1. 知的財産と商標の財産的価値
財産には不動産、動産、銀行預金など様々な形態があり、法律により保護されています。不動産や動産は所有権の対象となり、所有者は法令の制限内で自由に使用、収益、処分できます。
現代社会では、人の知的活動から生み出される情報も財産的価値を持ちます。
このような情報は、一定の要件を満たせば法律上の保護を受けられます。発明は自然法則を利用した技術的思想の創作ですが、新規性や進歩性を備えていれば特許権を取得でき、特許権者は特許発明を独占的に実施できます。
情報は不動産や動産と異なり実体を持たないため、権利の対象を明確化する必要があります。特許発明は「特許請求の範囲」の記載により技術的範囲が定められ、登録商標は商標そのものと指定商品・指定役務により権利範囲が確定します。産業財産権は特許庁への登録により権利が発生するため、権利範囲は比較的明確です。
発明の価値は技術的内容に左右されますが、商標の財産的価値は商標に蓄積した信用により決まります。信用とは需要者が商品に対して持つ知識であり、ブランド価値と呼ばれます。
ブランド価値の測定には様々なモデルがあり、例えば、経済産業省の「ブランド価値評価研究会報告書」(2002年)では、プレステージ、ロイヤルティ、エクスパンションの3つの要因から算定する方法を提示しています。
(経済産業省企業法制研究会編「ブランド価値評価研究会報告書」46頁以下)
2. 商標権を担保にした資金調達
事業を進める中で運転資金や設備資金が必要になる場合、金融機関からの借入れが資金調達の手段となります。貸手は貸金回収のリスクに備え、優先的に回収できるよう担保を求めることがあります。
担保として代表的なものは不動産ですが、知的財産も貸金の優先回収という目的に適うものであれば担保になります。知的財産は財産的価値の把握や換価が困難なため担保例は多くありませんが、知的財産を担保に融資を行う金融機関も存在します。
商標も知的財産であり、財産的価値が認められれば担保として資金調達が可能です。
商標権には質権を設定できますが、特許庁の原簿への登録が必要です。「特許行政年次報告書(2025年版)」によると、2022年に54件、2023年に7256件、2024年に8件の質権の設定・移転が確認されています。実際の例として、2004年11月30日に質権設定登録申請が行われ、2006年7月13日に質権設定抹消申請が行われた登録商標の記録もあります。
3. 事業性評価による融資
知的財産は価値創出の源泉であり、優れた知的財産を有する企業は高い競争力を持ち、中長期的な成長を見込めます。知的財産を担保としてだけでなく、企業の知的財産を適切に把握することで、事業内容や成長性を評価し融資につなげることが可能です。
知的財産による事業性評価には専門知識が必要なため、地域金融機関での対応は困難な面があります。そこで特許庁は2014年頃から支援事業を開始し、地域金融機関の申請により「知財ビジネス評価書」を提供しています。
地域金融機関は「知財ビジネス評価書」により、知的財産が企業活動にどう結びついているか把握でき、企業の将来的な収益確保の見通しを立てやすくなります。企業の持続的成長が見込めれば、担保や保証に依存せず融資でき、中小企業も資金調達しやすくなります。
本事業は地域金融機関が申請するものですが、令和7年度公募の三次募集(応募締切:8月29日17時)が開始されています。過去の取組では、商標権のブランド力に着目して融資につながった事例もあり、ブランドが評価されれば資金調達が円滑になることが示されています。
4. まとめ
商標登録により登録商標の保護を受ける理由は複数ありますが、最終的には強いブランドを確立し、市場競争で勝ち残ることが目的です。強いブランドの確立は事業の持続的成長を期待でき、金融機関からの資金調達も容易になり、経営安定化に貢献します。
注意点としては、使用されていない登録商標についての商標権の価値は低いです。誰も使っていない商標に、誰もお金を出資しようとは思わないからです。
その登録商標をぜひ使いたい、ぜひ譲って欲しいという人が現れて初めて商標権の価値が顕在化します。そういってもらえるよう、商標を有名にする事業の推進が大切です。
ファーイースト国際特許事務所弁護士・弁理士 都築 健太郎
03-6667-0247