「おもてなし」の商標登録は許されるのか

無料商標調査 商標登録革命

2013年12月3日当時、フジテレビ『とくダネ!』で、当時の流行語「おもてなし」「今でしょ」などの”無断の商標出願”が話題になった際、当時の番組で私もコメントさせていただく機会がありました。

長年同番組の総合司会を務められた小倉智昭さんは、2024年12月9日に逝去されています。ご功績に敬意を表し、心よりご冥福をお祈りいたします。なお『とくダネ!』は2021年3月26日で放送を終了しています。

当時の議論では、商標制度に対する誤解から混乱が生じていました。2025年の現在、実務に即した形で整理し直すと、違った形が見えてきます。

結論から言えば、「おもてなし」が登録されていても、日常会話で”おもてなし”と言うことは侵害になりません。

商標権の効力は指定された商品・役務の範囲にだけ及びます。この点が制度を理解する上で重要なポイントの一つです。

1. 「おもてなし」は登録できるのか——”言葉そのもの”ではなく”指定商品・役務”との組合せ

日本の商標制度では、「標章(言葉・図形・音など)」とそれを使う商品・役務(サービス)の指定を組み合わせた”セット”として登録されます。

登録は言葉の独占そのものを認める制度ではありません。法文上も、商標権の効果である専用権や禁止権は、指定商品・役務に結びついて初めて発生します。

仮に「おもてなし」が登録されていても、菓子(第30類)など登録で指定された商品分野に関連する範囲に限って効力が生じます。

関係のない指定外の分野には及びません。

実際、「おもてなし」という文字を含む登録や出願の例はいくつも存在し、第30類(菓子・調味料等)や第33類(酒類)などで確認できます。これらは、どの分野に使う”おもてなし”なのかを明確にして出願・登録されたことの表れです。

2. 日常会話は侵害にならない——”商標の使用”は取引における使用

では、「おもてなし」と口にするだけで侵害になるのでしょうか。答えは明確にノーです。

商標法でいう「使用」とは、商品やその包装に標章を付す、譲渡のために陳列する、広告に表示するといった取引上の行為を指します。

日常会話や挨拶の場面で「おもてなし」と言うことは、この「使用」に該当しません。

侵害が問題になるのは、登録商標と同一または類似の標章を、指定商品・役務(またはその類似範囲)について商標として使用した場合です。

さらに実務では「商標的使用」の有無が重視されます。

出所表示として機能しているかどうかです。

形式的に広告に文字が表示されていても、出所表示として機能していなければ侵害に当たらない場合があるという整理が一般的です。

3. “流行語”の出願が難しい理由——識別力の壁と審査のものさし

2013年当時も指摘したとおり、流行語をそのまま登録しようとしても、識別力(自他商品役務識別力)が弱ければ審査で拒絶されやすくなります。

誰もが使う言葉に強力な商標権を設定すると、みんなが困るからです。

一方で、造語的で独自性が認められるなど、標章が出所表示として機能する具体的事情があれば登録が認められる余地はあります。

このため、ブームに乗せただけの出願は、審査段階でふるい落とされるか、登録できても使われる分野が狭く限定されるのが通例です。

話題性が登録の近道になるわけではありません。実際の審査では、特許庁の審査基準に沿う、識別力という共通のものさしによって判断されます。

4. “無断出願”とどう向き合うか——慌てず仕組みで見る

他人のキャッチフレーズや社会的に広く使われる言葉が第三者により”無断で”出願されると、不安や怒りを呼びやすいものです。ただし、制度面から落ち着いて判断すれば、実際のリスクは見えてきます。

登録の可否の多くは識別力と指定商品・役務で決まります。

汎用的な言葉は登録が認められにくく、たとえ登録されても範囲は限定的です。

侵害については、商標としての使用が前提となります。

日常会話等の非商標的使用は直ちに侵害になりません。

また、争いになった場合には、特許庁の判定制度で紛争の見通しを確認する、公的な支援窓口を活用するといった選択肢があります。

5. ビジネスにとっての”正攻法”——他人の流行語より自社のブランド

短命な流行語に飛びつくより、自社のネーミングやロゴを、使う分野(区分・指定商品役務)を適切に絞って出願し、実際の使用でブランドの蓄積を図ることが近道です。

商標は使ってこそ価値が出る権利です。

出願時には、将来の展開を見据えて指定の幅を設計しつつ、使用意思や使用実績の裏付け(カタログ・パッケージ・広告等)を用意しておくと審査対応も安定します。流行語の出願で一時的な話題を得るよりも、自社ブランドを着実に育てることのほうが、長期的な事業価値につながります。

6. まとめ——「おもてなし」騒動から学べること(2025年版)

「おもてなし」を日常で使っても問題はありません。侵害は商標としての使用に限定されており、日常会話や非商標的な使用は対象外です。また、商標権の効力は指定商品・役務にだけ及びます。登録されたからといって言葉の総取りを意味するわけではありません。

流行語の出願はハードルが高いのが現実です。識別力がなければ登録されませんし、登録されても範囲は限定的です。テレビをきっかけに広まった流行語が権利として独占される不安や誤解は、制度の仕組みに照らすとシンプルに解けます。

ビジネスの現場でいま必要なのは、他人の流行語を追いかけることではなく、自社ブランドを適切に権利化し、実使用で鍛えることです。それが結果的に最も効率的で効果的な戦略となります。

流行語は、半年もすると古臭く感じるものです。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

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