1.はじめに
商標法では、商品の産地や販売地を示す地名など、一般的に使われる言葉のみからなる商標は、審査に合格しないと定められています。
その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
(第三条1項三号)
このルールに基づき、商標が「商品の一般的な名称」や「商品の産地・販売地」に該当するかどうかが争われた有名な「ジョージア事件」では、裁判所が以下のような判断を下しました。
2.ジョージア事件
「ジョージア事件」の判決内容の概要は次の通りです。
この事件では、商標「GEORGIA」が「商品の産地や販売地を普通に表示する商標」に該当するかが争点となりました。裁判所は、商標がその商品が実際に特定の場所で生産・販売されている必要はなく、消費者や取引者がその商品が特定の土地で生産・販売されていると思うことが十分だと判断しました。具体的には、消費者は「GEORGIA」からコーヒーがアメリカのジョージア州で生産されていると認識するため、この商標は商標法で定められた「商品の産地等を示す商標」に該当すると結論付けられました。原審の判断は正当であり、違法性はないとしています。
簡単に言うと、消費者が商品を特定の場所と結びつけて認識する場合、その商標は「商品の産地等」を示す商標とみなされる、という判断が下された事件です。
商標登録出願に係る商標が商標法三条一項三号にいう「商品の産地又は販売地を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当するというためには、必ずしも当該指定商品が当該商標の表示する土地において現実に生産され又は販売されていることを要せず、需要者又は取引者によつて、当該指定商品が当該商標の表示する土地において生産され又は販売されているであろうと一般に認識されることをもつて足りるというべきである。原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、本件商標登録出願に係る「GEORGIA」なる商標に接する需要者又は取引者は、その指定商品であるコーヒー、コーヒー飲料等がアメリカ合衆国のジヨージアなる地において生産されているものであろうと一般に認識するものと認められ、したがつて、右商標は商標法三条一項三号所定の商標に該当するというべきである。これと同旨に帰する原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、これと異なる見解に基づき原判決の違法をいうものにすぎず、採用することができない。
最高裁昭61.1.23(一部抜粋)
3.まとめ
裁判で争われた商標「GEORGIA」は、缶コーヒーでおなじみのブランド名です。この商標は、コカ・コーラ社の本拠地がジョージア州アトランタにあることに由来しています。
アメリカでコーヒーの産地として有名なのはハワイ島の「コナ」ですが、実際、アメリカ本土ではコーヒーの栽培は行われていません。それにもかかわらず、最高裁は「需要者や取引者が、商品がその土地で生産されていると認識すれば、実際にその事実がなくても商標は『一般的な名称』に該当する可能性がある」と判断しました。つまり、消費者がその地名を産地・販売地として認識すれば、それが商標拒絶の理由になり得るということです。
「GEORGIA」の商標は、当初の審査では拒絶され、裁判でも結果は覆りませんでしたが、別の出願によって商標登録を取得しています(商標登録第2055752号など)。
また、「ワイキキ事件」(東京高裁 昭和53年6月28日)では、観光地「ワイキキ」が有名であり、香水などの土産品に使用された際に、その地名が「化粧品」の産地・販売地とみなされるとされました。この判決では、商品の産地・販売地に該当するかは、他の有名な産地があっても問題ではなく、必ずしもその地が広く知られている必要はないとされています。
ファーイースト国際特許事務所
弁理士 秋和 勝志
03-6667-0247