(1)祭りを影から支える商標登録
(1−1)「東北六魂祭」から「東北絆まつり」へ
2017年6月、仙台で「東北絆まつり」が2日間にわたって実施されました。
これは2011年から行われていた「東北六魂祭」を引き継ぐものとして、今年、初めて開催されたものです。
「東北六魂祭」は2011年に起こった東日本大震災の鎮魂と、東北復興への願いを込めて、同年7月に第1回目が仙台市で行われました。
このメインイベントとして、東北を代表する以下の祭りが一堂に会する「6大祭りパレード」も行われました。
- 「青森ねぶた祭」(青森県)
- 「秋田竿燈まつり」(秋田県)
- 「盛岡さんさ踊り」(岩手県)
- 「山形花笠まつり」(山形県)
- 「仙台七夕まつり」(宮城県)
- 「福島わらじまつり」(福島県)
「東北六魂祭」は、仙台市での第1回目の開催を終えると、翌年から盛岡市、福島市、山形市、秋田市、青森市の各都市で行われ、いずれも盛況のうちに幕を閉じました。
そして、東北6県の都市を巡ったことを受け、今後、未来に向けてさらに前進しようと、新たに「東北絆まつり」が開催されたのです。
(1−2)「東北六魂祭」で登録された商標
「東北六魂祭」では、以下のような文字とロゴが商標登録されていました。
特許庁の商標公報・商標公開公報より引用
出願日は2012年2月1日。第1回目が開催された翌年に出願されたことがわかります。
その後、2014年3月7日に登録されました。
権利者は、「東北六魂祭」の運営に携わった大手広告代理店の電通です。
区分は、以下のように16区分とかなり幅広く登録されています。
- 第9類「携帯電話機用ストラップ、電気通信機械器具、インターネットを利用して受信しおよび保存することができる画像ファイル、録画済みビデオディスクおよびビデオテープ、電子出版物」など
- 第14類「宝玉およびその原石並びに宝玉の模造品、キーホルダー、身飾品、貴金属製靴飾り、時計」など
- 第16類「紙製のぼり、紙類、文房具類、印刷物、写真」など
- 第18類「皮革製包装用容器、かばん類、傘、つえ、皮革」など
- 第21類「化粧用具、ガラス製または陶磁製の包装用容器、台所用品(「ガス湯沸かし器・加熱器・調理台・流し台」を除く)、貯金箱、花瓶」など
- 第24類「織物(畳べり地を除く)、布製身の回り品、毛布、カーテン、テーブル掛け」など
- 第25類「ティーシャツその他の被服、ベルト、履物、運動用特殊衣服(「水上スポーツ用特殊衣服」を除く)、運動用特殊靴(「乗馬靴」および「ウインドサーフィン用シューズ」を除く)」など
- 第28類「愛玩動物用おもちゃ、人形、トランプ、遊戯用器具、運動用具(登山用・サーフィン用・水上スキー用・スキューバダイビング用のものを除く)」など
- 第29類「乳製品、食肉、肉製品、加工水産物、加工野菜および加工果実」など
- 第30類「茶、菓子、パン、調味料、弁当」など
- 第32類「ビール、清涼飲料、果実飲料、飲料用野菜ジュース、乳清飲料」など
- 第33類「酎ハイ、中国酒、薬味酒」など
- 第35類「広告業、衣料品・飲食料品および生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売または卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、織物および寝具類の小売または卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、身の回り品の小売または卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、化粧品・歯磨きおよびせっけん類の小売または卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」など
- 第39類「鉄道による輸送、車両による輸送、自動車の貸与、企画旅行の実施、旅行に関する契約(宿泊に関するものを除く)の代理・媒介または取次ぎ」など
- 第41類「祭りの企画・運営または開催、その他の娯楽の提供、セミナーの企画・運営または開催、電子出版物の提供、書籍の制作」など
- 第43類「宿泊施設の提供、宿泊施設の提供の契約の媒介または取次ぎ、飲食物の提供、動物の宿泊施設の提供」
(1−3)「東北絆まつり」で出願された商標
また、約45万人が足を運ぶほどの大盛況となった「東北絆まつり」についても、商標登録の出願が行われています。
特許庁の商標公報・商標公開公報より引用
出願日は2017年1月26日。
こちらは、現在、審査中となっています(2017年6月末)。
出願人は仙台市です。
区分については、上記(1−2)と同じ16区分が申請されています。
指定商品・役務の内容に若干の違いはありますが、やはり手厚く保護しようという姿勢がみられます。
(2)なぜ、祭りに商標登録が必要なのでしょうか?
(2−1)他者に登録されることを防ぐために
祭りなどの大きな行事は、観光や地域振興と密接に結びついています。
けれど日本の商標登録制度では、先に出願した人が有利となる「先願主義」が採用されているため、地域にゆかりのない人によって、その行事が商標登録される可能性があるのです。
自分たちが長年親しんできたり、新たに立ち上げた行事が、関係のない他者に商標登録され、活動にさまざまな障害が出てきてしまう。
そんな事態は避けたいものです。
そのためにも決して他人事だと考えず、しっかりと対策をとって商標を保護しておくことが大切です。
(2−2)行事における商標登録 〜宣伝からグッズ販売まで
1つの行事を成功させるためには、事前の周知活動や準備、当日の運営、そして終了後のフォローなど、それぞれの行程で多くの作業が必要となります。
また、大きな祭りやイベントでは、関連グッズが製造・販売されることも多く、商標を保護する重要性はいっそう高まります。
そのため、行事に関係する多くの事柄を保護するためには、商標登録の際にそれぞれの区分を登録することが必要です。
上記(1)の「東北六魂祭」や「東北絆まつり」では、かなりの数の区分で申請・登録されていることがわかります。
けれど、これはもちろん、不要な区分の登録を勧めるものではありません。
区分数を増やすと、そのぶん費用もかかってしまいます。
まず、その祭りや行事を運営するためにどんなことが必要かを考え、その上で適切に区分を選択することが大切です。
(3)国内で商標登録されている祭りの一例
(3−1)行事の運営で必要とされる商標登録 〜どんな祭りで商標登録が?
このように祭りなど行事の運営に当たり、商標登録は無視できないものとなっています。
ただ、昔から続く地域の行事などでは、誰がどのタイミングで商標登録の手続きをするのか、難しい部分があるかもしれません。
また、商標登録の必要性について、さまざまな意見が出ることもあるでしょう。
日本ではその土地や季節ごとにさまざまな祭りが開催されています。
では、現在、国内で商標登録されている祭りには、どのようなものがあるのでしょうか?
参考のために、その一例をみていきましょう。
沖縄全島エイサーまつり(商標登録 第5265789号/第5265790号)
毎年、旧盆明けの週末に3日間にわたって行われる「沖縄全島エイサーまつり」は、沖縄各地からの参加者はもちろん、多くのゲストや観光客が訪れます。
本場のエイサーが味わえる一大イベントであり、沖縄の夏の風物詩として定着しています。
この祭りで登録されている商標は、以下の2つです。
1)「沖縄全島エイサーまつり」(商標登録 第5265789号)
これは文字のみの商標となっています。
特許庁の商標公報・商標公開公報より引用
2)「OKINAWA\ZENTO\EISA‐MATSURI」(商標登録 第5265790号)
以下のように文字とロゴを組み合わせた商標となり、数多くのグッズが販売されています。
特許庁の商標公報・商標公開公報より引用
権利者は、いずれも社団法人沖縄市観光協会です。
区分は、1)2)ともに以下のようになっています。
- 第9類「レコード、映写フィルム、インターネットを利用して受信しおよび保存することができる画像ファイル、録画済みビデオディスクおよびビデオテープ、電子出版物」など
- 第18類「かばん類、袋物」
- 第24類「織物、メリヤス生地、 布製身の回り品、布製ラベル、のぼりおよび旗(紙製のものを除く)」など
- 第25類「被服、げた、草履類、運動用特殊衣服、運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く)」
浜松まつり(商標登録 第4993825号)
「浜松まつり」は、静岡県浜松市で5月に行われる祭りで、その最大の特徴は「市民の祭り」であることです。
日本各地で行われる神社仏閣の祭礼とは異なり、初子の誕生を地域の皆で祝い合い、子どもたちの成長を願うものです。
昼は174か町が参加する「凧揚げ合戦」、夜は絢爛豪華な「御殿屋台の引き回し」が行われます。
この祭りでは「浜松まつり」の文字が登録され、適正に運用するための「浜松まつり商標登録使用に関する要綱」がまとめられています。
特許庁の商標公報・商標公開公報より引用
権利者は、浜松市です。
区分は以下の通りです。
- 第35類「広告、トレーディングスタンプの発行、市場調査、商品の販売に関する情報の提供、ホテルの事業の管理、」など
- 第41類「お祭り・花火大会の企画・運営または開催に関する情報の提供、お祭りを主とする催事・伝統行事および記念イベントの企画・運営または開催、スポーツイベント・エキシビジョン・コンサート・映画およびアートイベントの上演などの多種の活動からなる地域の祭りの企画および運営、記念イベントおよびセミナーの企画・運営または開催、娯楽・文化に関するイベントの企画・運営または開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行およびスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く)」など
けんか祭り(商標登録 第5303248号)
福島県福島市の指定文化財である八幡神社では、10月の第1土曜日を中心に3日間にわたって「けんか祭り」が行われます。
この祭りは、式典や祭り太鼓や剣舞の奉納などが行われた後、2日目の夜にクライマックスを迎えます。
町内を巡った6台の飾り屋台が提灯に装いを変え、神社の境内に入ると、屋台同士を激しくぶつけ合います。
提灯が大きく揺れ、辺りには太鼓の音が響き渡る勇壮な様は、「飯坂けんか祭り」として、日本三大けんか祭りの1つに数えられます。
この「けんか祭り」は、以下のような迫力ある商標として登録されています。
特許庁の商標公報・商標公開公報より引用
権利者は八幡神社です。
区分は以下の通りです。
- 第41類「お祭りを主とする催事・伝統行事および記念イベントの企画・運営または開催」
(4)まとめ
さまざまな趣きをもつ祭りは、多くの観光客を呼び寄せ、地域の活性化につながります。
また地元の人にとっては慌ただしい日常から離れ、土地の風習にふれることで、さらに愛着を深めたり、普段は気づかない魅力を再確認できるかもしれません。
大切な行事だからこそ、これからも安心して迎えたいものですね。
商標登録は、祭りにかかわる多くのものを保護することができます。
ぜひ、登録を検討してみてください。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247