1. 2019年の記事後に起きたこと
2019年8月30日の記事では、学校法人瓜生山学園が大学名を「京都造形芸術大学」から「京都芸術大学」へ変更すると発表したことを取り上げました。その後、名称使用差止請求訴訟、控訴審での和解、両法人による商標出願の処理が進んでいます。
経過を理解する際は、大学名称の変更、不正競争防止法を根拠とする訴訟、商標登録を別の手続として見ることが肝心です。商標登録は、大学名を名乗る行政上の許可ではありません。
瓜生山学園は2020年4月1日に大学名称を変更しました。同年8月27日、大阪地方裁判所は京都市立芸術大学側の請求を棄却しました。控訴後の2021年7月20日、大阪高等裁判所で和解が成立しています。
和解条項では、瓜生山学園が「京都芸大」「京芸」を自らの通称又は略称として使わないことなどが定められました。京都市立芸術大学は、この二つを引き続き通称・略称として使うと公表しています。
商標の手続では、瓜生山学園の「京都芸術大学」が第41類で登録されました。京都市立芸術大学側は「京都市立芸術大学」「京都芸大」を登録し、自らが出願した「京都芸術大学」は取下げ又は放棄となっています。
以下では、当事者と裁判所の公表資料、商標公報の記録に沿って経過を確認します。
2. 名称使用訴訟は和解で終了
京都市立芸術大学側は、瓜生山学園による「京都芸術大学」の使用が不正競争防止法上の不正競争に当たるとして、名称の使用差止めを求めました。
大阪地方裁判所は2020年8月27日、両大学の表示について「市立」の有無などを検討し、請求を棄却しました。これは第一審判決であり、その後に控訴されています。
控訴審では判決ではなく和解で事件が終了しました。したがって、和解内容と第一審判決の理由を同じものとして扱うことはできません。
2021年7月20日の和解
両当事者は、大阪高等裁判所の仲介による協議を経て和解しました。公開された和解条項では、瓜生山学園が「京都芸大」「京芸」を通称又は略称として使わないこと、双方が相手の教育・研究活動を尊重することなどを確認できます。
瓜生山学園の商標登録
学校法人瓜生山学園が2019年7月17日に出願した「京都芸術大学」は、2021年12月23日に第41類で登録されました。
ただし、この登録を「大学名称を使ってよいという許可」と説明するのは正確ではありません。商標権は、指定商品・役務との関係で登録商標を使用する権利と、一定範囲で他人の使用を排除する権利です。
本件の名称使用紛争が終わった直接の根拠は、当事者間の和解です。商標登録は、その後のブランド保護を考えるうえで別に検討します。
3. 両法人の商標出願と登録
両法人は、正式名称、略称、周辺の商品・役務について複数の出願をしました。以下のカードは、J-PlatPatから取得した記録です。現在の権利状態を調べるときは、登録番号ごとの最新経過も確認してください。
和解の成立と出願の整理
公立側が出願していた『京都芸術大学』は取下げとなりました。商願2019-104711(区分41)および商願2020-110242(区分09・14・16ほか)は、いずれも終了・取下/放棄となっています。
一方、私立側の『京都芸術大学』は登録されました。登録6490756(区分41)として、出願2019年7月17日、登録2021年12月23日の経緯で確定しています。
公立側が確保した識別標識(ブランドの柱)
公立側は『京都芸大』を確保しました。登録6461620(区分41)は出願2019年7月11日から登録2021年10月26日に至り、登録6462320(区分09・14・16ほか)は出願2020年9月4日から登録2021年10月27日に至りました。
また、『京都市立芸術大学』も確保しています。登録6279312(区分41)は出願2019年7月11日から登録2020年8月12日に至り、登録6462319(区分09・14・16ほか)は出願2020年9月4日から登録2021年10月27日に至りました。
これらの記録から、瓜生山学園は「京都芸術大学」を、京都市立芸術大学側は正式名称と「京都芸大」を、それぞれ登録したことが分かります。
一方、京都市立芸術大学側が出願した「京都芸術大学」は取下げ又は放棄となりました。和解条項と出願処理は整合する方向に進みましたが、両者の権利範囲が完全に重ならないと一括して断定することはできません。
権利範囲は、登録商標、指定商品・役務、使用態様を個別に照合して判断します。「区分が違う」「少し表記が違う」という理由だけで結論は出せません。
また、登録公報は登録時の記録です。存続期間の更新、移転、取消し、無効などが生じ得るため、利用判断の直前に経過情報を見直します。
4. 和解と商標登録を分けて読む
和解の効力
和解は、訴訟の当事者間で紛争を終わらせ、約束した事項を拘束するものです。本件では、公開された和解条項を読むことで、略称の使用などについて当事者が何を合意したかを確認できます。
和解条項から離れて、「誰もこの文字列を記述できない」「名称の似た大学はすべて違法」と広げることはできません。
当事者以外の行為は、商標法、不正競争防止法その他の要件に照らして判断されます。
商標権の効力
商標登録は、登録された文字列を社会のあらゆる場面で独占する制度ではありません。指定商品・役務と同一又は類似の範囲で、商標として使われているかが問題になります。
報道、裁判の紹介、比較、住所録などで大学名を事実として記載する行為は、商品・役務の出所を示す使用とは評価されないことがあります。ただし、表示方法や文脈で結論が変わります。
商標権の存在は、自己の使用が適法であることを全面的に保証するものでもありません。他人の先行権利や不正競争防止法上の表示との関係は別に残ります。
そのため、和解成立、商標登録、実際の使用を一つの結論へ短絡させず、それぞれの根拠を確認します。
現在の状態を確認する
本稿のカードは、取得時点の公報情報を保存したものです。商標を採用する場面では、J-PlatPatで最新の権利者、指定商品・役務、存続期間、審判情報を確認します。
大学公式サイトの表記、ロゴ、略称も併せて確認すると、登録情報と実際の運用を混同せずに済みます。
5. 大学名を変更するときの確認事項
大学名の変更では、法令上の届出、既存大学・学校法人の名称、先行商標、略称、ドメイン名、SNSアカウントなどを並行して調査します。
名称候補が地名と教育分野を組み合わせたものであっても、登録の可否や他人との混同は個別判断です。一般的な語を含むことだけで、自由使用又は登録不可とは決まりません。
名称、略称、ロゴを分ける
正式名称が使えるからといって、希望する略称やロゴも使えるとは限りません。本件の和解条項が略称を明示したことは、呼ばれ方まで調査対象になることを示しています。
発表前に調査する
名称を公表した後に問題が判明すると、印刷物、ウェブサイト、看板、出願のやり直しが発生します。候補段階で検索し、近い名称を持つ当事者との混同可能性を検討します。
登録後も運用を確認する
登録した正式名称、略称、ロゴについて、使用主体と表記ルールを記録します。新しい商品や役務へ展開する際は、既存登録の指定範囲で足りるかを確認します。
なお、本件に関する私の初期解説は2019年8月29日の日本テレビ『news every.』でも取り上げられました。
参考:主要商標・手続の時系列(抜粋)
- 2019年7月11日出願(公立)
『京都市立芸術大学』商願2019-102177 → 登録6279312(区分41/2020年8月12日登録)
『京都芸大』商願2019-102174 → 登録6461620(区分41/2021年10月26日登録) - 2019年7月17日出願(私立)
『京都芸術大学』商願2019-097747 → 登録6490756(区分41/2021年12月23日登録) - 2019年7月18日出願(公立)
『京都芸術大学』商願2019-104711(区分41)→ 取下/放棄 - 2020年9月4日出願(公立)
『京都市立芸術大学』商願2020-110241 → 登録6462319(区分09・14・16ほか/2021年10月27日登録)
『京都芸大』商願2020-110243 → 登録6462320(区分09・14・16ほか/2021年10月27日登録)
『京都芸術大学』商願2020-110242(区分09・14・16ほか)→ 取下/放棄 - 2021年7月20日(裁判)大阪高等裁判所で和解成立(当事者発表)
6. よくある質問
Q1.「京都芸術大学」という名称は現在使われていますか?
学校法人瓜生山学園は、2020年4月1日から設置大学の名称として使用しています。大学公式サイトでも同名称を確認できます。
Q2.裁判はどちらの勝訴で確定したのですか?
第一審では京都市立芸術大学側の請求が棄却されました。その後の控訴審は、2021年7月20日の和解で終了しています。控訴審判決による勝敗ではありません。
Q3.瓜生山学園は「京都芸大」「京芸」を略称として使えますか?
公開された和解条項では、瓜生山学園がこの二つを自らの通称又は略称として使用しないことが定められています。
Q4.商標登録があれば、その名称を自由に使えますか?
自己の商標登録だけで、あらゆる使用の適法性が保証されるわけではありません。他人の権利、不正競争防止法、契約や和解の内容も別に確認します。
Q5.記事に大学名を書くと商標権侵害になりますか?
裁判や大学を説明するための事実記載は、通常、商品・役務の出所を示す商標使用とは異なります。ただし、公式サービスと誤認させる表示などは個別に検討します。
7. まとめ
「京都芸術大学」の名称使用をめぐる訴訟は、2021年7月20日の和解で終了しました。略称の扱いなど、当事者間の約束は公開された和解条項から確認できます。
商標については、瓜生山学園の「京都芸術大学」、京都市立芸術大学側の正式名称と略称などが個別に出願・登録されています。和解と商標登録は法的な働きが違うため、根拠を分けて読むことが本件の要点です。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247
参考資料
- 京都芸術大学「『京都芸術大学』への大学名称変更について」 https://www.kyoto-art.ac.jp/news/info/520
- 京都芸術大学「『京都芸術大学』の名称使用差止請求訴訟に関する和解成立のお知らせ」 https://www.kyoto-art.ac.jp/news/info/744
- 京都市立芸術大学「学校法人瓜生山学園との和解調書について」 https://www.kcua.ac.jp/20210720-2/
- 京都市立芸術大学「名称使用差止請求訴訟に関する和解成立に際しての理事長コメント」 https://www.kcua.ac.jp/20210720_comment/
- 裁判所「大阪地方裁判所令和2年8月27日判決」 https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-89685.pdf
- 特許情報プラットフォーム(J-PlatPat) https://www.j-platpat.inpit.go.jp/
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