日本最大の湖として知られる琵琶湖は、その美しい景観と豊かな自然で多くの人々を魅了しています。
私も以前、勉強会で琵琶湖北端近くの旅館「つづらお」を訪れる機会に恵まれました。
当日は台風接近の予報もありましたが、幸運にも温帯低気圧に変わり、穏やかな天候の中で琵琶湖の魅力を満喫することができました。
1. 竹生島のみえる琵琶湖の静寂
琵琶湖に浮かぶ竹生島から眺める湖面は、穏やかでした。太平洋や日本海の荒々しい波とは対照的に、琵琶湖の水面は驚くほど穏やかで、潮の香りも一切しません。
竹生島そのものは、まるで湖の中から突き出た山の頂上のような姿をしており、国宝級の神社本殿など、歴史的にも価値の高い建造物が残されています。
この美しい琵琶湖ですが、商標登録の観点から見ると、興味深い事例が存在します。
一般的に「琵琶湖」という名称は、単なる地理的な場所を示す言葉として認識されています。そのため、商品の生産地や販売地、サービスの提供地を示すだけの商標としては、原則として商標登録を受けることができません。
これは商標法の基本的な考え方で、地名そのものに独占権を与えては、他の人が困るからです。
2. 意外な商標登録の実例
しかし、「琵琶湖」という文字そのものが商標登録されている実例が存在します。
注目すべき例として、お酒(第33類)において「琵琶湖」(商標登録第106185号)という商標が挙げられます。
この登録商標は、なんと大正8年(1919年)8月13日に登録され、100年以上経った現在でも有効な商標権として存続しています。
なぜ地名である「琵琶湖」がお酒の商標として登録できたのでしょうか。
その理由は、「琵琶湖」という言葉が、お酒の分野においては一般的な表現ではないと判断されたからです。
つまり、消費者がお酒を購入する際に、「琵琶湖」という名称から直接的に産地を連想することがないため、識別力を有する商標として認められています。
3. 多様な「ビワコ」関連商標の存在
さらに「琵琶湖」という漢字三文字のみで構成される商標以外にも、「ビワコ」と読む文字を含む商標が特許庁に50件以上も登録されています。
これらの商標は、様々な商品やサービスの分野で使用されており、それぞれが独自の権利範囲を持っています。
このように多数の類似商標が共存できる理由は、商標制度の重要な原則にあります。
商標の類否判断においては、単に文字や発音が似ているかどうかだけでなく、その商標が使用される商品やサービスの範囲も考慮されます。
例えば、同じ「琵琶湖」という文字を含んでいても、一方が食品、もう一方が工業製品というように、商品分野が全く異なれば、消費者が混同する恐れがないため、両方とも登録が認められる可能性があります。
4. 商標登録の奥深さと地域ブランドの可能性
琵琶湖に関連する商標登録の事例は、商標制度を考える好例といえるでしょう。一見すると登録不可能に思える地名でも、使用する商品やサービスとの関係性、消費者の認識、そして長年の使用実績などを総合的に判断することで、商標登録への道が開かれることがあります。
大きいのは大正時代から続く「琵琶湖」商標の存在です。これは日本の商標制度の歴史の長さを示すとともに、地域の名称が適切に活用されれば、強力なブランドとして機能し得ることを示しています。
現代においても、地域活性化や地域ブランドの構築において、このような商標戦略は重要な意味を持ちます。
琵琶湖という日本を代表する湖の名前が、様々な形で商標として活用されている事実は、私たちに商標制度の柔軟性と可能性を教えてくれます。
地域の特色を活かしたブランディングを考える際には、このような先例を参考にしながら、独自性のある商標戦略を構築することが重要となるでしょう。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
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