ビジネスに携わる企業は、フレッドペリー事件の教訓を踏まえ、より慎重なリスク管理体制を構築する必要があります。仕入先の選定においては、価格だけでなく、正規ライセンスの範囲内での製造が行われているかを十分に確認することが不可欠です。

法的アドバイスの活用

並行輸入の適法性判断は高度に専門的な問題です。特に大規模な取引や新しいブランドへの参入を検討する際には、弁理士・弁護士の商標の専門家からの法的アドバイスを受けることを強く推奨します。

業界全体での意識向上

並行輸入市場の健全な発展のためには、業界全体での意識向上が必要です。適法な並行輸入と違法な模倣品との区別を明確にし、消費者の信頼を維持することが、長期的な市場の発展につながります。

8. まとめ:「真正品」の本当の意味を理解する

フレッドペリー事件が私たちに教えるのは、「真正品」という概念の複雑さです。単に正規のライセンシーが製造したというだけでは十分ではなく、ライセンス契約の範囲内で適切な品質管理の下で製造されたかどうかが重要な判断要素となります。

並行輸入が許されるかどうかは、「誰が・どこで・契約通りに」作ったかで決まる

この判断基準を正しく理解し、適切な確認手続きを経ることで、並行輸入ビジネスは消費者利益と権利者保護を両立させる重要な役割を果たすことができます。

グレーゾーンの商品に手を出すことなく、真に適法な並行輸入を行うことが、持続可能なビジネスモデルの構築につながります。並行輸入に携わる全ての事業者が、この重要な判例の教訓を活かし、より透明で信頼性の高い取引を実現することを期待します。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

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