六花亭も北見工大生協も「そだねー」の商標登録出願は全滅

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流行語を商標登録したら独占できるのか。この問いに対する答えとして、実例があります。2018年に全国的な話題となった「そだねー」は、複数の出願者による競争の末、結局だれのものにもならず権利不成立で幕を閉じました。

結論から言えば、六花亭も北見工大生協に関わる動きも含め、「そだねー」の商標登録は通っていません。早い者勝ちが基本の商標制度に見えて、実は早いだけでは勝てないのです。この事件は、その現実をはっきりと示しています。

1. 事実整理として「そだねー」出願はどう競り合ったのか

商標の世界では、感情論よりもまず出願の事実がすべてです。特許庁が公開している情報をもとに、当時の出願内容を並べてみると、構図がはっきりします。

六花亭製菓株式会社が出願した「そだねー」は、2018年(平成30年)3月1日出願、3月20日公開、出願番号は商願2018-24549でした。指定商品は第30類の「菓子及びパン」であり、いわばお菓子の会社がお菓子の領域で権利を押さえに行った形です。ところが審査の結論は拒絶査定となり、登録に至らず終了しています。

一方で、それよりも早い段階で、北海道網走郡の個人名義による「そだねー」の出願がありました。2018年2月27日出願、3月13日公開、出願番号は商願2018-23345です。こちらは指定範囲が広く、第16類(文房具・紙・印刷物)、第25類(被服等)、第30類(茶・コーヒー・ココア・菓子・パン)と、いわばグッズ展開を全方位でカバーする構成でした。しかしこの出願も、結論は同じく拒絶査定です。

この時点でひとつ重要なポイントが見えてきます。仮に個人出願が登録になっていた場合、六花亭の第30類「菓子及びパン」は個人の指定商品に含まれているため、六花亭は同じ商標・同じ範囲で後願となり、制度上かなり厳しい立場に追い込まれていたということです。

2. 先に使った人ではなく先に出願した人が優先される先願主義の原則

ここで多くの人がつまずくのが、商標制度の基本ルールです。

商標は先に使った人が勝つわけではなく、原則として先に特許庁へ出願した人が優先されます。これがいわゆる先願主義であり、商標法第8条第1項が定める考え方です。

出願日が2018年2月27日の個人出願は、3月1日の六花亭よりも時間の上では前に立ちます。商標の世界では、この数日の差が致命傷になり得ます。ブランド担当者が一日遅れただけで負けると神経質になるのは、決して大げさではありません。

ただし、この事件の興味深い点(そして怖さ)は、ここから先にあります。

3. 早いだけでは勝てない理由と「そだねー」が誰のものにもならなかった背景

先願主義は、出願者同士の優先順位を決めるルールです。しかし、優先順位が1位でも、登録できるとは限りません。

商標は、出願すれば自動的に権利になるわけではなく、審査で商標として適格かどうかがチェックされます。そして流行語や、日常的に誰もが使うフレーズは、しばしばここで壁にぶつかります。

「そだねー」は、会話の相づちとして自然に使われる言葉です。

こうした表現は、商品名やブランド名として見たときに、消費者がどこの会社の商品かを見分ける目印(出所識別標識)として機能しにくいと判断されやすい傾向があります。

商標法第3条第1項各号などが典型的なチェックポイントであり、誰でも普通に使う表示を特定の人に独占させないという発想が強く働きます。

つまりこの件は、六花亭が遅れたから負けたという単純な話ではありません。

より根本的に、そだねー自体が権利化に向きにくい性質を持っていたため、先願・後願の勝負以前に、そもそも登録の門が狭かったのです。結果として、出願者が誰であれ、拒絶の結論に収れんしていきました。

4. 出願しただけで批判を受ける問題と法律上の線引き

ここで一度、冷静に線引きをしておきます。出願すること自体は、直ちに違法とは限りません。商標制度は申請して審査でふるいにかける仕組みだからです。商標法は、入口で誰かを締め出すのではなく、審査で登録に値するかを判断します。

ただ、法律と世間の空気は別物です。流行語や、誰か(あるいはチーム)が注目を集めて生まれた言葉を、無関係な第三者が先取りしようとすると、便乗だ、横取りだと受け取られやすく、SNSでは一瞬で批判が広がります。

とりわけ事例のようにみんなの記憶の中心にいる当事者が明確なケースでは、出願の動機がどうであれ、説明コストが跳ね上がります。

そしてもうひとつ、よくある誤解も解消しておきたいところです。

仮に商標登録されていたとしても、日常会話やSNS投稿で「そだねー」と書いたら直ちに問題になる、という話には通常なりません。

商標権が問題になるのは、原則として商品やサービスの出所を示す形で商業的に使用したときです。だから世の中の不安を煽るのではなく、何が規制され何が規制されないのかを理解した上で議論することが大切です。

5. 北見工大生協の動きも善意の着地を目指したが結果は同じだった

本件がさらに複雑で象徴的なのは、権利を取って儲けたいという単純な話にまとまらないルートも存在した点です。

当時、六花亭よりも先に出願した北見工大関係者側の権利を北見工大生協に移し、得られる利益をカーリングの発展に回す。そうした善意の着地が模索されていました。

ところが最終的には、その北見工大生協側の出願も拒絶査定となり、結局「そだねー」は誰も独占できない形で終わっています。

ここに、商標審査の本質があります。誰が出願したか、動機が善意かどうか、社会的に応援したいストーリーがあるかどうか。それらは確かに大切ですが、商標の登録可否は商標としての適格性によっても決まります。制度は情緒では動かないのです。

6. 先願主義が生む競争と中国の出願件数が示す現実

先願主義は合理的な制度です。もし先に使った人が勝ちだと、後から私の方が先に使っていたと名乗り出る自称先使用者が無限に出てきて、権利関係がいつまでも安定しません。だから世界の多くの国で、先願主義が採用されています。

しかし同時に、この制度は思いついたら先に出願した者が有利という競争も生みます。

極端な例として語られやすいのが中国で、商標「そだねー」が問題になった前年の2017年当時の商標出願は570万件を超えたとも言われ、日本の年間出願(当時12万件前後)とは桁が違います。

広辞苑等の辞書に載る語彙数が20万程度とされることを踏まえると、570万件規模は、もはや単語の先取りというよりあらゆる文字列を根こそぎ出願するような世界観です。

この状況を狙い撃ちというより、とにかく出せるものを出す大量出願の文化と見る方が、実態に近い場面もあります。

先願主義は、透明で割り切れたルールであるがゆえに、競争が過熱すると先に出した者が得をするゲームになりやすいのです。日本でも、流行語や話題語をめぐって同じ緊張感が高まったのが商標「そだねー」騒動でした。

7. 実務家として伝えたいこととして流行語の先取り出願は割に合わないことが多い

ここからは、商標実務のプロとしての率直な所感です。一般論として私は、他人が有名にした流行語を先取りして商標化することはおすすめしません。

理由はシンプルで、流行語は寿命が短いからです。去年の流行語大賞は覚えていても、一昨年、その前となると急に記憶があいまいになる人が多いはずです。

時間が経った流行語を、当事者ではない人が前面に出して商品を売ろうとすると、盛り上がるより先にいまさらという空気が勝ち、ブランドとしてはむしろマイナスに振れやすいものです。

加えて、たとえ登録できたとしても、流行語系の商標は守るコストが重いわりに回収できる期間が短くなりがちです。権利は取って終わりではなく、使い、育て、必要なら線を引いて守る。その労力に見合う長期の看板になりにくいのが、流行語商標の難しさです。

8. まとめとして「そだねー」はみんなの言葉のまま残った

「そだねー」をめぐる一連の出願は、先願主義という商標制度の現実を映し出しました。たしかに商標は早い者勝ちの側面があります。

けれども、早くても、広くても、話題性があっても、商標としてふさわしいかという根本条件を満たさなければ登録はできません。そして今回、六花亭も北見工大生協側も、その壁を越えられませんでした。結果として「そだねー」は独占されず、社会の共有財として残ったわけです。

この出来事が教えてくれるのは、流行に乗ること自体の善悪ではなく、権利化に向く言葉とみんなのものとして残すべき言葉が確かに存在するということです。ブランドを守りたいなら、流行語を追うより、自分たちで育てられる名前を作り、早めに、適切な範囲で、正攻法で押さえる。それが最も強く、結局は長く使える方法です。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

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