1. はじめに
現代のビジネスシーンにおいて、ブランドや企業のアイデンティティを守るために商標登録は欠かせないものになっています。
この商標登録が企業や個人のブランドを保護するための重要な役割を果たす背景には理由があります。商標登録しておけば、後から他社が同じ内容の権利を取得できなくなるので、登録された範囲で商標を使用している限り、他社から商標権侵害で訴えられることがありません。
ここで誤解されやすいのは、商標登録の手続は単に関連書類を提出するだけで完了するものではないという点です。
市役所や区役所等に住所変更や印鑑変更届等を提出して受理されればそこで手続は完了しますが、商標登録の場合は、書類を特許庁に提出した段階が手続の始まりになります。
今回は、商標登録の意義と、なぜ最初の書類提出だけでは十分でないのかについて解説します。
2. 商標登録出願の手続き
商標は、ある商品やサービスが自社から提供されていることを示すためのブランド名やロゴなどのシンボルです。この貴重な商標を守るためには、適切な手続きを経て、特許庁で登録される必要があります。
では、具体的にどのような手続きが必要なのでしょうか。
2-1. 書類の整備とは?
商標登録を申請するためには、まずは詳細な申請書類を整備する必要があります。これには、希望する商標の詳細、使用される商品やサービスのカテゴリ、申請者の情報などが含まれます。また、商標が特定の立体商標でデザインを持つ場合、具体的な説明や図面も必要となる場合があります。
2-2. どんな形式で提出すべきか?
提出する書類は、商標法が定める一定のフォーマットに沿った形で提出する必要があります。
オンラインでの提出も可能ですが、紙の書類で提出する場合は、指定された用紙に記入し、必要な添付書類と共に郵送する方法が一般的です。
また、書類に不備があると審査が行われず、不備を正す様に指令があります。指令に定められた期間内に応答しないと出願自体が却下されるため、提出前に書類の確認は念入りに行うことが重要です。
3. 誰でも出願はできるけれど
商標登録を考えている方の中には、「書類を揃えれば誰でも簡単に出願できるのでは?」と考えている方もいるかもしれません。確かに、願書が特許庁で受理されるハードルは高くありません。しかし、出願したからといって、そのままスムーズに商標が登録されるとは限らないのです。
この状況を、もう一つの身近な例として「自動車運転免許試験」に例えてみます。
運転免許の試験は、ある程度の知識と技術を身につけた人であれば、誰でも受験することができます。
しかし、実際に免許を取得するためには、筆記試験や実技試験をクリアしなければなりません。つまり、試験を受けることと、その試験に合格することは異なるということです。
同様に、商標の出願も、出願すること自体は簡単ですが、それが審査を通過し、実際に登録されるかは別の話となります。特許庁の審査官は、出願された商標が他の既存の登録商標と紛らわしいか等の法的な問題がないかなど、全ての商標法の規定に違反していないか厳格に審査を行います。
そのため、単に出願するだけではなく、出願前の準備や、どのようなポイントに注意しなければならないのかを理解することが、成功へのカギとなるのです。
4. 形式審査のチェックと内容審査のチェック出願却下審査の過程と拒絶査定
商標の出願が行われると、出願された商標は厳格な審査プロセスを経て、登録の可否が判断されます。この審査プロセスは大きく分けて、「形式審査」と「内容審査」の2つのステップから構成されています。それぞれの審査において、どのようなポイントが重視され、どのような基準で商標が評価されるのでしょうか。
4-1. 形式審査と出願却下
形式審査では、出願書類の形式や提出方法、必要な情報の記載有無など、手続き的な側面が主に確認されます。例えば、必要な書類の記載が揃っているか、書類に誤りや不足がないか、手数料が正しく支払われているかなどの点を検証します。この段階では、商標の内容自体の評価は行われません。
先に触れたように、記載内容に不備があって、特許庁から直すように指示される指令通知に期限内に対応しないと出願自体が却下されて出願しなかった状態に戻ってしまいます。
電話やメールでの通知は特許庁からはありません。実際に届く郵便物を見落とすと権利がなくなってしまいますので注意しましょう。
4-2. 内容審査と拒絶査定
一方、内容審査では、出願された商標の内容に焦点を当てて詳細な審査が審査官により行われます。具体的には、商標が他の既存の商標と紛らわしくないか、特定の商品やサービスとの関連性が明確であるか、みんなが使う表現を独り占めしようとしていないかなどの基準に基づき、商標の登録の可否が判断されます。
もし、内容審査の段階で問題が指摘された場合、書面による反論の機会が与えられます。
仮に反論内容が認められない場合には、商標登録の拒絶査定となる可能性が高まります。拒絶査定は、その名の通り、商標の登録を拒絶される判断です。
この判断を回避するためには、出願前の十分な下調べや、適切な出願書類の整備が不可欠です。
商標の出願は、単に形式的な手続きだけではなく、緻密な審査が伴います。登録を成功させるためには、これらの審査プロセスをしっかりと理解し、適切な対応を行うことが求められます。
4-3. 拒絶理由とは
商標登録を行う際、出願した商標が認められず、登録が拒絶されることがあります。この拒絶の理由は多岐にわたりますが、その中でも特に注意しなければならないのが「法上の不登録事由」です。では、この法上の不登録事由とは具体的にどのようなものなのでしょうか。
法上の不登録事由とは、法律で定められた特定の条件に該当するため、商標として登録できない事由のことを指します。例えば、公序良俗に反する表示、一般的過ぎて商標としての識別力を持たない言葉やデザイン、他の既存の商標との混同の恐れがあるものなどが、法上の不登録事由として挙げられます。
特に注意すべき点として、一つの不登録事由が存在するだけで、出願全体が拒絶査定となる場合があります。つまり、多くのポイントで商標が認められる条件を満たしていても、一つの小さな不登録事由に引っかかるだけで、出願は拒絶されてしまいます。
このようなリスクを回避するためには、出願前にしっかりと商標の内容を検討し、可能な限り法上の不登録事由を避けるように心がけることが重要です。また、拒絶理由の通知が来た場合でも、適切な対応を行うことで、対応が可能なケースもあります。商標登録のプロセスは複雑であり、拒絶理由をしっかりと理解することが成功の鍵となります。
4-4. 拒絶査定を避けるために
商標登録は企業や個人のブランドや製品を守る上で欠かせないものです。しかし、出願しただけで必ずしも登録が認められるわけではありません。拒絶査定を避けるためには、出願前の段階で注意すべき法律上のポイントを押さえておくことが必要です。
4-5. 事前にチェックすべき法律上のポイント
- 一般的すぎる名称の避ける:商標としての識別力が不足していると判断される可能性が高いため
- 他の既存の商標との混同:類似した商標やデザインが存在しないかを確認する
- 公序良俗に反する表示の排除:社会的に好ましくない、または不適切とみなされる表示は避ける
- 明確な商品やサービスのカテゴリを指定:あいまいなカテゴリや商品・サービスの内容指定は拒絶の原因となることがある
5. 注意点として押さえておくべき事項
5-1. 出願時の情報は正確に
住所や名称、連絡先などの基本情報を間違いなく記載します。
5-2. 弁理士・弁護士のアドバイスを受ける
商標の専門家の弁理士や弁護士のアドバイスを受けることで、最終審査合格までの成功率を高めることができます。
5-3. 出願前の事前調査
先に出願登録同名や類似の商品・サービスがないか、後で審査官に指摘されると予測される事項を事前に確認します。
商標の出願は一見単純に見えますが、多くの法律上の要件や条件を満たす必要があります。拒絶査定という結果を避け、無駄な時間や費用を節約するためにも、上記のポイントをしっかりと押さえて、出願へと進むことをおすすめします。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
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