なぜAI人事部は商標登録できるのか?

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皆さんは「AI人事部」という言葉が商標登録されていることをご存知でしょうか?

驚かれる方もいると思いますが、商標「AI人事部」は実際に登録されています(商標登録第6245798号)。

一般的に考えると、こうした一般的な用語の組み合わせが特定の企業に独占されることに疑問を感じるかもしれません。今回は、なぜ「AI人事部」のような言葉が商標登録できるのか、その背景と理由について詳しく解説していきます。

出願番号/登録番号/国際登録番号:登録6202035(商願2018-113101)
商標(検索用):AI人事評価
区分:09, 35, 42
出願人/権利者/名義人:株式会社BusinessTech
出願日/国際登録日(事後指定日):2018/09/07
登録日:2019/11/29
出願番号/登録番号/国際登録番号:登録6245798(商願2019-063280)
商標(検索用):AI人事部
区分:09, 35, 41
出願人/権利者/名義人:株式会社電通グループ
出願日/国際登録日(事後指定日):2019/04/26
登録日:2020/04/15
出願番号/登録番号/国際登録番号:登録6368430(商願2019-053458)
商標(検索用):AI人事4.0
区分:35, 42
出願人/権利者/名義人:株式会社スキルアカデミー
出願日/国際登録日(事後指定日):2019/04/17
登録日:2021/03/25
出願番号/登録番号/国際登録番号:商願2024-115161
商標(検索用):AI人事部長
区分:09, 42
出願人/権利者/名義人:株式会社ファブリカホールディングス
出願日/国際登録日(事後指定日):2024/10/28
登録日:

1. 商標法の基本原則と識別性の重要性

商標法には重要な基本原則があります。一個人、一企業にみんなが使う言葉を独占させると社会的な混乱が生じるため、商標法第3条では「識別機能をもたない商標は登録しない」という規定があるのです。

識別機能とは、他社の業務から自社の業務を区別することができる商標の持つ機能です。

例えば「りんご」という言葉は果物を表す一般的な名称であり、特定の企業が果物のりんごに対して「りんご」という言葉を独占することはできません。

なぜなら、「りんご」という言葉はみんなが使う言葉であり、特定の者に帰属するものではないからです。

このような一般的な言葉は、他社と自社を区別することができないと考えられ、原則として商標登録は認められません。

ただ、「りんご」という言葉は過去にコンピュータに使われた事例がなければ、コンピュータにりんごとの名前を付けるのは一般的とはいえないです。このため、コンピュータを指定商品として「アップル」との商標の登録が認められる関係になります。

2. 「AI人事部」が登録された理由

では、なぜ「AI人事部」という言葉が商標登録されたのでしょうか?その背景には主に以下の理由があります。

1.出願当時は一般的でなかった先進的な造語だった

現在では「AI人事部」という言葉をよく耳にするかもしれませんが、出願当時はこの用語はほとんど使われていませんでした。数年前の時点でこの言葉をネット検索してもほとんどヒットしなかったことから、特許庁の審査判断時点では「世の中になかった造語」と判断されたのです。

商標登録の審査においては、審査時点での言葉の普及度が重要な判断基準となります。全く世の中にない言葉や、あまり使われていない新しい言葉であれば、「誰もが使っていた実績がない」ということになり、特定の企業による登録が認められる可能性が高まります。

例えば「iPhone」という商標も、アップル社が出願した当時はスマートフォンという概念自体が一般的ではなく、「i」と「Phone」を組み合わせた造語として独自性があると判断されました。同様に「AI人事部」も、AIと人事部を組み合わせた当時としては革新的な造語だったと考えられます。

2.巧みな権利範囲の設定戦略

「AI人事部」の商標登録において興味深いのは、指定商品役務(その商標を使用できる商品やサービスの範囲)に「人事」という言葉が明示的に含まれていないという点です。これは権利化の上手な戦略と言えるでしょう。

例えば登録商標「AI人事部」や「AI人事評価」は、指定商品役務に「人事」の言葉が直接的に登場しません。これにより、「人事」の業務について「AI人事部」や「AI人事評価」は誰もが使える業務の言葉ではないか、との批判を回避することができるのです。

一方で、「AI人事4.0」のように、「人事」以外の言葉が商標に組み込まれると、人事関係の業務であっても商標登録の可能性が高まります。これは、その組み合わせによって全体として識別性が生まれるためです。

3. 識別性を高める言葉の組み合わせ技術

商標登録において「識別性」は最も重要な要素です。一般的な言葉であっても、他の言葉と組み合わせることで全体として識別性が生まれ、登録が認められることがあります。

例えば、「東京」という地名は誰もが使う必要のある言葉ですから、単に産地や業務の提供場所として登録するのは認められません。

しかし、「東京スカイツリー」のように「東京」の言葉を含む場合でも別の言葉を付け加えると登録の可能性が高くなります。「東京スカイツリー」という言葉には独自性が生まれ、全体として識別性が認められるからです。

同様に、「AI」や「人事部」という言葉は単体では一般的かもしれませんが、それらを組み合わせた「AI人事部」という表現は、出願当時においては十分な独自性と識別性を持っていたと考えられます。

4. 時代の変化と商標の価値

興味深いことに、一度登録された商標は、後にその言葉が一般的になったとしても、原則として権利は維持されます。「AI人事部」という言葉が今では広く使われるようになったとしても、登録商標としての権利は保護され続けるのです。

ただし、あまりにも一般的な言葉になり、商標としての識別性が完全に失われた場合(「辞書に載るほど一般的になった」など)には、商標登録が取り消される可能性もあります。これは「普通名称化」と呼ばれる現象です。

例えば「エスカレーター」や「アスピリン」などは、もともと特定企業の商標でしたが、あまりにも一般的になったため、現在では一般名称として誰でも使えるようになっています。登録商標「AI人事部」もみんなが一般的に使うようになると普通名称化することも十分考えられます。最終的な登録の意味は、「AI人事部」を使っていても、他人から商標権侵害で訴えられることがない、という一点だけになります。攻撃力は、ゼロ、です。

一方、商標「AI人事部長」については、特許庁は登録を認めないとする拒絶理由が通知されています。現時点ではこのような言葉の一般化が進んだ結果と考えることができます。

5. ビジネス戦略としての商標登録

「AI人事部」のような先進的な言葉を商標登録することは、単なる法的保護以上の意味を持ちます。それは、その分野における先駆者としてのブランドポジションを確立し、市場での差別化を図る重要なビジネス戦略なのです。

先進的な概念や技術を表す言葉を早期に商標登録することで、その市場が拡大した際に大きなアドバンテージを得ることができます。「AI人事部」の登録者は、人事分野におけるAI活用の先駆者として、市場での認知度と信頼性を高めることに成功したと言えるでしょう。

6. まとめ:先を見据えた商標戦略の重要性

「AI人事部」の事例から学べることは、将来的に一般化する可能性のある革新的な言葉や概念であっても、出願時点で十分な識別性があれば商標登録できる可能性があるということです。そして、それが市場でのアドバンテージにつながる可能性があるということです。

ビジネスを展開する上で、自社の製品やサービスを表す言葉を早期に商標登録することは、将来的な競争優位性を確保するための重要な戦略の一つと言えるでしょう。特に、AIやDX(デジタルトランスフォーメーション)など、技術革新が急速に進む分野においては、新しい概念や技術を表す言葉の商標登録が、ビジネスの成功に大きく貢献する可能性があります。

皆さんも自社の事業展開において、将来性のある言葉や概念を先取りし、戦略的に商標登録を検討してみてはいかがでしょうか。それが、予想もしなかった競争優位性をもたらすかもしれません。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

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