索 引
- 1. 2013年当時、流行語への便乗出願がニュースになり、取材が殺到した
- 2. 当時から変わらない大前提。商標権は「言葉の独占」ではなく「範囲つきの権利」
- 3. これも当時から不変。出願しただけでは権利は発生しない
- 4. 2013年当時にすでに見えていた落とし穴。流行語は審査が通りにくい
- 5. 2013年当時から2026年へ。出願のその後を数字で追いかける
- 6. 2026年の現在。後追い出願は炎上コストまで含めた損得計算になった
- 7. 「早く取れれば話は別では」という疑問への2026年視点での回答
- 8. 2026年の現実解。守るべきは流行ではなく自社の看板
- 9. 結論。2013年に感じた違和感は2026年の結果で証明された
※この記事は、2013年12月に私が書いた内容をベースに、10年以上が経過した2026年1月時点での「あの出願はどうなったのか」という追跡結果を加えて、全面的に書き直しています。文中で触れている「流行語大賞」やTBS「Nスタ」、TBSラジオ「日曜天国」から受けた取材は、すべて2013年当時の話しであり、今年の流行語大賞の話しではないです。
1. 2013年当時、流行語への便乗出願がニュースになり、取材が殺到した
2013年の年末、あるドラマの流行語が社会現象となり、同時に「その言葉が商標登録出願されている」という情報がメディアを駆け巡りました。結果として「もうこの言葉は自由に使えなくなるのか」という不安が広がり、私のところにもテレビやラジオから取材依頼が舞い込みました。
流行語が話題になるたびに、決まって同じ疑問が繰り返されます。
誰かに取られる前に自分で出願しておいたほうが得なのではないか。出願されたということは、もう使ったら訴えられるのではないか。そもそも流行語は商標登録できるのか、できたら独占できるのか。
こうした疑問の渦を解きほぐすには、まず商標制度の基本構造を押さえることが最短の道です。ここからは、2013年当時に説明していたポイントを、現在の視点から整理し直していきます。
2. 当時から変わらない大前提。商標権は「言葉の独占」ではなく「範囲つきの権利」
よくある誤解として、「言葉を登録すれば、その言葉をすべて独占できる」という考え方があります。しかし商標はそのような万能の権利ではありません。
商標登録出願の願書では、単に商標(文字やロゴ)を記載するだけでなく、その商標を使う「商品・サービス(指定商品・指定役務)」もあわせて特定します。そして商標権の効力は、原則としてその指定範囲に限定されます。
たとえば仮に「ある流行語」をお菓子(第30類)で登録できたとしても、効力が問題になるのは「お菓子の商標として使った場合」が中心です。日常会話やSNS投稿でその言葉を使うことまで丸ごと封じる権利にはなりません。この「範囲が区切られている」という性質を理解するだけで、流行語出願のニュースに対する過剰反応はかなり抑えられます。
3. これも当時から不変。出願しただけでは権利は発生しない
2013年当時から何度も繰り返し説明してきた点があります。出願イコール商標権の発生ではない、ということです。
特許庁に書面(電子出願を含む)を提出した段階は、あくまで「審査してください」という申し込みにすぎません。
審査に通って登録されて初めて商標権が発生します。流行語に便乗した出願が話題になると、出願段階なのに「もう取られた」「使ったら訴えられる」と権利が確定したかのように騒がれることがあります。しかし制度上はきちんと線が引かれており、出願と登録は明確に区別されています。
4. 2013年当時にすでに見えていた落とし穴。流行語は審査が通りにくい
私は2013年当時から「流行語の後追い出願は勝ちにくい」と考えていました。理由は単純で、流行語には特有の性格があるからです。
みんなが普通に使う言葉であるため、特定の出所を示す機能が弱くなりがちです。キャッチフレーズ的な言葉は識別力が乏しいと判断されやすい傾向があります。さらに便乗出願が殺到するため、似た出願が乱立し、審査や運用上でも揉めやすくなります。
特許庁も、識別力がないものや一般的な表示にとどまるものは登録になりにくいという扱いをしていて、キャッチフレーズについても「識別力がないと判断されやすい理由」や判断要素が議論されてきました。では、2013年当時に話題になったあの出願たちは結局どうなったのでしょうか。ここが「10年以上前の記事を今読み直す意味」です。
5. 2013年当時から2026年へ。出願のその後を数字で追いかける
当時は「出願されている」という事実だけが先行しがちでした。2026年の今、私たちは結果を確認できます。調査結果に基づくと、2013年前後に話題になった流行語出願はかなりはっきりした結末を迎えています。
「じぇじぇじぇ」:話題性のわりに登録は1件のみ
「じぇじぇじぇ(ジェジェジェ)」系の出願は調査上12件確認できます。そのうち登録に至ったのは1件だけで、内容は第30類、出願日2013年5月10日、登録日2015年5月29日(登録5767702)です。残りは拒絶等で終了しています。
ポイントは「流行語だから取れる」のではなく、取れたとしても指定範囲つきで、しかも少数という現実です。
もう一つ注目すべき点があります。登録までに約2年かかっています。流行語の熱狂がどれだけ短命かを思い出すと、ここで核心が見えてきます。流行は月単位で過ぎ去りますが、判断が悩ましい審査は年単位でかかります。このズレが、後追い出願をビジネスとして成立させにくくしています。
「倍返し」:17件出願して登録は0件
「倍返し」はさらに象徴的な例です。調査では17件の出願があり、しかも2013年だけで終わらず2019年まで出願が続いています。にもかかわらず、結末は登録0件です。すべて取下げ・放棄と拒絶等で終了しています。
SNSで話題になりそうな言い方をすれば、「倍返し」は出願件数だけ倍返しでも、登録はゼロ返しでした。冗談のように聞こえますが、これが制度の現実です。
「今でしょ」単体は苦戦、固有要素との結合で登録例あり
「今でしょ」系は7件確認できます。単体の「今でしょ」「今でしょ!」は取下げや拒絶が目立ちます。
一方で「いまでしょ弁護士」は登録されています(出願日2020年6月1日、登録日2021年2月15日、登録6352166)。ここが今後を考えるうえで参考になります。
流行語をそのまま取りに行くよりも、自社の業態や提供価値、固有の識別要素と結びつけて、ブランドとして成立する形に寄せたほうが成功の可能性が出てくるということです。
6. 2026年の現在。後追い出願は炎上コストまで含めた損得計算になった
2013年当時も批判はありましたが、現在は状況がさらに変わっています。今は商標出願が話題になるスピードが以前とは比較になりません。出願情報は可視化されやすく、拡散も速いため、便乗的な出願は「法的にどうか」以前に「社会的にどう見られるか」が先に影響を受けます。
商標の出願・登録をめぐる炎上は過去何度も繰り返されてきたことが専門誌レベルでも整理されています。「ギコ猫」「のまネコ」「PPAP」「そだねー」「ゆっくり茶番劇」などがその例です。
ポイントは、「炎上するかどうか」は善悪の議論ではなく、純粋にコストだということです。
後追い出願は、たとえ権利化できたとしても、取引先や顧客からの信用毀損、採用や提携への悪影響、SNS対応に吸われる時間、「権利行使できないのに嫌われる」という最悪の着地を招きやすい構造があります。
公有財産語(みんなのもの)を商標出願すること自体がよい結果を招かないとの警鐘を鳴らしています。私は表現はさておき、実務家としての結論は同じです。後追いで流行そのものを取りに行くほど、費用対効果が崩れやすくなります。
7. 「早く取れれば話は別では」という疑問への2026年視点での回答
特許庁は、一定の条件を満たす場合に早期審査・早期審理を利用でき、早期審査では申出から最初の審査結果通知まで平均2か月程度という目安を示しています。
「審査は遅いから無理」と決めつける時代ではなくなりました。それでも流行語の後追いに関しては結論があまり変わりません。なぜならスピードの問題以前に、流行語は識別力が弱くなりやすく審査を通過しにくい、通っても指定範囲つきで万能の独占にはならない、炎上や評判のマイナスを背負いやすいという構造が残るからです。
「早く取れる可能性がある」ことと「取るべきかどうか」は別問題です。
8. 2026年の現実解。守るべきは流行ではなく自社の看板
ここまで読むと、こう言いたくなるはずです。「じゃあ商標って、結局どう使えば得なのか」と。
答えは明確で、今も昔も変わりません。商標登録で守るべきは、流行語ではなく、自社の看板(ブランド)です。
具体的には、流行に乗ること自体はマーケティングとして有効です。
ただし権利化の発想は逆にしてください。流行語を囲い込むのではなく、自社の商品・サービス名を先に押さえる。流行語を使うなら、固有要素と結合して「あなたのブランド」として識別できる形に設計する。実際に使う(使う準備を整える)ことで、早期審査などの制度選択も現実的にする。こういう地道だけれど堅実な打ち手が、最終的に費用対効果の良い結果につながります。
9. 結論。2013年に感じた違和感は2026年の結果で証明された
2013年当時、私は「流行語に便乗して権利を独占しようとするのはいかがなものか」と書きました。10年以上経った今、感想ではなく結果として言えることがあります。
出願は増えます。しかし登録は思ったほど取れません。取れても限定的です。そして何より、流行は去ります。
実際に「倍返し」は17件出願して登録0件、「じぇじぇじぇ」も登録は1件のみというデータがその現実を裏づけています。だから私は、今でもタイトルの結論を変えません。
流行語の後追い商標登録は、時間とお金のムダになりやすいです。狙うなら流行語ではなく、あなたの事業の名前を取りにいきましょう。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247
参考資料
- 標語、キャッチフレーズに関する商標審査基準について(案)
https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/shohyo_wg/document/12-shiryou/04.pdf - 商標登録出願にかかる炎上事例の今後
https://jpaa-patent.info/patent/viewPdf/4142 - 「みんなのもの」を商標登録しても百害あって一利なし!
https://businessandlaw.jp/articles/20240105-1/ - 商標早期審査・早期審理の概要
https://www.jpo.go.jp/system/trademark/shinsa/soki/shkouhou.html