アパレル分野で権利漏れ商標登録案件が急増か

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1. はじめに — 「服の商標は取ったから大丈夫」の落とし穴

「うちのブランドは服の商標をきちんと取ってあるから安心」

多くのアパレル事業者がこのように考えていますが、実はここに大きな落とし穴が潜んでいます。

ファーイースト国際特許事務所では、過去十数年分の商標公報を丁寧に分析してきました。その結果、2020年を境に、アパレル分野において権利範囲が不自然に狭い商標権が急増している傾向を確認しています。

特に注目すべきは、服については商標権があるにもかかわらず、靴については権利が取得されていないケースです。

このようなパターンが統計的に見て説明しづらいレベルで増加しています。商標実務に携わるプロの視点では、「そこを落とすのはあり得ない」という範囲がポロポロ抜け落ちているのです。

この記事では、アパレル分野で権利漏れが起こりやすい理由、実際の統計データが示す不自然な増加傾向、その背景にあると推測されるビジネス構造、そして今すぐ確認すべき自社ブランドのチェックポイントについて、商標専門家の視点から詳しく解説します。

2. 商標登録でミスが出やすいのはどの分野か

1−1.予想通り「アパレル」が最有力候補だった理由

当事務所内で、最近成立した商標権を眺めていて、ある弁理士がふと気づきました。

「最近、権利範囲が妙に狭い商標が増えていないか」

別の弁理士に聞いてみると、「今日もちょうどその話を事務所内でしていたところだ」との返事。どうやら「たまたま」ではなさそうです。

そこで、「もし商標に不慣れな人が多数出願しているとしたら、どの分野に影響が出やすいか」を、所内の弁理士・弁護士で真面目に議論しました。

その結論は「影響が出やすいのはアパレル分野だろう」というものです。

理由は明快です。アパレルでは、同じ料金で一緒に権利化できる指定商品が、知識がないと思いつきすらしない場所に隠れているからです。

商標に慣れていない方は「服のブランドだから、とりあえず服だけ指定しておけばいい」と考えるかも知れません。

一方、プロは日常的に出願を扱う中で、アパレル業者がどこまで権利を取っておくのが通常なのかを体感として理解しています。

この知識の差が、アパレル分野では顕著に現れます。

プロは同じ料金なら落とせない範囲を把握していますが、アマチュアは最低限思いついた範囲しか書きません。

1−2.「服はあるのに靴がない」典型パターン

当事務所の商標専門弁理士が疑ったのは「服の権利は指定しているのに、靴の権利を取り忘れている出願が激増しているのではないか」という点でした。

商標法上、服も靴も、指定商品としては同じ第25類(被服・履物等)に含まれます。つまり、服と靴を一緒に指定しても区分の数は増えず、原則として同一料金で権利化できます。

にもかかわらず、服は指定しているのに靴は指定していない商標権が不自然に多いとしたら、それは「そもそも靴のことを考えていなかった」、つまり権利漏れの可能性が高いといえます。

そこで、2010年以降に特許庁で登録となり、現在も権利が残っている商標権のうち、「服は含むが靴は含まない」ものだけを抽出し、年ごとに件数を集計しました。

Fig.1 商標権のうち、服の権利は含むが靴の権利の取得漏れが疑われる登録件数

服の商標権は含むが靴の商標権の取得漏れが疑われる登録件

その一部を抜粋すると、次のような推移になっています。

  • 2019年:2,398件
  • 2020年:3,735件
  • 2021年:4,396件
  • 2022年:4,591件
  • 2023年:3,352件
  • 2024年:3,484件

2019年から2020年にかけて、約1.5倍に急増しました。その後も2021〜2022年にはさらに増加し、高止まり状態が続いています。

これは、当初の予測どおり、「商標法に詳しくない人が権利範囲を決めて出願すると増えるはずのパターン」に合致する動きです。

もちろん、これだけで「アマチュアが大量出願している」と断定はできません。しかし、統計は嘘をつきません。データには明らかな傾向が現れています。

1−3.プロなら落とさないはずの範囲が「ごっそり抜けている」

プロの弁理士から見ると「服は取ってあるのに靴は取っていない」という商標権は、「そんな取り方をわざわざ選ぶ合理的な理由が見当たらない」ケースが大半です。

追加料金がかからないのに権利範囲を狭くしているわけですから、スーツを買うときに、「ジャケットとスラックスをセット価格で買えるのに、わざわざジャケットだけ受け取って、スラックス代も別に払う」ようなものです。

後から靴について商標権を取りたくなれば、当然ながらもう一度、同じ区分の料金を支払うことになります。

最初から一緒に取っていれば一回分の費用で済んでいたものを、二重に払う形になってしまうわけです。

それでもなお服だけを指定しているケースが急増している。この現象は、偶然ではなく何らかの構造的な要因が働いていると考えるのが自然です。

3. 専門家のチェックが行き届いていないのではないか

2−1.仮説1:下請け任せの大量処理ビジネスが台頭している可能性

権利指定の漏れが疑われる商標権が、ある時期から急に増えています。自然増であれば、グラフはなだらかな山形になるはずです。しかし、実際のデータは、2020年以降、不自然に膨らんだ”こぶ”のような形をしています。

これは、相撲の世界で言われる「八百長疑惑」の統計分析とよく似ています。

勝敗が自然に積み上がるなら分布は滑らかになりますが、人為的な調整が入ると、特定のラインで折れ曲がったようなグラフが現れます。

商標の世界でも同じです。

どの事務所がどの案件でという「犯人探し」は統計からは分かりません。しかし、自然な運用だけでは説明しにくい偏りは、はっきりと姿を現します。

想像しやすいシナリオのひとつが、「多数の問い合わせを広告などで集め、下請けにひな型作業を大量処理させるビジネスモデル」です。

法律業界では、過去にテレビCMなどで顧客を集め、アルバイト要員がマニュアルに沿って書類を量産するスタイルの業者が問題になったことがあります。

商標の分野でも、同様の発想に飛びつくプレイヤーがいてもおかしくはありません。

2−2.仮説2:専門家の目を通さず、そのまま特許庁へ

もう一つの仮説は、特許庁に提出される願書の内容が、商標の専門家によるチェックを経ていないというものです。

プロがきちんと中身を確認していれば、第25類で服を指定しているのに靴は指定していないという状態を「はい、これでOKです」とは非常に言いづらいはずです。

追加費用ゼロで靴まで取れることが分かっていればなおさらです。

にもかかわらず、「服だけ」の登録が有意に増えているとすれば、商標権がどういう仕組みか分からない人が願書を作っている、あるいは、チェックの段階で「権利漏れ」を気にする文化がない、という可能性が高いといえます。

これは料理にたとえると、カレーを作るのにタマネギとジャガイモを買い忘れて帰ってくる、麻婆豆腐を作るのに豆腐を買い忘れる、くらいのレベルのミスです。

一度でも自分でカレーや麻婆豆腐をきちんと作ったことがある人なら、まずやらないミスです。

同じように、アパレル分野の商標を日常的に扱っている専門家であれば、服と靴の関係を見落とすことはまずありません。

2−3.仮説3:権利範囲を狭く絞れば「早く・楽に・大量に」処理できる

もう一つ見逃せないのが、ビジネス上のインセンティブです。

お客さまが「服について商標権を取りたい」と相談してきたとします。ここで、専門家として自然な対応はこうです。

服だけでなく靴も一緒に指定しても追加費用はかからないことを説明します。

将来的に靴も扱う可能性があるなら、まとめて権利化した方がよいことを提案します。「販売」だけでなく、「デザイン」「クリーニング」「レンタル」など、実際に予定しているビジネスの範囲を一緒に洗い出します。

ところが、単位時間あたりの処理件数を最大化することだけを優先すると、発想は真逆になります。

お客さまが「服」と言ったら服だけを書いて出せばよくなります。

靴のことをわざわざ説明しなければ、相談時間が短く済みます。指定商品を服だけに絞れば、調査範囲も狭くなり、出願前の調査もラクになります。権利範囲を狭めれば、先行商標とバッティングしにくくなり、審査合格率も高く見せられます。

このように、「服だけ」に権利を絞る出願は、業者側にとっては非常に”都合が良い”ものになります。

その結果、お客さまは「商標登録できました」という通知だけを見て安心します。

実際には、将来必要となる権利の半分を取り逃しています。しかも、気がついたときには同じ区分の料金をもう一度支払うしかない、という構図が生まれてしまうのです。

4. 手を抜けば儲かる構造問題と、そのツケ

3−1.「高い合格率」と引き換えに失っているもの

アパレルで、最初から「服」だけに絞って出願すれば、調査する範囲が狭く済みます。ひな型に近い形で短時間に願書を作成できます。他人の商標と衝突する可能性が下がり、審査は通りやすくなります。

つまり、「高い合格率」を維持しながら大量出願が可能になります。

しかし、ここに落とし穴があります。

本来であれば、靴や関連サービスまで含めてチャレンジしていれば、多少審査で揉めても、結果として広い範囲の商標権を確保できていたはずの領域を、自ら捨ててしまっている可能性があるのです。

そして、あなたがあえて挑戦しなかったその領域に、後からやってきたライバルが先に商標権を取得してしまうかもしれません。

3−2.審査官と議論しないことのリスク

本当の意味での専門家にとって、審査官から「この範囲は登録を認めません」と言われたところからが腕の見せどころです。

指定商品を微調整する、使用実態を説明する、類否判断について法的な議論を行う、などの対応を粘り強く行うことで、本来取れるはずの権利を最大限確保していきます。

ところが、最初から権利範囲をぎゅっと絞ってしまえば、そもそもこうした議論をする場面自体が激減します。その代わりに、「無難に通るが、狭い権利ばかりが量産される」ことになります。

表面的な「うちは登録率これこれ%です」という数字がどれだけ高くても、本当に必要な範囲の権利を取り切れていなければ意味がありません。

むしろ、「登録率を上げるために最初から範囲を削っている」のだとしたら、それはブランド側から見てかなり不利な設計です。

3−3.相談時間を削れば削るほど、後でブランドが泣く

お客さま一人ひとりのビジネスモデルに合わせて、どのアイテムを扱う可能性があるか、どのチャネルで販売する予定か、将来どこまで事業を広げたいか、を丁寧にヒアリングしていけば、願書の作成にはそれなりに時間がかかります。

しかしその時間こそが、「権利漏れ」を防ぐための重要なコストです。

逆に、言われた範囲だけをそのまま書く、同一料金で取れる範囲をあえて説明しない、審査でぶつかりそうなところには最初から手を出さない、という方針をとれば、相談時間は短くなり、単位時間あたりの売上は増えるでしょう。

ただ、そのツケを払うのはブランドオーナー側であり、将来のビジネス拡大の可能性です。

5. あなたのブランドは本当に守られているか

最後に、この記事を読んでくださっているアパレル関係者の方に、ぜひ今すぐ確認してほしいポイントをお伝えします。

まず、自社の商標登録証や登録内容を見て、第25類の指定商品が「服」だけになっていないかを確認してください。

もし「被服」のみで、「靴」「履物」「運動用特殊靴」などの文言が一切入っていない場合、将来靴を扱う可能性が少しでもあるなら、権利漏れのリスクが高い状態です。

次に、アパレルといってもビジネスの形態はさまざまです。

自社ブランドをデザインしてライセンスするのか、実店舗やECで販売するのか、クリーニング、リメイク、レンタルなどのサービスも行うのか。

これらによって、必要となる商標の指定商品・指定役務は変わります。「服の販売の商標を取ったから、デザインやレンタルも勝手に守ってくれる」といった誤解は、残念ながら一切通用しません。

専門家に相談するときは、「服について商標を取りたい」だけで話を終えるのではなく、「今こういう事業をしていて、将来ここまで広げたい」というところまで、ぜひ本音で共有してください。

プロであれば、そこから逆算して同一料金で取り切れる範囲を最大限提案するのが本来の役割です。

6. まとめ — スーツを上下で買う感覚で、商標も「まとめ取り」を

最後に、よくあるストーリーを一つ紹介します。

あるブランドが立ち上がったとき、オーナーは「まずは服だけだから」と考え、第25類のうち「服」だけについて商標権を取りました。登録も無事に終わり、そのときは「これでひと安心」と思っていました。

数年後、ブランドが成長し、靴のラインも立ち上げることになりました。大手商社との取引の話も持ち上がり、契約の直前にこう聞かれます。

「ところで、このブランド名の”靴”についての商標権はきちんと取ってありますよね。もし空いているなら、他社に先に取られると、後からビジネスが止まりますよ」

そこで初めて、服については商標があるが、靴については商標がない、という事実に気づくことになります。そして、同じ区分についてもう一度料金を支払って出願するか、あるいはその間に他社に先を越されていて、ブランド名の変更を余儀なくされるかもしれません。

最初の出願のときに、服と靴が同じ区分で、しかも追加料金なしの同一料金で権利化できる、というポイントさえ押さえていれば、避けられたはずの事態です。

商標登録は、目の前の「登録できました」という事実だけを見ると、どの専門家に頼んでもあまり違いがないように見えるかもしれません。

しかし、その一枚の登録証が、5年後・10年後のビジネスの自由度をどこまで守ってくれるのか、という視点で見れば、差は決して小さくありません。

お金を払って商標登録をする以上、「本当にその内容で権利範囲を決めてしまっていいのか」を、一度立ち止まって疑ってみてください。

そして、アパレルの分野であれば、「服だけでなく靴まで含めて、スーツを上下で買う感覚で”まとめて権利を取る”」ことを、ぜひ意識していただきたいと思います。

あなたのブランドが、将来「靴」で足元をすくわれないように。そのための気づきとして、本記事がお役に立てば幸いです。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

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