トヨタ自動車が燃料電池自動車の特許5000件以上について無料で開放することを発表した件について、本日NHKから取材がありました。
特許を得るまでには長年の開発期間が掛かりますし、開発に投じた費用も相当な額になります。また特許権を得るまでに使った費用も数十億円単位の額に達するはずです。
なぜこのような大盤振る舞いをするのでしょうか。
トヨタ自動車が燃料電池車の特許権の開放を行う前に、昨年の6月12日にテスラ社が電気自動車の関連特許を開放することを発表したことが影響していると思います。
多額の研究費用と時間を掛けて開発した技術を開放するにはもちろん狙いがあるはずです。
一つはこれまで開発した特許権を開放することによって、自分たちの技術を業界標準にしてしまう狙いがあります。他社開発陣はテスラ社の技術を基本として開発を進めるため、今後の電気自動車のインフラは自動的にテスラ社の規格にあったものになる可能性が高いです。テスラ社だけでは限界のあったインフラ整備を加速する狙いが考えられます。
また一社だけでは開発に時間が掛かりますが、あえて特許権を開放することにより技術の進展を加速できることも期待されます。電気自動車が一般大衆に利用されるまでの時間を短縮することができるのです。
さらにテスラ社の場合は、特許権を放棄したとは言っていません。あくまで開放したにすぎず、一定期間を経過したら特許発明の実施に一定額を課金してくることもあり得るのです。
今回のトヨタ自動車の狙いもテスラ社の場合と同様であると観ることができます。
トヨタ自動車一社では限界のある技術革新、インフラ整備が今回の特許権開放により一気に進む可能性があります。
トヨタ自動車もテスラ社の場合と同様、特許権を放棄するとは言っていません。一定期間経過すれば、特許発明の実施に一定額を課金するライセンス設定をすることも当然視野に入っているはずです。
特許権は商標登録により得られる商標権の場合と同様、知的財産権の一種ですが、この知的財産権は、いわば土地の権利と同様の性質を持っています。
特許権や商標権を持っていれば勝手に使うな、ということもいうことができますし、人に貸してライセンス料を貰うこともできますし、売却して利益を得ることもできます。
今回のトヨタ自動車の開放特許の事例は、賃貸マンションの例でいえば、敷金礼金なしで一定期間フリーレントできる状態で住む人たちを集めることにたとえることができます。
賃貸マンションの場合は空き部屋がなくなるメリットがありますが、燃料電池自動車の特許を開放する場合には、一定期間経過後に特許権を行使してライセンス料が得られるメリットだけではありません。
この業務に参入する他社が自発的にインフラ整備を行うことが期待できます。さらには燃料電池車の普及が加速されます。後々のことまでを見通して、トヨタ自動車は特許権を開放しても十分ペイすると踏んでいるものと思われます。
これまで開放特許の事例は多く、独立行政法人工業所有権情報・研修館が主催する開放特許情報データベースで無料で開放特許のデータにアクセスすることができます。
さらにWBCSDが主催するエコ・パテントコモンズという環境特許の開放に特化した取組みもあります。
ただしこれまでの開放特許の場合は、基本的には個別契約が原則であり、無償を前提に日本のトヨタ自動車一社が特許を開放する取組みは革新的であるいえます。
この取組みが成功すれば、今後特許開放の流れが一気に加速する可能性があります。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
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