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Steamで「Hidden」「Cats」タイトルが次々改名強要。商標トロールの実態と対策


1. はじめに

元のタイトル変更後のタイトル開発者
Cats Hidden in ParisTravellin Cats in ParisTravellin Cats
HIDDEN CATSFIND KITTENSVery Very LITTLE Studio
Matt’s Hidden CatsFind Matt’s CatsKupo Games
Hidden Cats…Hidden KittiesGemcraft Games
事件争われた言葉結果
King.com vs Stoic StudioSaga批判を受けて和解
Bethesda vs MojangScrolls和解。Mojangが名称変更
Sky vs Hello GamesSky紛争後に和解
オハイオ州立大学THE衣料品分野での登録が話題に

2026年2月、PCゲーム配信の最大手Steamで、ゲーム開発者たちが一斉にタイトル変更を迫られる騒動が起きました。

対象になったのは、タイトルに「Hidden」と「Cats」という二つの英単語を含むゲームです。ブラジルの開発スタジオが「Hidden Cats」を米国で商標登録し、その権利を盾に「うちの商標を侵害している」と他社作品の改名を要求しました。

「隠れた猫を探すゲーム」というジャンル名そのものを商標にして、同じジャンルの作品を排除しようとする。こうした行為は「商標トロール」と呼ばれています。

ゲーム業界の話でしょう、と思う方もいるでしょう。しかし、この問題の構造は業種を選びません。商品名やサービス名を掲げてビジネスをしている方なら、誰でも同じ目に遭う可能性があります。

ある日突然、「あなたの商品名は当社の商標を侵害している。名前を変えなさい」という通知が届く。今回の事件は、それが現実に起こったケースです。

商標を日頃から扱う弁理士の立場から、この事件の経緯と、ビジネスを守る具体的な対策をお伝えします。

2. 何が起きたのか

「隠れ猫探し」というジャンルの誕生

Steamでは近年、モノクロの線画や手描き風イラストの中に隠れた猫を見つけ出すパズルゲームが流行していました。ルールはシンプルで、画面のあちこちに紛れた猫を一匹ずつ探し出すだけ。しかし、それが意外とクセになる。老若男女に受けて、大勢の開発者がこのジャンルに参入しました。

2021年にAnatoliy Loginovskikh氏がリリースした『100 hidden cats』が、ジャンルの火付け役として知られています。以降、パリやロンドンなど世界各都市を舞台にしたシリーズ作品が複数の開発者から登場し、「Hidden Cats」はひとつのサブジャンルとして定着しました。

ここで押さえておきたいのは、「Hidden Cats」が特定の作品名ではなく、ジャンルそのものを指す言葉だった、という点です。

後発スタジオが商標を押さえた

この「Hidden Cats」を商標登録したのが、ブラジルの開発スタジオNukearts Studio(以下、Nukearts社)です。

報道によれば、Nukearts社は2025年1月に米国特許商標庁(USPTO)へ出願し、同年9月に登録が完了したとされています。Nukearts社自身もこのジャンルのゲームを作っていますが、シリーズ開始は2022年後半から。先駆者である『100 hidden cats』(2021年)より後です。

ジャンルを切り開いたわけではない開発者が、ジャンル名を商標として押さえた。しかもこの商標は、ゲームソフトだけでなく絵本やポスターなど関連商品まで含む広い範囲で登録されたと報じられています。

商標登録の出願時、Nukearts社は「最初の使用」の時期を2022年と主張したとされています。しかし、先駆者である『100 hidden cats』の登場は2021年。自社より先に同じ言葉を使っていた人がいるのに、商標登録を通してしまった。この点にも議論の余地があります。

ある日届いた改名通知

2026年2月、Nukearts社はこの登録商標を根拠にSteam運営元のValve社へ商標侵害を申し立てました。対象は、タイトルに「Hidden」と「Cats」の両方を含むほぼすべてのゲームに及んだとされています。

Valve社は申立てを受けて、該当する開発者たちにタイトル変更を求める通知を出しました。期限は2026年3月2日。開発者によっては数日しか猶予がなかったケースもあったと報告されています。

問題は、Valve社が個々の作品を審査した形跡がない点です。「消費者が混同するか」「申立ての法的根拠は妥当か」を検討せず、商標登録証を出した側の言い分に沿って一律に対応したとみられています。プラットフォームとして訴訟リスクを避けたかった、という事情は想像できますが、排除される側にとってはたまったものではありません。

3. 改名を迫られた開発者たち

通知を受けて、大勢の開発者が実際にタイトルを変更しました。報道やコミュニティ投稿で確認できる主な事例を以下にまとめます。

【表1:改名された主なゲームタイトル】

とりわけ気の毒だったのがKupo GamesのMatt Roszak氏です。3年の開発期間をかけた作品で、ウィッシュリストは約2万2千件。発売直前のSteam大型イベント「Next Fest」を控えた時期に改名を迫られました。

Roszak氏は、裁判で争う費用と時間を考えた末、不本意ながら『Find Matt’s Cats』への改名を選んだと語っています。

タイトル変更は文字の書き換えだけで終わる話ではありません。ストアページ、プロモーション素材、SNSアカウント、検索エンジンへの反映——積み上げてきたものをやり直す作業が待っています。Travellin Cats社のようにシリーズ全体のリブランディングを余儀なくされたケースでは、損害はさらに深刻です。

タイトルの変更がビジネスに与える影響は、商標実務に携わる者として痛いほどわかります。商品名を変えるということは、それまで積み上げてきた認知度や信頼がリセットされるということです。検索エンジンでの順位も落ちるでしょうし、既存の顧客やファンが新しい名前にたどり着けない可能性もある。

争えば勝てるかもしれない。でも争う余裕がない。小規模な開発者が置かれた状況は、まさにこれでした。

4. 「商標トロール」とは何か

「盾」を「武器」に変える行為

商標制度の本来の目的は、消費者が商品やサービスの出所を正しく見分けられるようにすることです。あのロゴを見ればあの会社の製品だとわかる——商標は、消費者と企業をつなぐ信頼の印です。

商標権はブランドを守るための「盾」です。ところが、この盾を攻撃用の「武器」に転用して、競合を市場から追い出そうとする人たちがいます。これが商標トロールです。

手口はこうです。ありふれた単語やフレーズを商標登録し、同じ言葉を使っている他社に「権利侵害だ」と通知を送る。相手が裁判を起こす資金も時間もないと見越して、改名や使用中止を迫る。商標制度が想定している使い方とは、かけ離れています。

今回の「Hidden Cats」問題は、この商標トロールの構図にそっくり当てはまるとして、業界全体から批判を浴びました。

そもそも「Hidden Cats」は商標として強いのか

商標法には、商品内容をそのまま説明する言葉——「記述的な語句」——は商標登録を認めにくい、という原則があります。「Hidden Cats(隠れた猫)」はゲーム内容をそのまま表す言葉ですから、本来は記述性が高く、商標としての力は弱いはずです。

記述的な語句が商標として保護されるには、「この言葉を聞けばあの会社の製品だ」と消費者に認識されていることが条件になります。法律用語で「二次的意味の獲得」と呼ばれるものです。

「Hidden Cats」は大勢の開発者が使うジャンル名であり、特定の一社だけを連想させる言葉ではありません。裁判で争えば、記述的すぎるとして無効になる可能性が高い——専門家はそう指摘しています。

問題は、裁判の費用です。数万ドル規模の出費を個人開発者が負担できるでしょうか。商標トロールは、相手が「争えない」ことを計算に入れて動いてきます。

「先に使っていた人」は守られないのか

米国商標法には、登録の有無にかかわらず先に使っていた者に権利を認める「先使用権」の考え方があります。2021年から「Hidden Cats」を使っていた開発者は、2022年以降に参入したNukearts社より先です。本来なら保護されてしかるべき立場でしょう。

ところが、プラットフォーム上では登録証を持っている側が圧倒的に有利です。Valve社は登録商標の通知を受ければ、個別事情を精査せず一律にタイトル変更を求める傾向があると報告されています。この構造が、商標トロールの追い風になっています。

5. 過去にも繰り返されてきた「一般語の独占」

ありふれた単語の商標をめぐる争いは、ゲーム業界で何度も起きています。

『Candy Crush Saga』のKing.com社は「Candy」や「Saga」の商標権を主張し、大勢の開発者を標的にしました。北欧神話をモチーフにした『The Banner Saga』のStoic Studioに対して「Saga」の使用停止を求めた件は、大きな批判を浴びた有名な事例です。

【表2:ゲーム業界で話題になった一般語の商標紛争】

共通するのは、日常語を特定の企業が独占しようとする不合理さです。大企業が資金力で小規模開発者を押しつぶすか、長い法廷闘争で双方が消耗するか。どちらに転んでも、健全な市場とは言いがたい結果になります。

今回の件が過去と異なるのは、大企業ではなくインディー開発スタジオが同じ立場のインディー開発者を攻撃した点です。仲間うちの争いになった分、コミュニティが受けた衝撃はより大きいものでした。

6. コミュニティの反応

Nukearts社への批判は、発覚直後からSNSやコミュニティに広がりました。

オーストラリアのゲーム業界支援団体Ukiyo Studiosは、日本の開発者を含む世界中のクリエイターに向けて「緊急アラート」を発信しています。「Hidden」や「Cats」を使っているだけで標的にされる可能性がある、という警告です。

RedditやDiscordでは被害を受けた作品のリストが作成され、情報の集約が進みました。Nukearts社の作品に対しては不買運動が広がり、Steamページには大量の不評レビューが投じられる、いわゆる「レビュー爆撃」が発生。同社のブランド価値は大きく損なわれたと報じられています。

法的に認められた権利であっても、フェアプレーの精神に反する使い方をすれば市場から拒絶される。コミュニティの結束と情報共有が、不当な権利行使への強い歯止めになることを、この事件は示しました。

7. 商標トロールから身を守る5つの対策

この事件はゲーム業界だけの話ではありません。商品名やサービス名でビジネスをしている方なら、業種を問わず同じリスクがあります。

飲食業で「こだわりカレー」のような一般的なフレーズを店名にしている場合、誰かに先に商標登録されたら名称変更を求められる可能性はゼロではありません。

1. ネーミングの段階で商標調査を行う

商品名やサービス名を決めるとき、Google検索やストア内検索だけでは足りません。各国の商標データベースで類似商標の有無を確認してください。

日本なら特許庁の「J-PlatPat」、米国なら「USPTO」、欧州なら「EUIPO」が公的データベースです。これらは誰でも無料で使えます。

ただし、データベースで名前を検索して「ヒットしなかったから安全」とは限りません。似た読み方や意味の商標が登録されている場合、それも侵害にあたる可能性があります。類否の判断は専門知識を要するため、弁理士に依頼するのが確実です。

2. 記述的すぎるタイトルを避ける

商品内容をそのまま表す名称は、検索で見つけてもらいやすい反面、他者から攻撃されやすく、自分で商標として守るのも困難です。

メインタイトルには独自の造語やユニークな組み合わせを据え、内容説明はサブタイトルやタグで補う。この工夫があれば、万が一改名を迫られても、ブランドの核は守れます。

今回の事例が好例です。Travellin Cats社は自社スタジオ名を冠した「Travellin Cats in…」に変更できましたが、ジャンル名そのままの「HIDDEN CATS」を使っていたVery Very LITTLE Studioは「FIND KITTENS」という全く別の名称にせざるを得ませんでした。独自性のあるメインタイトルを持っているかどうかで、被害の大きさがここまで変わります。

3. 使用の証拠を残しておく

先使用権を主張する場面に備えて、名称の使用開始時期を証明できる記録を保存しておきましょう。プレスリリースの発表日、ストアページの公開日、SNSでの告知など、日付が客観的に証明できる資料が有効です。

4. 法的通知を受けたら冷静に動く

商標侵害を主張する通知が届いたら、感情的に反応しないこと。まず要求内容を読み込み、弁理士や弁護士に相談してください。

相手の主張に根拠がなければ争う選択肢がありますし、事業継続を優先して迅速に改名する判断もあり得ます。どちらの道を選ぶにしても、専門家の助言を得てから動くことで被害を抑えられます。

5. 大切なブランドは先に商標登録しておく

自社にとって大切な商品名やサービス名があるなら、先手を打って商標登録を済ませておくのが最善の防御です。日本の商標制度は登録主義、つまり早い者勝ちの世界です。

今回の事件でも、被害を受けた開発者たちが先に自社タイトルを商標登録していれば、相手の主張に有効な反論ができた可能性があります。

商標登録の費用は、弁理士への依頼費用を含めても数万円から数十万円程度です。商品名を変更するコストや、法的紛争に巻き込まれた際の損害に比べれば、事前の投資として十分見合う金額でしょう。

8. プラットフォームの対応にも課題が残る

今回はValve社の対応にも疑問が残りました。

法的リスクを避けるために素早く動く。プラットフォームとしてその判断は理解できます。しかし、通知から数日で改名を強制する猶予では、開発者に反論する時間がありません。

「Hidden Cats」のようにジャンル名として定着している語句なら、プラットフォーム側が一次審査を行い、不当な要求をはねる仕組みがあってもいいはずです。

登録商標の通知が来たら即座に対象者を排除する——この運用は、悪意ある商標権者にとって格好の道具です。先にリリースしていた開発者のリリース日を確認して先使用の事実を考慮するなど、より公平な紛争解決の枠組みが求められています。

9. この事件の教訓

「Hidden Cats」商標紛争は、ありふれた言葉が特定の者に囲い込まれ、プラットフォームの機械的な対応でそれが強制力を持ってしまう構造的な弱点を露わにしました。

商標は本来、ブランドを育て、消費者との信頼関係を守るための仕組みです。この権利を競合排除の道具に使えば、法律上は通っても、業界やコミュニティからの信頼は失われます。Nukearts社が受けたレビュー爆撃と不買運動は、その結末を如実に物語っています。

一方で、コミュニティが結束して情報を共有し、社会的な圧力をかけることで不当な行為を抑止できることも、この事件は証明しました。

今後、同じ手法が広まれば、「Pixel Art」「Roguelike」「Co-op」といったジャンル名までもが特定の企業に独占されかねません。ゲーム業界に限った話ではなく、「オーガニック」「ナチュラル」「プレミアム」のような一般的な言葉が、あらゆる業界で同じ問題を引き起こす可能性は十分あります。

10. よくある質問

Q1. 日本でも同じことが起こり得ますか?

A1: 起こり得ます。日本の商標制度も登録主義であり、先に出願した者が権利を得ます。ありふれた語句であっても、特定の商品やサービスの区分で登録が通るケースはあります。自社の商品名やサービス名を使い続けたいなら、早い段階で商標登録を検討してください。

Q2. 一般的な単語は商標登録できないのではないですか?

A2: 一概にそうとは言えません。「一般的な単語」でも、特定の商品やサービスとの組み合わせで識別力が認められれば登録される場合があります。たとえば「Apple」は果物としては一般名称ですが、コンピュータの分野では商標として機能しています。今回の「Hidden Cats」も、審査を通過して登録が完了しています。

Q3. すでに使っている商品名が他社に商標登録されていたらどうすればいいですか?

A3: まず弁理士や弁護士に相談し、相手の商標の有効性と、自社の使用状況を整理してください。先使用権の主張や、相手の商標に対する無効審判の請求など、対抗手段が取れる場合もあります。

11. まとめ

今回の「Hidden Cats」商標紛争から得られる教訓を整理します。

  • ありふれた単語でも商標登録が通るケースがある。自分のブランド名が標的になり得ると認識しておく
  • 商品名やサービス名を決める段階で、商標データベースの事前調査を行う
  • 記述的すぎる名称は避け、独自性のあるネーミングを選ぶ
  • 使用開始時期を証明する記録を保存しておく
  • 大切なブランドは先手を打って商標登録しておく
  • 法的通知を受けたら、専門家に相談して冷静に対応する

「うちには関係ない」と感じた方もいるでしょう。しかし、自分の商品名やサービス名が他者の権利を侵害していると主張されることは、誰にでも起こり得ます。備えは早いに越したことはありません。

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ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
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