1.商標法3条1項4号
人の名前を商標登録出願する場合、苗字のみで出願するのか、それともフルネームで出願するのかによって想定される拒絶理由が変わります。
まずは、苗字を出願する場合について説明してみましょう。
商標法上の条文としては以下のように規定されています。
「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。」(3条1項柱書)
「ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」
(四号)
ありふれた苗字を出願した場合、いわゆる識別性欠如の具体例の一つとして、原則として拒絶理由に該当することとなっています。
「ありふれた氏又は名称」とは、同種の氏又は名称が多数存在するものであって、例えば「鈴木」「サトウ」「TANAKA」のようにクラスに必ず一人はいるようないわゆるメジャーな苗字を指します。
「小鳥遊」「秋和」のようなマイナーな苗字は出願しても恐らく本号を適用してもらえないと思います。
以前はありふれた氏か否かを判断する際に50音別電話帳を参考としていたようです。
なお、例えばシンボルマークとセットで出願した場合やロゴタイプで出願した場合には、見た目が特徴的になり「普通に用いられる方法」ではないため本号には該当しません。
また、本号に該当した場合であっても、使用によって識別性を獲得している旨の反論が認められた場合には、商標登録を受けることが出来ます(3条2項)。
2.商標法4条1項7号
次に、フルネームで出願した場合について説明してみたいと思います。
フルネームで出願した場合も、現存する人物の氏名か歴史上の人物の氏名かによって結果が異なります。
まずは、歴史上の人物の氏名を出願する場合について説明してみましょう。
商標法上の条文としては以下のように規定されています。
「次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。」
(4条1項柱書)
「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」(七号)
遺族の感情や故人の名誉を傷つける恐れがあるという理由で出願が拒絶されたり、縁もゆかりもないものが、歴史上の人物の氏名を独占的に使用出来る状況を作り出すことは、取引の混乱が生じるという理由で出願が拒絶されたりします。
歴史上の人物の偉業にあやかりたいです。や、偉大な先生に尊敬の念を込めてこの商標を考えました。といったご相談も受けますが、商標権は独占権ですのでやはりあまり良くないのかも知れません。
3.商標法4条1項8号
最後、現存する人物の氏名を出願した場合について説明してみましょう。商標法上の条文としては以下のように規定されています。
「次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。」
(4条1項柱書)
「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)」(八号)
他人の氏名を含む商標を出願しても原則として本号が適用されます。
つまり、自分の氏名を出願しても、同姓同名の他人が存在した場合、拒絶理由に該当することになります。
特に昨今ではインターネットの急速な発達やSNSサービスの普及によって、フルネームで他人の存在を知る機会が増えましたので、審査官も容易に本号に該当する旨の拒絶理由通知を発するでしょう。
ちなみに「秋和 勝志」の同姓同名の方には、まだお逢いしたことがありません。
そもそも「秋和」も「勝志」もいずれも珍しい氏であり名ですので、いらっしゃらないかもしれまんね。
なお、自分の氏名を商標登録出願した場合であって、同姓同名の他者の存在が確認された場合には本号に該当しますが、その他人から承諾を受けていた場合、拒絶理由は解消します。
しかし、考えてみてください。もし皆さん見ず知らずの他人からそんな申し合いれを受けた場合に、承諾を与えるのでしょうか。
恐らくは、その申し入れを断ると思います。
最後に本号でよく問題に上がるのが個人氏名での出願ではなく「法人の名称」で出願した場合です。
自分の氏名を商標登録したいというご相談はあまり頂きませんが、会社名を商標登録したいというご相談はかなり頂きます。
会社の名称「株式会社××××」を商標登録出願した場合にも、個人の氏名を出願した場合と同様に同名他社の存在が確認された場合、本号の拒絶理由に該当します。
このようなご相談の場合、個人の場合と同様に承諾を受けることが難しいことから、弊所では「株式会社」を除いて出願する方法をおすすめいたしております。
法人の名称から株式会社を除くと「法人の略称」に該当するため、著名な略称がほかに存在しない限り、上記の承諾の問題が生じないためです。
また、商標権の効力は同一の他類似の範囲にまで及びます。
「株式会社」の部分は株式会社が使用する商標としてはあまり特徴的ではないため、「株式会社」を除いても権利の効力に与える影響は比較的に小さいといえるためです。
これは出願するときの一種のテクニックですね。
ファーイースト国際特許事務所
弁理士 秋和 勝志
03-6667-0247