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アイビー化粧品が花王を提訴へ|「BASIC+」で登録商標どうしが争いになる理由

1. アイビー化粧品が発表した提訴の方針

2026年9月29日、アイビー化粧品は、花王を相手に東京地方裁判所へ訴訟を提起することを取締役会で決議したと発表しました。理由は商標権侵害と不正競争防止法違反で、対象は花王のスキンケアブランド「SOFINA BASIC+」です。

この件では、提訴を決めたアイビー化粧品だけでなく、相手方とされた花王も、化粧品について商標登録を持っています。登録を済ませた商品名について、他社が使用の差止めを求める訴訟を起こす方針を発表した事案です。

発表されたのは提訴を決めたという事実で、裁判所の判断はまだ出ていません。この記事では、アイビー化粧品の発表と、2026年10月1日に特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)で確認した登録情報をもとに、商標登録と実際の使用の関係を解説します。どちらの主張が正しいかを述べるものではありません。

2. アイビー化粧品が訴訟で求める内容

発表された経緯

アイビー化粧品の発表によると、同社は2025年3月にスキンケアシリーズ「BASIC+」の販売を始めました。発売以降の出荷数は30万個を超え、同社のスキンケアブランドのなかで年間の出荷数が最も多いブランドだと説明しています。

花王は2026年6月24日のニュースリリースで、「SOFINA BASIC+」を同年8月8日に発売すると公表しました。

アイビー化粧品は花王に対し、両商品の間で誤認混同が生じる懸念と、自社ブランドの識別力が薄れる懸念を伝え、商品名を変更するか、同社から使用許諾を受けるよう求めたとしています。同社の発表では、花王は販売に法的な問題はないとして、この求めに応じませんでした。

この対応は花王の発表ではなく、アイビー化粧品の発表に書かれた内容です。2026年10月2日の確認時点では、花王の公式サイトで、この件についての見解の発表は確認できていません。

差止めと1,200万円の請求

アイビー化粧品が発表した主な請求は、次の3点です。

  • 「SOFINA BASIC+」等の表示の使用差止め
  • その表示を付けた製品の製造・販売・広告宣伝の差止めと、製品の廃棄
  • 不正競争行為に対する損害の一部として、1,200万円の支払い

1,200万円は、不正競争行為に対する損害の一部として請求する金額です。商標権侵害の損害額として確定した数字ではありません。

3. 双方が持つ商標登録

アイビー化粧品の登録

アイビー化粧品が「BASIC+」シリーズに関連する商標権として挙げているのは、商標登録第6933166号です。「BASIC+」のほかに、「plus」「ベーシックプラス」「IVY.」「COSMETICS」の文字を含む商標です。

出願番号/登録番号/国際登録番号:登録6933166(商願2024-115644)
商標(説明用の表記):BASIC+、plus、ベーシックプラス、IVY.、COSMETICSの文字を含む商標
区分:3
出願人/権利者/名義人:株式会社アイビー化粧品
出願日:2024/10/29
登録日:2025/05/29

花王の登録と追加の出願

花王は、「SOFINA BASIC+」を横一列に書いた商標を登録しています。商標登録第6986088号です。

出願番号/登録番号/国際登録番号:登録6986088(商願2025-047703)
商標(説明用の表記):SOFINA BASIC+(横一列)
区分:3
出願人/権利者/名義人:花王株式会社
出願日:2025/05/01
登録日:2025/11/12

花王はこのほかに、「SOFINA」と「BASIC+」を二段に書いた商標を2026年4月1日に出願しています。2026年10月1日の確認時点では審査中です。

出願番号/登録番号/国際登録番号:商願2026-036517
商標(説明用の表記):SOFINAとBASIC+の二段書き
区分:3
出願人/権利者/名義人:花王株式会社
出願日:2026/04/01
登録日:未登録(2026年10月1日確認時点で審査中)

カードの商標欄は説明のための表記で、登録された商標見本そのものではありません。

出願と登録の順序

区分はどれも第3類で、指定商品はいずれも「化粧品」を含みます。商品の範囲は重なっています。日付の順に並べると、次のとおりです。

  • 2024年10月29日 アイビー化粧品が出願
  • 2025年3月 アイビー化粧品が「BASIC+」シリーズを発売
  • 2025年5月1日 花王が「SOFINA BASIC+」を出願
  • 2025年5月29日 アイビー化粧品の商標が登録
  • 2025年11月12日 花王の商標が登録
  • 2026年4月1日 花王が二段書きの商標を出願
  • 2026年8月8日 花王が公表していた「SOFINA BASIC+」の発売日
  • 2026年9月29日 アイビー化粧品が提訴の方針を発表

出願も登録もアイビー化粧品が先です。花王の出願はその約6か月後で、花王の商標は、アイビー化粧品の登録がすでにある状態で登録されました。

花王の登録商標の審査経過を見ると、アイビー化粧品の商標は拒絶理由の引用商標になっていません。引用されなかった理由は、審査経過には書かれていません。

4. 登録された商標なのに争いになる理由

審査で判断すること

「特許庁の審査を通ったのだから、その名前は安心して使える」と考える方は多くいます。実際には、登録が認められることと、他社の権利とぶつからないことは、別々に判断されます。

特許庁の審査では、出願された商標を、指定された商品・役務について登録してよいかを審査官が判断します。先に出願・登録された他人の商標と似ていると判断すれば拒絶理由を通知し、そうでなければ登録に進みます。

侵害訴訟で判断すること

侵害訴訟では、相手方が市場で実際に使っている表示が、原告の商標権を侵害しているかを裁判所が判断します。裁判所は審査官の結論に拘束されません。商品の売り場、取引の実情、パッケージや広告での見え方など、審査の段階では材料にならなかった事情も主張の対象になります。

商標法25条は、商標権者が指定商品・指定役務について登録商標を使用する権利を専有すると定めています。花王が登録を持っていることには、法律上の意味があります。そのうえで裁判では、アイビー化粧品の登録商標の内容、花王が実際に使っている表示と商品、花王自身の登録との関係が検討されます。登録の有効性そのものが争点になることもあります。

審査が答えるのは「登録を認めるか」で、今回の訴訟が問うのは「その表示を使い続けてよいか」です。問いが違うので、登録商標どうしでも争いは起こります。

5. 「BASIC+」が共通している点の見方

双方の商品名には「BASIC+」が含まれています。一方で、アイビー化粧品の登録第6933166号は「BASIC+」以外の文字も含む商標で、花王の登録商標には「SOFINA」が付いています。

商標が似ているかどうかは、見た目、呼び方、意味合いを総合して判断します。複数の文字を組み合わせた商標では、全体の構成に加えて、どの部分が商品の出所を示す目印として受け取られるかが問題になります。

共通する文字があるというだけで侵害と決まることはなく、自社のブランド名を頭に付けたというだけで問題が消えることもありません。結論を左右するのは、アイビー化粧品の商標見本と、花王の商品・広告での実際の表示です。「BASIC+」の部分だけを取り出して比べてよいかも、表示の構成と取引の実情から判断されます。

J-PlatPatでは、双方の商標の称呼欄に「ベーシックプラス」「ベーシック」が載っています。称呼欄は検索のための参考情報で、同じ称呼が載っていることは、類似や侵害の結論を示すものではありません。

6. 不正競争防止法による主張

今回の発表では、商標権侵害に加えて、不正競争防止法違反も理由に挙がっています。

不正競争防止法は、需要者の間で広く知られた他人の商品等表示を使って混同を生じさせる行為や、著名な商品等表示を使う行為を規制しています。こちらは商標登録の有無とは別の枠組みで、表示がどれだけ知られているかといった要件を個別に検討します。登録商標を持っていることは、不正競争防止法上の答えにはなりません。

アイビー化粧品は、規模の大きい花王が広告を展開することで、消費者が「BASIC+」から花王を思い浮かべるようになることを懸念しています。先に育てたブランドと自社との結び付きが、後から発売された商品の広告によって薄れることへの懸念と読めます。

これは同社が示した懸念であり、その事態が生じたと確認されたものではありません。商品名について不正競争防止法のどの類型を主張するのかは、発表には書かれていません。

同社は、花王商品のパッケージに記載された効能等の表現についても、品質の誤認を招く可能性があるとして、差止めを求める予定だとしています。これは商品名の類似とは別の論点です。

7. 一列の登録と二段書きの出願

花王は、横一列の「SOFINA BASIC+」で登録を受けた後に、二段書きの商標を出願しました。この出願をした理由は公表されていません。

登録情報から確認できるのは、同じ言葉でも、表示の形が違えば別の商標として出願されるという事実です。

登録商標の権利は、登録したとおりの形を基準に考えます。登録した形と実際に使う形が違うと、その違いが後から問題になることがあります。商品パッケージで実際にどう表示するかを決めてから出願の形を決める、という順序が大切です。

8. 自社の商品名で確認しておくこと

先に名前を使っている側

確認するのは、自社の登録がどの形で、どの商品について取られているかです。登録番号が分かれば、J-PlatPatで確認できます。ロゴや他の語と組み合わせた形で登録している場合、守りたい言葉そのものがどこまでカバーされているかは、登録の形によって変わります。

先に使い始めたこと、先に出願したこと、先に登録されたことは、それぞれ別の事実です。登録情報に加えて、発売時期、販売実績、広告やカタログといった、ブランドを使ってきた記録を残しておきます。アイビー化粧品が発表で挙げた出荷数も、この種類の記録です。

後から名前を決める側

「出願すれば登録できそうか」に加えて、「同じ商品分野で、似た名前をすでに使っている会社がないか」まで調べます。自社のブランド名を頭に付けた名前でも、後半の商品名の部分が他社の名前と重なれば、争いになることがあります。発売後に名前を変えることになれば、パッケージ、広告、販売先への説明をやり直す必要が出てきます。

登録した形と使う形を見比べる

商品名を短縮して使っている、会社名を外して表示している、文字の配置や大きさを変えている。こうした場合は、その表示が登録内容とどう対応しているか、他社の商標と重ならないかを確認します。確認の時期は、出願のときと、パッケージや広告の表示を変えるときです。

当事務所では、実務10年以上の弁理士・弁護士がお客さまを直接担当します。新しい商品名の調査や出願、登録済みの商標と実際の表示との照らし合わせを検討されている方は、お問い合わせフォームからご相談ください。出願から登録までの費用は料金案内に掲載しています。

9. 登録商標どうしの争いについてよくある質問

Q1. 商標登録されていれば、その名前を使っても訴えられることはありませんか?

訴えられることはあります。登録は特許庁の審査の結果で、他社が商標権侵害や不正競争防止法違反を主張して提訴することを止める効果はありません。訴訟では、実際の使用について裁判所が判断します。

Q2. 特許庁の審査では、似た商標は登録されないのではないですか?

審査官は先に出願・登録された商標と似ているかを調べ、似ていると判断すれば拒絶理由を通知します。その判断は出願された商標どうしを比べるもので、登録後に当事者が実際の使用をめぐって争うことを防ぐものではありません。

Q3. 自社のブランド名を頭に付ければ、他社と同じ商品名でも使えますか?

ブランド名を付けたというだけでは決まりません。全体として区別できると判断される場合と、商品名の部分が目印として受け取られ、似ていると判断される場合があります。表示の仕方と取引の実情で結論が変わるので、発売前に個別に確認します。

Q4. 自社の商標がどの範囲で登録されているかは、どこで確認できますか?

特許庁の無料データベース「J-PlatPat」で、登録番号や商標の名称から検索できます。確認するのは、登録されている商標の形と、指定されている商品・サービスです。

Q5. この訴訟は、今どの段階ですか?

2026年9月29日の発表は、訴訟を提起することを決議したという内容です。裁判所の判断は出ていません。花王の二段書きの出願も、2026年10月1日の確認時点では審査中です。

10. 参考資料

  • 株式会社アイビー化粧品「花王株式会社に対する訴訟提起に関するお知らせ」(2026年9月29日)
  • 花王株式会社「SOFINAから新ブランドSOFINA BASIC+発売」(2026年6月24日)
  • 特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)商標登録第6933166号、商標登録第6986088号、商願2026-036517(2026年10月1日確認)
  • 商標法25条、不正競争防止法

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

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