索引
初めに
特許庁で商標登録を考えているが、まだ最終的なロゴデザインが決まっていないという状況はよくあります。仮決めのロゴを使っているけれど、今後変更する可能性がある場合、どのように商標登録を進めるべきか、わかりやすく解説します。
(1)ロゴマークの確定前は商標登録するか検討が必要
(A)ロゴマークが決定されてから商標登録する
商売に使用するロゴマークが「これでいく」と決定するまでに時間がかかることはよくあります。
実際に使うロゴが決まった後に商標登録を行うのが、実務上は最も適切です。商標はブランドの中核を成すものであり、実際に使用するものを基に登録することが重要です。
Fig.1 実際に使用する商標を登録すると、バランスよく防御できる
図1は、登録商標とその権利範囲の関係を示しています。左側の例では、実際に使用するロゴマークと特許庁に登録した商標が一致しているため、商標権がしっかりとカバーされています。このように、商標権の範囲が実際の使用に完全に適合している場合、問題は発生しません。
一方で、右側の例では、実際に使用しているロゴマークと登録した商標が異なるため、両者にずれが生じています。このずれにより、商標権のカバー範囲から外れる部分が発生し、問題が生じるリスクが高まります。
不使用取消審判のリスク
商標法第50条に基づき、登録商標と同一の商標を一定期間使用していない場合、登録が取り消される可能性があります。
したがって、実際に使用するロゴマークと登録商標が一致していることが不可欠です。この一致がない場合、第三者から不使用取消請求を受け、登録が取り消されるリスクが生じます。
ここがポイント
商標登録は、最終的に使用するロゴマークが確定してから行うのが最も安全であり、ブランド保護の観点からも理にかなっています。
(2)ロゴマーク決定前はどうするのがよいか?
1. 文字商標の先行登録を検討する
ロゴマークのデザインが決定するまでに時間がかかる場合、社内で意見が分かれ、最終決定が遅れることは珍しくありません。
しかし、この間に第三者が先に特許庁に商標を出願してしまうと、後からそのロゴマークを登録することが難しくなる可能性があります。
このリスクを避けるため、まず文字商標のみを先に出願する方法があります。これにより、ロゴマークが未決定でも、商標権を確保することが可能です。
2. 文字商標ではカバーできない要素に注意
文字商標を先に出願する戦略は有効ですが、万能ではありません。
ロゴマークに文字以外の要素、例えばシンボルや図形が含まれる場合、文字商標ではこれらの要素を保護できません。
例えば、文字商標に「王冠マーク」を付加したロゴマークを考えている場合、文字だけの商標では王冠マークを保護できないため、第三者が王冠マークを含む商標を先取りしてしまうリスクがあります。
3. 費用が2倍になるリスク
ロゴマークの決定が遅れた場合、文字商標を先行して出願することでリスクを回避できますが、後にロゴマークも別途出願することになり、結果的に2倍の費用がかかることになります。
ロゴマークが確定してから商標登録を行えば、1回分の費用で済みますが、決定が遅れることで他者に商標を先取りされるリスクがあります。
ここがポイント
ロゴマークの決定が長引く場合、文字商標の先行出願は一つの有効な戦略ですが、費用と保護範囲のバランスを考慮し、最適な判断を下す必要があります。
(3)文字商標の変更使用で登録を取り消される場合がある
商標登録が完了した文字商標について、変更や変形を加えて使用する場合、そのまま保護されるとは限りません。商標法で守られるのは、あくまで登録された文字商標そのものです。変形使用が認められないケースもありますので、注意が必要です。
類似商標の不正使用による取消事例
仮に「ユニフロ」という文字商標が被服分野で登録されたとしましょう。しかし、この商標を「ユニクロ」に似せて変形使用した場合、登録された商標「ユニフロ」のままではなく、わざと他の有名商標に似せたと判断されるリスクがあります。
Fig.2 登録された文字商標を変形して使用した場合の例
例えば、「ユニフロ」を「ユニクロ」に似せて使用するような行為が行われた場合、第三者がその使用について不正使用取消審判(商標法第51条)を特許庁に請求することが可能です。このような場合、元の「ユニフロ」の登録商標が取り消されることも考えられます。
商標使用における社内コミュニケーションの重要性
商標登録が完了したことを社内に伝達する際、登録商標そのものの使用が保護される範囲であることを明確に伝える必要があります。例えば、「ユニフロ」の商標権を得たとだけ伝えた場合、現場担当者が誤って「ユニクロ」に似せたデザインで商品を販売してしまう可能性があります。
商標の使用に関して、社内での誤解や行き違いがないよう、普段から文字商標とロゴマークの使用に関する認識を共有することが大切です。商標法に基づいた適切な運用を心掛けましょう。
(4)まとめ
ロゴマークを定期的に見直す際、実務上は中心的な文字を前面に押し出し、その文字を基に展開することが多くなります。文字商標の場合、ひらがな、カタカナ、ローマ字といった表記の違いだけであれば、すべてのパターンを特許庁に登録する必要はありません。
同じ読み方のものは商標権の範囲に含まれますので、一番使用頻度が高いバージョンを登録することが推奨されます。
どのバージョンを登録すべきか迷った場合は、商標の専門弁理士に相談しながら最適な決定を下すようにしましょう。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247