1.「遠山の金さん」は登録商標です。
遠山の金さん
特許庁の商標公報より引用
- 商標登録第4700298号
- 権利者:東映株式会社
- 出願日:2002年11月12日
- 登録日:2003年8月15日
- 指定商品:
第9類「耳栓,加工ガラス(建築用のものを除く。),アーク溶接機,金属溶断機,電気溶接装置,オゾン発生器,電解槽,検卵器,金銭登録機,硬貨の計数用又は選別用の機械,作業記録機,写真複写機,手動計算機,製図用又は図案用の機械器具,タイムスタンプ,タイムレコーダー,パンチカードシステム機械,票数計算機,ビリングマシン,郵便切手のはり付けチェック装置,自動販売機,ガソリンステーション用装置,駐車場用硬貨作動式ゲート,救命用具,消火器,消火栓,消火ホース用ノズル,スプリンクラー消火装置,火災報知機,ガス漏れ警報器,盗難警報器,保安用ヘルメット,鉄道用信号機,乗物の故障の警告用の三角標識,発光式又は機械式の道路標識,潜水用機械器具,業務用テレビゲーム機,電動式扉自動開閉装置,乗物運転技能訓練用シミュレーター,運動技能訓練用シミュレーター,理化学機械器具,写真機械器具,映画機械器具,光学機械器具,測定機械器具,配電用又は制御用の機械器具,回転変流機,調相機,電池,電気磁気測定器,電線及びケーブル,電気アイロン,電気式ヘアカーラー,電気ブザー,電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品,磁心,抵抗線,電極,消防艇,ロケット,消防車,自動車用シガーライター,事故防護用手袋,防じんマスク,防毒マスク,溶接マスク,防火被服,眼鏡,家庭用テレビゲームおもちゃ,携帯用液晶画面ゲームおもちゃ用のプログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM,パチンコ型スロットマシン,その他のスロットマシン,ウエイトベルト,ウエットスーツ,浮袋,運動用保護ヘルメット,エアタンク,水泳用浮き板,レギュレーター,メトロノーム,電子楽器用自動演奏プログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM,計算尺」
第28類「スキーワックス,遊園地用機械器具(業務用テレビゲーム機を除く。),愛玩動物用おもちゃ,おもちゃ,人形,囲碁用具,歌がるた,将棋用具,さいころ,すごろく,ダイスカップ,ダイヤモンドゲーム,チェス用具,チェッカー用具,手品用具,ドミノ用具,トランプ,花札,マージャン用具,遊戯用器具,ビリヤード用具,運動用具,釣り具,昆虫採集用具」
ここで「あれ、歴史上の有名人の名前って略称であっても登録できないのでは?」と思われた方、するどい!
歴史上の有名人の名前からなる商標は、フルネームだけでなく略称であっても「公序良俗違反」と言われる商標に該当してしまいます。
そこが本件の争点なのです。
2.無効審判
- 無効2012-890075
- 請求人:株式会社 サンセイアールアンドディ,株式会社 第一通信社
- 被請求人:東映 株式会社
- 確定日:2014年9月18日
特許庁の審決公報より引用
請求人の主張は、「『遠山の金さん』=歴史上の有名人『遠山景元(遠山金四郎)』であるため、無関係な一民間企業に登録を認めるべきではなく、本件商標は公序良俗に違反する」というものです。
これに対し特許庁は、「『遠山の金さん』は『遠山景元』をモデルにしたキャラクターであって、特に被請求人制作の番組名等として認識されているため、『公序良俗違反』には該当しない」という決定(審決)を出しました。
この決定を不服に感じた請求人たちが提訴したのが「遠山の金さん」事件といわれる審決取消訴訟です。
3.審決取消訴訟
平成26年3月26日判決言渡
平成25年(行ケ)第10233号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成26年1月22日
(1)原告の主張
原告(無効審判の請求人)の主張は基本的には無効審判と同じです。
その理由とは・・・
- 「遠山の金さん」=「遠山景元」(当時からそう呼ばれていたから。)。
- 「遠山の金さん」という名前が入った映画やドラマ等を作っているのは被告(無効審判の被請求人)だけではないので、被告制作の番組名等として認識されているわけではない。
- 被告が最初に「遠山の金さん」という名前やストーリーを考えたわけでもなければ、遠山景元とは縁もゆかりもない。
- 歌舞伎等の伝統芸能や縁の地での公益的事業に「遠山の金さん」が使われていて、被告が本件商標を使い続けることが伝統芸能や公益的事業等に悪影響を及ぼすと分かっていながら、自分の利益のために商標登録出願をしている。
- 「遠山景元」に縁もゆかりもない被告が「遠山の金さん」を独占することで遺族や国民が嫌な思いをする。
- 本件商標は文字のみで構成されており、本件商標が登録されると、観念(意味合い)が似ている「遠山金四郎」等の広い範囲に商標権の効力が及んでしまい、伝統芸能や公益的な事業等に支障が出る。
(2)被告の反論
原告の主張に対する被告の反論は以下の通りです。
- 「遠山の金さん」のストーリーはフィクション(遠山景元が生きているうちから「遠山の金さん」の呼び名があったという根拠は少ない。)。
- いわゆる「遠山の金さん」のイメージを定着させたのは被告制作のドラマである。
- 本件商標の出願は被告制作の番組に関するグッズ製作のためであって、出願の目的や理由に問題はない。
- 指定商品から考えて、本件商標が登録されても伝統芸能や公益的事業等に支障は出ない。
- 被告制作の番組名等として認識されている本件商標を被告が登録しても、遺族や国民が嫌な思いをすることはない。
- 本件商標が特別に商標権の効力が及ぶ範囲が広いわけではない。
(3)裁判所の判断
原告・被告双方の言い分を聞いた上で裁判所の出した結論は「『遠山の金さん』は架空の人物とは言えないが、それでも『遠山景元』という実在の人物そのものではないため、審決は正しい」というものです。
やはり歴史上の有名人のニックネームとは認められなかったのです。
根拠はざっとこんな感じです。
- 「遠山景元」に関する客観的史料が少なく業績等に不明点が多いため、いわゆる「遠山の金さん」のイメージと本人を同一視できない。
- 被告が最初に「遠山の金さん」という名前を使ったわけではないが、長年「遠山の金さん」シリーズの映画やテレビ番組等をたくさん制作しているので、「遠山の金さん」といえば特に被告制作の番組名等が思い浮かぶ。
- 本件商標を指定商品に使っても「遠山景元」の独占ではないから公益を阻害することはないし、「遠山の金さん」に関する芝居や映画・ドラマ等の制作に支障が出るとも言えない。
- 被告が本件商標を出願した経緯や目的に問題はない。
- 「遠山の金さん」は番組や主人公の名前なので、被告が商標として登録を受けることで遺族や国民が嫌な思いをするとは言えない。
- 例えば公的な団体等が「遠山の金さん」を目印にしたお土産物を販売することには支障が出るかもしれないが、公益的な事業への影響は限定的である。
<参照>
判決文
http://www.courts.go.jp/ app/files/hanrei_jp/104/084104_hanrei.pdf
4.おまけ
ちなみに、もう一人の名奉行「大岡越前」もデザイン化されてはいますが、商標として登録されています。
商標権者はやはり「大岡越前」のテレビ番組を制作した会社のようです。
特許庁の商標公報より引用
- 商標登録第4616312号
- 権利者:株式会社シー・エー・エル
- 出願日:2002年3月1日
- 登録日:2002年10月25日
- 指定商品:
第 9類「スロットマシン,家庭用テレビゲームおもちゃ,携帯用液晶画面ゲームおもちゃ用のプログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM,業務用テレビゲーム機,電子計算機,電子計算機用プログラム,その他の電子応用機械器具及びその部品,携帯電話機用ストラップ,その他の電気通信機械器具,配電用又は制御用の機械器具,回転変流機,調相機,電池,電気磁気測定器,電線及びケーブル,電気アイロン,電気式ヘアカーラー,電気ブザー,磁心,抵抗線,電極,デジタルデータ通信を使用したダウンロード可能な着信メロディー用音楽,録音済みのコンパクトディスク,その他のレコード,メトロノーム,電子楽器用自動演奏プログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM,映写フィルム,スライドフィルム,スライドフィルム用マウント,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,電子出版物,眼鏡,耳栓,加工ガラス(建築用のものを除く。),アーク溶接機,金属溶断機,電気溶接装置,オゾン発生器,電解槽,検卵器,金銭登録機,硬貨の計数用又は選別用の機械,作業記録機,写真複写機,手動計算機,製図用又は図案用の機械器具,タイムスタンプ,タイムレコーダー,パンチカードシステム機械,票数計算機,ビリングマシン,郵便切手のはり付けチェック装置,自動販売機,ガソリンステーション用装置,駐車場用硬貨作動式ゲート,救命用具,消火器,消火栓,消火ホース用ノズル,スプリンクラー消火装置,火災報知機,ガス漏れ警報器,盗難警報器,保安用ヘルメット,鉄道用信号機,乗物の故障の警告用の三角標識,発光式又は機械式の道路標識,潜水用機械器具,電動式扉自動開閉装置,乗物運転技能訓練用シミュレーター,運動技能訓練用シミュレーター,理化学機械器具,写真機械器具,映画機械器具,光学機械器具,測定機械器具,消防艇,ロケット,消防車,自動車用シガーライター,事故防護用手袋,防じんマスク,防毒マスク,溶接マスク,防火被服,ウエイトベルト,ウエットスーツ,浮袋,運動用保護ヘルメット,エアタンク,水泳用浮き板,レギュレーター,計算尺」
第28類「おもちゃ,人形,囲碁用具,歌がるた,将棋用具,さいころ,すごろく,ダイスカップ,ダイヤモンドゲーム,チェス用具,チェッカー用具,手品用具,ドミノ用具,トランプ,花札,マージャン用具,遊戯用カード,遊戯用器具,ビリヤード用具,運動用具,釣り具,昆虫採集用具,スキーワックス,遊園地用機械器具(業務用テレビゲーム機を除く。),愛玩動物用おもちゃ」
第29類「肉製品,加工水産物,加工野菜及び加工果実,クロレラを主原料とする粒状の加工食品,油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆,加工卵,カレー・シチュー又はスープのもと,お茶漬けのり,ふりかけ,なめ物,食肉,卵,食用魚介類(生きているものを除く。),冷凍野菜,冷凍果実,食用油脂,乳製品,豆,食用たんぱく」
第30類「べんとう,ホットドッグ,ミートパイ,ラビオリ,ぎょうざ,サンドイッチ,しゅうまい,すし,たこ焼き,肉まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,茶,コーヒー及びココア,氷,アイスクリーム用凝固剤,家庭用食肉軟化剤,ホイップクリーム用安定剤,食品香料(精油のものを除く。),調味料,香辛料,アイスクリームのもと,シャーベットのもと,コーヒー豆,穀物の加工品,アーモンドペースト,食用プロポリス,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー,即席菓子のもと,酒かす,米,脱穀済みのえん麦,脱穀済みの大麦,食用粉類,食用グルテン」
第32類「清涼飲料,果実飲料,飲料用野菜ジュース,乳清飲料,ビール,ビール製造用ホップエキス」
第33類「日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」
5.まとめ
みなさまはこの判決についてどのように感じられたでしょうか。
審決や判決は、提出された証拠だけでなく特許庁や裁判所が独自に調査した結果など、様々な観点から判断され出されるものです。
本件は、原告の登録商標が被告の請求により無効にされたり、両社間の商標権・著作権侵害の争いからはじまった訴訟ですので、「遠山の金さん」とは全く関係ない人や会社が被告(つまり商標権者)だったら、別の結論に至ったかもしれないのです。
それではまた。
ファーイースト国際特許事務所
弁理士 杉本 明子
03-6667-0247