索 引
1. はじめに: 初めての商標登録を検討されている皆様へ
商標登録は自社のブランドを守る重要な投資ですが、適切に計画しないと思いのほか高額になることがあります。
私はこれまで20年以上、約2万件の商標登録をサポートしてきた弁理士として、最近、商標出願の内容の不十分な案件が増加しているように感じます。
今回は、商標登録にかかる費用構造を理解し、初めから賢く計画することで長期的なコスト削減につながるポイントをご紹介します。
2. 商標登録費用の3つの落とし穴
1. 区分数の増加が長期的な費用増に直結
商標制度では、商品・サービスを45の区分に分類しています。例えば、アプリなら第9類、医業なら第44類というように区分けされます。
重要なのは、区分ごとに費用が発生するという点です。基本的な特許庁に支払う印紙代を見てみましょう:
- 1区分の場合:出願12,000円、登録32,900円、10年後の更新43,600円
- 2区分の場合:出願20,600円、登録65,800円、10年後の更新87,200円
区分が増えれば増えるほど、初期費用だけでなく、10年ごとの更新費用も比例して高くなります。「念のため」に多くの区分を指定すると、将来的な財政負担が雪だるま式に膨らむのです。
2. 同一区分内での過剰な指定が審査の壁に
同じ区分数でも、区分内に列挙する商品・サービスが多すぎると問題が生じます。
特許庁の審査官から「本当にこれら全てを使う予定があるのか」という「使用意思の疑義」を問われるリスクが高まります。
また、指定商品・サービスが多ければ多いほど、既存の登録商標と抵触する可能性も高くなります。これにより:
- 拒絶理由通知への対応
- 補正書や意見書の作成
- 場合によっては弁理士への追加相談費用
が発生し、結果的に登録までの時間とコストが増大してしまいます。
3. 後からの追加は「新規出願」扱いで二重支払いに
ところが「ビビり過ぎ」も費用増加の要因になります。
例えば、一つの区分内に多くの指定商品役務を詰め込むと、特許庁から商標を本当にそんなに多くの業務範囲に使用するのかどうかを尋ねる拒絶理由がかかります。
この拒絶理由を悪いこととして捉えて、特許庁からの拒絶理由通知を回避するために、本来なら必要な指定商品役務の範囲を削ってしまったとします。
ところが、後から削った範囲を取り直すには、未来永劫、最初の費用と同額の倍額費用の支払いが発生してしまいます。
また、弁理士の追加相談費用の発生を恐れて、必要な範囲の権利を取らず、後から取らなかった範囲の商品役務の範囲を追加取得するとなると、やはり未来永劫、最初の費用と同額の倍額費用の支払いが発生してしまいます。
事業拡大に伴い新たな商品・サービスに商標を使いたくなったとき、当初の出願で指定していなければ新たに出願するしかありません。この「後からの追加」は初回と同じ費用がかかります。
例えば、当初アプリ開発(第9類)のみで登録し、後でインターネットを利用して受信し及び保存することができる画像ファイル(第9類)を追加すると、出願料・登録料・弁理士費用など全てを再度支払うことになります。
また先行商標との権利衝突を恐れすぎて、出願を見送った範囲があった、とします。本来ならチャレンジすれば通ったはずなのに、実際にチャレンジした他の誰かに後から権利を横取りされてしまうこともありえます。
3. 賢い商標戦略: 初めから全体を見据えたアプローチ
未来に予想される出費も考慮して、全体を圧縮する案を考えるのが大切です。
最初の出費を絞ったことが原因で、後からがっつり追加費用が発生することは避けるのが懸命です。出願する前に全体像をよく練るのが大切です。
後からがっつり追加費用が発生することを注意してくれるところは少ないです。自分の取り分が減るからです。逆に教えないことにより「安く商標登録できた」とよろこんでもらえる場合もありえます。
これらの落とし穴を回避するためには、出願前に事業の全体像と将来計画をしっかり検討することが不可欠です。以下の戦略が効果的です。
1. 将来性を見据えた区分設計
現在の事業だけでなく、3〜5年後に展開する可能性のある事業領域も視野に入れましょう。ただし、むやみに区分を増やすのではなく、実現可能性の高い事業計画に基づいて選定することが重要です。
2. 区分内の商品・サービス指定を最適化
区分内で指定する商品・サービスは、実際に使用する予定のものに絞りつつ、将来的な展開も考慮して適切な範囲で設定しましょう。あまりに広範囲だと審査で問題になり、狭すぎると保護が不十分になります。
3. 一括出願のメリットを活かす
複数区分をまとめて出願することで、出願ごと、権利ごとに発生するコスト削減が可能です。ばらばらに分けて出願するよりも、計画的に一括出願することが賢明です。
一つの願書で一つの区分を指定することも、複数の区分をまとめて指定することもできます。
知らなければ、一つの出願にまとめることができるのに、わざわざ別々の出願に分けられても気が付きません。
本来なら一つの出願費用の支払いで済むのに、別々の出願分の出願手数料を請求されるかもしれないことを押さえてください。
4. まとめ: 長期的視点でコストを抑える商標戦略
商標登録は一度きりの出費ではなく、10年ごとの更新費用も含めた長期的な投資です。弁理士・弁護士との出願内容の検討が十分でないと、結果的に総コストの増大を招きます。
初めから事業全体を見据えた適切な区分設計と商品・サービス指定を行うことで、無駄な費用を削減し、強固な商標保護を実現できます。
商標は企業の貴重な資産です。弁理士・弁護士の専門家に相談しながら、計画的かつ戦略的な商標登録を行いましょう。適切な準備と計画が、長期的なコスト削減と効果的なブランド保護につながります。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247