アパレル商標で「靴類」を外すリスク:2020年以降の急増データが示す実務上の注意点

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1. なぜ今、アパレル商標における「靴類」の指定が重要なのか

アパレル業界で商標登録をする際、洋服だけを指定して靴類を含めていないケースが急増しています。

アパレル出願で「靴類」を外すリスク:データが示す注意点

2020年を境に、洋服は権利範囲に入っているのに靴類が入っていない商標登録が急増。
同じ第25類の範囲であれば、出願時に靴類を合わせて指定しても特許庁印紙代は変わりません。 ただし出願後に靴類を追加することは原則できず、別出願となり費用も手間も倍増します。

  • 対策:第25類の指定商品を「洋服+靴類(必要なら下着/ベルト/靴下等)」で起案
  • 依頼時の一言:「第25類で靴類を含めて漏れのない指定にしてください」
  • 判断基準:追加すると追加費用が発生するかどうか
データの推移(件数・筆者集計)
件数 前年比増減
20151,504
20161,738+234(+15.6%)
20171,969+231(+13.3%)
20181,873-96(-4.9%)
20191,886+13(+0.7%)
20202,999+1,113(+59.0%)
20213,386+387(+12.9%)
20223,575+189(+5.6%)
20232,657-918(-25.7%)
20242,710+53(+2.0%)

※ J-PlatPat検索に基づく筆者集計。

J-PlatPatでのデータ分析によると、2020年に前年比1,113件増(59.0%増)という急激な増加を記録しました。この傾向は、多くの事業者にとって将来的な事業展開の制約につながる可能性があります。

商標登録における第25類は、洋服(被服)と靴類(履物)の両方を含む分類です。

実は、同じ第25類内であれば、靴類を追加で指定しても特許庁の印紙代は変わりません。つまり、初回の出願時に靴類を含めておくことで、追加コストなしに権利範囲を広げることができるのです。

2. 見過ごされやすい制度上の落とし穴

商標登録の制度では、一度出願した後に指定商品を追加することは原則として認められていません。後から靴類の販売を始めたくなった場合、別途新規出願が必要となり、費用も手続きも最初からやり直すことになります。

この制度的な制約は、事業計画の変更や市場機会への対応に大きな影響を与えます。

例えば、洋服ブランドとして成功を収めた後、顧客から靴類への展開を求められたとします。その時点で商標権を取得しようとしても、すでに第三者が同じ商標で靴類の権利を取得している可能性があります。これは、ブランドの一貫性を保ちながら事業拡大することを困難にします。

3. データが示す構造的な変化

2015年から2024年までの10年間のデータを分析すると、明確な転換点が見えてきます。2015年から2019年まではおおむね1,500件から1,900件の範囲で推移していました。

しかし、権利漏れがある登録事例は2020年に2,999件へと急増し、その後も高い水準を維持しています。

2021年には3,386件、2022年には3,575件とピークを迎えました。2023年は2,657件と一時的に減少しましたが、2024年は2,710件と再び増加傾向を示しています。この持続的な高水準は、一時的な現象ではなく、業界全体の構造的な変化を反映している可能性があります。

4. なぜ「靴類」が漏れやすいのか

実務の現場では、いくつかの要因が重なって「靴類」の指定が漏れやすい状況が生まれています。

まず、出願プロセスの効率化を追求するあまり、依頼内容をそのままテンプレートに当てはめる運用が増えている可能性を指摘できます。

洋服のブランドを立ち上げる際、まず洋服のみに焦点を当てることは自然な流れです。しかし、商標登録の段階では、将来の事業展開も含めた包括的な検討が必要となります。

次に、初期投資を抑えるために必要最小限の指定にとどめる傾向があります。

確かに使用予定のない商品まで広範に指定することは、不使用取消のリスクを高めます。ただ、不使用取消審判により取り消される商品役務は使用していないものに限定され、使用している商品役務までは取り消されません。

追加の料金を払ってまで使用しない商品役務の権利を取る理由はありませんが、追加料金の支払いを求められない範囲について、使用する予定のあるものは含めて大丈夫です。

同一分類内で将来的に展開可能性の高い商品まで除外してしまうと、後々大きなコストとなって跳ね返ってきます。

さらに、出願時のコミュニケーションにも課題があります。

「今後3年以内に使用予定の商品」という質問に対して、現時点での計画のみを回答してしまうケースがあるのではないでしょうか。アパレル業界の変化は速く、市場のニーズに応じて商品ラインナップを拡充することは珍しくありません。

5. 実際に起こる問題とその影響

靴類を指定から外した場合、具体的にどのような問題が生じるのでしょうか。

経済的な負担が増大

後から靴類の権利を取得する場合、新規出願として扱われるため、出願料、審査料、登録料など一連の費用が再度発生します。また、代理人を利用する場合は、その手数料も改めて必要となります。

時間的なロスが生じる

商標登録には通常6か月から1年程度の期間が必要です。新商品の発売タイミングやコラボレーション企画など、ビジネスチャンスを逃す可能性があります。

競合他社による先取りリスクが高まる

自社ブランドの知名度が上がった後、第三者が同じ商標で靴類の権利を取得してしまう可能性があります。これを防ぐための交渉や訴訟は、多大な時間とコストを要します。

ブランド管理が複雑化する

同じブランド名でも商品カテゴリーごとに異なる出願番号、登録番号を管理することになり、更新時期や権利範囲の把握が煩雑になります。

6. 実務における具体的な対策

これらの問題を未然に防ぐために、出願前に確認すべきポイントを整理しました。

事業計画の観点からは、今後3年以内に靴類を取り扱う可能性を慎重に検討します。現時点で計画がなくても、顧客からの要望や市場の変化により、靴類への展開を検討する可能性はないでしょうか。

販売チャネルの観点では、ECサイトや店舗でのトータルコーディネート提案を考慮します。洋服だけでなく、靴を含めたスタイリング提案をする可能性があれば、靴類の権利も必要となります。

第25類の指定商品設計では、洋服と靴類を基本とし、必要に応じて下着、ベルト、靴下なども含めることを検討します。これらすべてを含めても、第25類の範囲内であれば特許庁の印紙代は変わりません。

指定商品の表現については、特許庁が推奨する標準的な表現を使用します。「被服」「履物」といった包括的な表現を用いることで、幅広い商品をカバーできます。

7. 商標登録を依頼する際の実践的アドバイス

商標登録を専門家に依頼する際には、「第25類については、将来の事業展開も踏まえて靴類を含め、漏れのない指定商品にしてください」と明確に伝えることが重要です。

この一言により、専門家は単に現在の商品だけでなく、将来的な事業展開も考慮した包括的な権利設計を行うことができます。また、なぜ靴類を含める必要があるのか、その理由も併せて説明することで、より適切なアドバイスを受けることができるでしょう。

8. 制度理解に基づく戦略的な権利取得

商標制度の基本的な仕組みを理解することで、より戦略的な権利取得が可能となります。

特許庁の印紙代は区分(類)単位で設定されているため、第25類の範囲内で指定商品を適切に記載する限り、洋服だけの場合も、洋服と靴類の両方を含む場合も、特許庁の印紙代は同額です。この制度を理解していれば、初回出願時に包括的な権利を取得することの合理性が明確になります。

一方で、追加料金が発生することが最初から分かっている範囲の指定商品を広げすぎると不使用取消のリスクが高まることも事実です。

商標法では、継続して3年以上使用していない商標について、第三者からの請求により取り消される可能性があります。請求があったとしても、使っている部分は取り消されませんし、請求は全件あるとは限らないので、びびり過ぎると損をします。事業計画と照らし合わせながら、「追加料金が発生しない範囲で、削りすぎている範囲はないか」適切な範囲での指定が求められます。

9. 今後のアパレル商標戦略への提言

2020年以降のデータが示す傾向は、業界全体で見直すべき課題を浮き彫りにしています。追加料金が発生しない範囲で、洋服だけでなく靴類も含めた包括的な権利設計は、ブランド価値を守り、事業の自由度を確保するために不可欠です。

アパレル業界は、ファッションのトータルコーディネートを提案する方向へと進化しています。洋服、靴、アクセサリーなどを統一ブランドで展開することは、もはや特別なことではありません。このような業界動向を踏まえれば、初回出願時から靴類を含めることは、むしろ自然な選択と言えるでしょう。

商標登録は、単なる手続きではなく、ブランド戦略の重要な一部です。初期の段階で適切な権利範囲を設定することで、将来の事業展開の可能性を広げ、不要なコストとリスクを回避することができます。データが示す傾向を理解し、制度の特性を活かした戦略的な商標登録を行うことが、これからのアパレルビジネスの成功につながるでしょう。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

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