索 引
商品名は、売場や検索結果で消費者が最初に触れる情報の一つです。ただし、名称変更後に売上が伸びた事例でも、商品の改良、容器、広告、販路、価格などが同時に変わっていることがあります。数字だけを見て「名前を変えれば同じ結果になる」とは判断できません。
1. 名前を変えれば売上が増えるとは限らない
名称変更の事例から読み取れるのは、改名だけの効果ではなく、企業が商品の価値をどの言葉で伝え直したかです。旧名称が消費者に伝わりにくかったのか、商品カテゴリが分かりにくかったのか、想定する購入者が曖昧だったのかを切り分けます。
- 理解:何の商品で、どのように使うのかが名称から伝わるか。
- 記憶:聞き間違いや表記揺れが少なく、検索しやすいか。
- 識別:競合の商品名と区別でき、商標として登録できる見込みがあるか。
- 展開:シリーズ化、海外展開、ドメイン名やSNSでの使用に耐えられるか。
売上の前後比較を使う場合は、比較期間と指標が売上高なのか数量なのかを確認します。企業が公表した一次資料にない倍率や因果関係を補ってはいけません。
2. 「お~いお茶」に見る、呼びやすい名前への転換
伊藤園は、1985年に「缶入り煎茶」を発売し、1989年2月に「お~いお茶」へ名称を変更したと説明しています。「煎茶」という商品説明型の名称から、会話の呼びかけを用いた名称へ切り替えた例です。
同社の公表資料では、緑茶の飲料化に向けた試作、容器への対応、茶葉の調達、商品展開もブランド成長の要因として挙げられています。したがって、現在の販売実績を名称変更だけの成果とみなすのではなく、商品と名称を一体で育てた事例として捉えるのが妥当です。
「鼻セレブ」は、保湿ティシュの用途を「鼻」という具体的な言葉で示し、「セレブ」で上質感を表した名称です。王子ネピアへの取材記事では、前身のモイスチャーティシュとの比較で売上が10倍以上へ成長したと紹介されています。
この事例でも、名称だけでなく、動物を用いたパッケージと製品の品質改良が行われています。名前と視覚表現が同じ商品価値を伝えている点に注目します。
3. 「カレーメシ」に見る、商品像が伝わる名前
「カレーメシ」は、「カレー」と「メシ」を結び付けた短い造語です。既存の商品カテゴリを説明するだけでなく、混ぜて食べるカップ入りのご飯という商品像を印象づけます。
日清食品は、2024年度にシリーズの年間売上が150億円を超えたと公表しています。一方、その成長には、お湯かけ調理への変更、品ぞろえ、広告、生産体制なども関係します。名称はブランドの入口ですが、売上は事業活動全体の結果です。
龍角散は、かつて「クララ」という顆粒タイプの商品を展開していました。その技術を受け継ぎながら、成分や商品設計を見直し、「龍角散ダイレクト」として龍角散ブランドへまとめています。
これは単純な改名ではなく、商品開発とブランド統合を伴う例です。既に信頼を蓄積した企業名やブランド名を活用するときも、新旧商品の差と変更内容を消費者へ正確に示す必要があります。
サントリーは、BOSSを1992年に発売したブランドとして説明しています。「働く人の相棒」という役割を商品設計と広告で一貫させ、発売後3年で3千万ケースを超えたと公表しています。
過去に別の缶コーヒー商品が存在していたとしても、それだけで「旧商品の改名」とは断定できません。ブランドの新設、商品リニューアル、名称変更は区別して扱います。
4. 「まるでこたつ」に見る、使用感を伝える名前
岡本は、旧名称では「何に効果的なのか分からない」「三陰交が何か分からない」という声があり、利用者を十分に獲得できなかったと説明しています。そこで、商品の使用感を想像しやすい「まるでこたつソックス」へ変更しました。
同社によると、2013年と2016年の出荷数量を比べた伸長率は17倍以上です。この数字は売上高ではなく数量ベースであり、販路拡大などの施策も含む期間比較です。指標の条件まで示すことで、事例を過度に一般化せずに紹介できます。
「通勤快足」は、「快速」を連想させながら「足」の文字で靴下の用途を示す名称です。機能そのものより、その機能が役立つ場面と対象者を前面に出しています。
研究資料では、1987年の発売から2年で45億円の売上を達成した商品として紹介されています。ただし、広告展開や販路などの条件も含むため、名称だけの効果として計算することはできません。
ファーストリテイリングは、2007年に「UT STORE HARAJUKU.」を開設し、Tシャツの専門ブランドとして発信しました。短い名称は媒体をまたいで表示しやすい一方、二文字の名称だけで商品内容を説明するものではありません。店舗、商品構成、デザインとの組合せで意味を持たせた例です。
5. ネーミングと商標調査を同時に進める
伝わりやすい名前が決まっても、他人の先行商標と抵触すれば、そのまま採用できないことがあります。広告やパッケージを作り込む前に、候補名ごとに商標調査を行います。
- 候補名の文字、読み方、ロゴ案を書き出す。
- 使用する商品・サービスと、今後追加する可能性のある事業を確認する。
- J-PlatPatで同一・類似する文字や称呼を検索する。
- 識別力、先行商標、他人の著名表示などの登録障害を検討する。
- ドメイン名、SNSアカウント、会社名、不正競争防止法上の表示も別に確認する。
- 採用前に出願時期と公開スケジュールを合わせる。
J-PlatPatの検索結果だけで登録可能性が確定するわけではありません。文字が一致しなくても、読み方や意味、商品・サービスの関係によって類似と判断されることがあるためです。
6. 名前を決める前の確認事項とよくある質問
Q1. 売れた商品の名前に似せれば、同じ効果を期待できますか。
期待できるとは限りません。商品の品質、価格、広告、販路、時期が異なります。先行商標への抵触や、著名表示へのただ乗りと評価される危険もあります。
Q2. 説明的で分かりやすい名前ほど商標登録しやすいですか。
そうとは限りません。商品の品質、用途、効能などを普通に表示するだけの名称は、識別力がないとして登録を受けにくい場合があります。伝わりやすさと識別力の両方を検討します。
Q3. 候補名は一つに絞ってから調査しますか。
複数の候補を残した段階で調査する方が、先行商標が見つかったときに戻り作業を減らせます。優先順位と代替案を決めておくと進めやすくなります。
Q4. 文字商標を登録すればロゴも保護されますか。
文字商標と図形を含むロゴでは、登録される標章の態様が異なります。実際の使用方法と将来のデザイン変更を踏まえ、文字とロゴを分けて出願するかを検討します。
Q5. 名称を決めてから発売まで、何を管理しますか。
商標出願、ドメイン名、SNS、パッケージ、広告審査、ライセンス、旧名称の在庫と切替日を一つの予定表で管理します。公表前に候補名が外部へ漏れないよう、秘密保持も確認してください。
参考:伊藤園「お~いお茶の累計販売数量が300億本を突破」、王子ネピア「鼻セレブ」、日清食品「日清カレーメシシリーズの製造ラインを新設」、龍角散の歴史、サントリー「研究開発100年の歴史」、岡本「まるでこたつシリーズに新色登場」、ファーストリテイリング「UT STORE HARAJUKU.」、特許情報プラットフォーム J-PlatPat
ファーイースト国際特許事務所
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