バンダイの「必殺技」の商標登録出願はどうなった?

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1. はじめに – 2016年の「必殺技」騒動から

2016年1月19日、株式会社バンダイが「必殺技」という言葉を商標として出願しました。区分は第28類で、家庭用テレビゲーム機や携帯用液晶画面ゲーム機、おもちゃなどが指定商品に含まれていました。

このニュースが報じられると、「バンダイが必殺技を独占するのか」「他社のゲームや漫画はどうなるのか」と、インターネット上で話題になりました。当時、私はこの件についてフジテレビから取材を受け、その解説内容をもとに2016年3月23日にブログ記事を公開しました。

ただ、その時点では出願されたばかりの段階であり、商標権はまだ発生していませんでした。今回は、当時の解説をベースにしつつ、その後「必殺技」の出願がどのような結末を迎えたのか、そもそも商標権が発生するとどこまで制限されるのかを、2025年時点の情報も踏まえてアップデートした決定版として書き直しました。

2. その後どうなったのか – 「必殺技」出願の結末

一番気になる「結局、必殺技の商標は登録されたのか」という点からお話しします。

出願番号/登録番号/国際登録番号:商願2016-005281
商標(検索用):必殺技
読み替え・検索キーワード:ヒッサツワザ
区分:28
出願人/権利者/名義人:株式会社バンダイ
出願日:2016/01/19
登録日:
ステータス:終了 – 出願 – 拒絶/却下又は無効

特許庁の情報によれば、出願日は2016年1月19日、審査結果は2016年11月16日付で拒絶査定となりました。その後、拒絶査定に対する不服申立(審判)等は行われず、拒絶が確定しています。つまり、「必殺技」の出願は最終的に登録には至りませんでした。

現在、「必殺技」という言葉にバンダイの登録商標としての権利は存在していません。

では、なぜ拒絶されたのでしょうか。審査過程の細部はここでは割愛しますが、実務的には「必殺技」という言葉がアニメ・ゲーム・特撮などで広く使われている一般的な用語であり、指定商品(おもちゃやゲーム)との関係では商品の特徴やイメージを表すに過ぎず、出所識別標識としての力が弱いと判断されたと見るのが自然です。

平たく言えば「あまりに普通のノリのいい言葉になりすぎていて、ブランド名としては弱かった」ということです。誰もが使う一般的な言葉を一社に独占させるのは許されない、ということです。

3. 仮に登録されていたら – 「必殺技」商標の効力イメージ

「最終的に登録されなかった」と聞くと、当時の大騒ぎが拍子抜けに感じられるかもしれません。

とはいえ、もし登録されていたら何が起きたのかをイメージしてみましょう。

商標権の効力は、大きく2つの軸で決まります。1つ目は標章の範囲で、登録された商標と同一または類似の表示が対象となります。2つ目は商品・役務の範囲で、出願時に指定された商品・役務と同一または類似のものが対象となります。

バンダイの「必殺技」出願は第28類(ゲーム機・おもちゃ等)でしたから、仮に登録されていたとすると、第三者がおもちゃ・ゲーム関連の商品名・シリーズ名として「必殺技」を使う場合や、パッケージや商品タグにブランド名として「必殺技」を表示する場合には、商標権侵害のリスクがありうる構図になります。

逆に、日常会話で「この技、俺の必殺技だから」と言う場合、SNSで「今日のプレゼン、必殺技決まった」と書く場合、漫画やアニメのセリフで「必殺技」と叫ぶ場合といった、普通の言葉としての必殺技の使用は、そもそも商標の世界の話ではありませんので、権利侵害にはなりません。

この「商標として使っているか、単なる言葉として使っているか」の線引きが、とても重要です。

4. 商標権の本当の守備範囲 – すべてを禁止するわけではない

改めて整理すると、商標権の効力は「登録商標」「指定商品・役務」「商標としての使用」の3つがそろったときに、本格的に問題になります。

個人ではなく事業者を対象とするのが商標権

まず、事業者が対象になります。商標権は、基本的に「業として」商品やサービスを提供している人(事業者)を対象とした権利です。会社がおもちゃシリーズの名称として「必殺技」を使う場合や、個人事業主がゲームアプリのタイトルとして「必殺技」を使う場合といったケースが、商標権の射程に入ってきます。

一方で、趣味ブログとして運営している場合や、収益化もしていない個人サイトで記事タイトルに「今日の必殺技レシピ」と書く場合まで、すぐに商標権侵害になるわけではありません。

もっとも、ブログや動画に広告を貼って収益を得ている場合は、実質的に「業として」情報発信していると評価される余地もあります。その意味で、「趣味のつもりでも、お金が動き始めたら事業者側のルールが適用されうる」という点は、頭の片隅に置いておいてよいでしょう。

商標権として働く商標の使用の形がある

次に、「商品表示」として使ったときに効いてきます。商標法が問題にするのは、出所を示す表示としての使用です。パッケージの正面に「必殺技」と書いてシリーズ名として使う場合や、フィギュアのタグに「必殺技」と印字する場合は、典型的な「商標としての使用」であり、登録されていれば侵害リスクがあります。

一方で、説明書の文章中に「このボタンを押すと必殺技が出ます」と書く場合や、黒板やノートに「新サービスの必殺技」とメモする場合といった説明・比喩的な使い方は、「出所表示」としてではなく、文章表現の一部に過ぎません。通常、ここまで商標権の効力は及びません。

さらに、見て分かる表示かどうかも重要です。音声やセリフは別世界と言えます。商標権が問題になるのは、基本的に目で見て認識できる表示です。たとえば、おもちゃの怪獣が「必殺技だ」と叫ぶ音声や、アニメのキャラクターが技名として「必殺技」と発するセリフは、「音声」としての使用であり、バンダイの出願していた「文字商標」の保護対象とは別物です。

つまり、キャラクターが「必殺技」と叫ぶこと自体は、商標権とは無関係と考えてよい場面がほとんどです。

5. バンダイは何を狙っていたのか

ここまでの話を聞くと、「日常会話も、漫画もアニメも、全部必殺技が言えなくなる」というインターネット上の不安が、オーバーだということが分かると思います。

では、バンダイは何をしようとしていたのか。これはあくまで実務家としての私見ですが、自社のおもちゃ・ゲームに関して「必殺技」をシリーズ名やブランドラインとして中長期的に一貫したイメージで展開したかったというブランディング上の意図があったと見るのが自然です。

実際、バンダイはこれよりも前から「必殺」という語を含む商標(第28類)を取得しており、言葉自体へのこだわりがうかがえます。

つまり、「一般の人たちから必殺技という言葉を取り上げたかった」のではなく、「自社の商品ラインの名前として、もう一段階強く押さえておきたかった」という整理のほうが、ビジネスの現場感覚に近いと感じています。

最終的には、先ほど述べたとおり識別力の問題などから登録には至りませんでしたが、このケースは、ネットでバズる炎上ワードと実際の商標制度の冷静な運用のギャップを象徴する、分かりやすい題材になったと言えるでしょう。

6. 日常会話の「必殺技」はこれからも自由

ここまでを一言でまとめると、「必殺技」は登録されなかったし、仮に登録されていても日常会話や作品中のセリフまで一律に禁止されるわけではなかったというのが結論です。

商標権は万能の言葉の独占権ではなく、特定の商品・サービス、特定のブランド表示にくっついて初めて効いてくる、かなり限定された権利です。

ですから、これからも私たちは、「この資料、今日のプレゼンの必殺技です」「うちのカレー、我が家の必殺技レシピなんだよね」といった表現を、安心して使って大丈夫です。

7. まとめ – バズるニュースこそ、制度を冷静に見る

2016年当時、「必殺技の商標出願」はニュースサイトやSNSで大きく取り上げられ、私のもとにもフジテレビをはじめ、さまざまなメディアから問い合わせが来ました。

しかし、その後の経過を追いかけてみると、出願は拒絶査定となり、不服申立もなく、そのまま拒絶確定となりました。結局、登録商標としての「必殺技」は存在しないという、落ち着いた結末に落ち着いています。

このケースから学べるポイントは、「ある言葉が商標出願された」というニュースと、「実際に登録されて権利が発生したかどうか」は、必ずしも一致しないということです。気になる言葉を見かけたときは、J-PlatPatなどで登録状況を確認する習慣を持っておくと安心です。

そしてもう一つ、バズる商標ネタの裏側には、「本当はどこまで守られる権利なのか」という冷静な制度理解が必要ということです。

「必殺技」の一件は、商標権の守備範囲、日常会話との線引き、ネットの盛り上がりと実務の現実を一度に学べる、商標実務の教材のような事例でした。

これからも、こうした話題をきっかけに、「商標って、実はこういうルールで動いているんだ」という視点を、少しでも多くの方に共有できればと思います。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

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