【商標の落とし穴】化粧品を指定しても「せっけん類」は守られない理由

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化粧品の指定の際に、商標でせっけん類を落とさないように注意しよう

1. はじめに:せっけんを落とした商標権が増えている?

最近、商標登録の現場で気になる傾向が見られます。それは、「本来なら同じ手続きでまとめて権利を取得できたのに、肝心の部分が漏れていた」という権利漏れ商標の増加です。

特に化粧品業界において、この問題は深刻化しています。「化粧品」は指定しているのに、「せっけん類」が抜け落ちてしまっているケースが目立つようになってきました。同じ肌に使用する商品なのに、なぜこのような漏れが発生するのでしょうか。

さらに厄介なのは、この「せっけん抜け」が出願後に気づいても修正できないという点です。

一度提出した出願書類に記載していない商品を、後から追加することは特許庁では原則として認められていません。今回は、なぜそのような事態が起きるのか、そしてどうすれば防げるのかを、実例を交えながら詳しく解説します。

2. 「区分を取った=全部守られる」ではない

商標権は「区分」ではなく「指定商品」ごとに発生する

商標権について、よくある誤解があります。それは「登録したら全部守られる」という考え方です。しかし実際には、商標権が及ぶのは、特許庁に提出した出願書の中で具体的に指定した商品やサービスに関連のある範囲に限られます。

たとえば、商標登録では商品やサービスを分類するために「区分」という制度を使います。化粧品やせっけんが含まれる「第3類」という区分を選んだとしても、それだけで第3類全体が自動的に守られるわけではありません。

第3類の中には、化粧品、せっけん、香料、靴クリーム、研磨剤など、外見上は似ていない多種多様な商品が混在しています。商標法上の保護は、「指定した商品」と「それに類似する商品」に限定されます。つまり、同じ区分内にあるのに、類似しない商品までは自動的に守られることはないのです。

この仕組みを理解していないと、「第3類で出願したから化粧品もせっけんも全部カバーされている」と誤解してしまい、後で思わぬトラブルに見舞われることになります。

3. 同じ第3類でも、似ていない商品がたくさんある

第3類の代表的な商品たち

第3類には、次のような商品が含まれています。

  • 化粧品
  • せっけん類
  • 香料・薫料
  • つけまつ毛・つけづめ
  • 靴クリーム・靴墨
  • つや出し剤

一見すると、これらはすべて「日用品」というイメージでまとめられそうです。

しかし、商標法の世界では事情が異なります。このうち、化粧品とせっけん類は同じ区分にありながら、商標法上は非類似商品として扱われています。

「化粧品」という指定だけで出願しても、「せっけん類」は自動的には守られません。この点を見落とすと、権利範囲に大きな穴が開いてしまうことになります。

4. 「化粧品」を指定しても、「せっけん類」は守られない理由

見た目は近くても、法律上は別もの

「化粧品」と「化粧用せっけん」は、どちらも肌に使用するものです。消費者の立場からすれば、ほぼ同じカテゴリの商品と感じるのが自然でしょう。ドラッグストアでも隣り合った棚に並んでいることが多く、誰が見ても似ていると思うはずです。

ところが商標審査の実務では、これらは別の商品として扱われます。理由は、販売経路、用途、成分構成などが異なるものとして扱われるためです。化粧品は主に美容を目的とした製品群であり、せっけん類は洗浄を主な目的とする製品群として区別されています。

このため、出願時に「せっけん類」を指定していなければ、その範囲では商標権がまったく発生しません。他人があなたの商標に似た名前で「せっけん」を販売しても、商標権侵害として差し止めを求めることはできないのです。

この盲点に気づかず出願してしまうと、ブランド展開において大きな制約を受けることになります。

5. 出願後に気づいても、もう遅い

指定漏れは「後から追加」できない

出願手続きを終えた後に、「やっぱりせっけんも入れておけばよかった」と気づくケースは少なくありません。しかし残念ながら、特許庁の実務上、後から指定商品を追加することは認められていません。

指定商品の範囲は、出願時に確定させる必要があります。

出願後に追加したい商品が出てきた場合は、再び同じ手数料を支払って新たに出願し直すしかありません。つまり、本来一度で済んだはずの費用が、2倍、3倍とかかってしまうことになります。

さらに厄介なのは、出願日が遅れることで、他社に先を越されるリスクも高まるという点です。商標登録は先願主義を採用しているため、同じような商標を他社が先に出願していれば、こちらの権利は取得できません。

このように、最初の出願で漏らしてしまうと、金銭的にも戦略的にも大きな損失につながる可能性があります。

6. なぜこんな権利漏れが増えているのか

手続きの効率化と、確認不足の副作用

近年は、オンラインで簡単に商標出願ができるサービスが増えてきました。これ自体は便利で、手続きのハードルを下げる意味では良いことです。

しかし、その一方で「とりあえず入力して提出」という流れが一般化しており、チェック体制が不十分なまま進めてしまうケースが目立つようになっています。

特に「化粧品」のように一見して範囲が明確そうに見える指定商品は、「これだけで十分だろう」と判断されがちです。しかし、せっけん類のような「近くて遠い商品」を見落とすリスクは、想像以上に高いのです。

実際に、「化粧品」は含むが「せっけん類」を含まない商標権の件数を追跡すると、2019年から2022年にかけて倍近くに増加しているというデータがあります。これは、出願現場での確認不足が浮き彫りになっている証拠といえるでしょう。

化粧品は含むがせっけん類の抜けのある商標権数の推移
2019
1,292件
2020
1,822件
▲ +41.1%
2021
2,399件
▲ +31.7%
2022
2,193件
▼ -8.6%
2023
1,536件
▼ -30.0%
2024
1,625件
▲ +5.8%

効率化は重要ですが、それと同時に専門的な視点でのチェックも欠かせません。

7. 防ぐためのポイントは「同一料金内での最大カバー」

商標出願では、同じ区分内であれば追加料金なしで複数の商品を指定できます。したがって、最初の段階で「今扱っている商品」だけでなく、「今後扱う可能性のある商品」も含めて出願するのが賢明です。

特に化粧品ブランドを展開する場合、せっけん類、香料、つけまつ毛など、関連商品に展開する可能性は十分にあります。将来的な事業拡大を見据えて、幅広く指定しておくことで、後から困ることを避けられます。

専門家に依頼する場合は、遠慮せずに次のように聞いてみてください。

  • 「同一料金内で指定できる範囲を教えてください。」

誠実な専門家であれば、費用を変えずに最適な範囲を提案してくれるはずです。また、将来的なブランド展開の可能性についてもヒアリングし、それを踏まえた提案をしてくれるでしょう。

逆に、何も確認せずに最低限の指定だけで進めようとする場合は、注意が必要です。

8. まとめ:今のうちに「抜け」を点検しよう

化粧品の商標を取得して安心していたのに、実は「せっけん類」が抜けていた。そんな状況は、少しの注意で防げます。

もう一度、あなたの商標登録の願書を見直してみてください。「化粧品」だけになっていませんか。「せっけん類」や「香料」など、将来的に扱う可能性がある商品も含めて、出願内容をしっかりカバーしておくことが重要です。

権利漏れがあると、ライバル企業にその部分を取られてしまうこともあります。たった一行の指定漏れが、将来のブランド価値を左右することもあるのです。

すでに出願済みの商標がある場合は、指定商品のリストを確認してみましょう。もし漏れている商品があれば、早めに追加出願を検討することをおすすめします。まだ出願前であれば、専門家に相談して、最大限の範囲をカバーできるよう準備を進めてください。

商標は、ブランドを守るための大切な盾です。その盾に穴を開けないために、今一度、出願内容を見直してみてはいかがでしょうか。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

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