索 引
(1)国旗と日本のマークとは違う
国旗とは別に、日本を象徴するマークが存在します。
日の丸が日本の象徴というのは、実は正確ではありません。日の丸は国旗として採用されたものであり、別に日本を示すマークが存在します。
菊花紋章が日本の象徴というのも正確ではありません。菊花紋章は天皇が使用するマークであり、日本国政府が使用するマークは桐花紋章です。
日本の場合、憲法上、天皇(権威)と日本国政府(権力)は厳密に分離されています。
このため、天皇が使用するマークを日本のマークとするか、政府が使用するマークを日本のマークとするかは混乱しがちです。
天皇が日本国の象徴であることには異議はないでしょう(憲法第1条)。
したがって、天皇が使用する菊花紋章を日本のマークとしても問題ありません。
しかし、海外から見た場合、日本国との交渉相手は天皇ではなく、日本国政府です(憲法第4条第1項)。天皇は国政に関与しないため、日本国政府が外国と交渉に当たります。
したがって、海外から見た日本国の実体は日本国政府であり、この観点からすると、日本を示すマークは桐花紋章となります。
整理すると、日本のマークは以下の通りです。
- 1. 日本国には、国旗として制式採用された日の丸のマークがある
- 2. 権威の象徴としての日本国を示す菊花紋章がある
- 3. 権力の実体としての日本国を示す桐花紋章がある
これら三種類のマークの相互関係を理解することで、日本のマークに関する全体像が見えてきます。
(2)日本を示すマークとしての日章旗
日本の国旗といえば、誰もが知っている日の丸です。
(国旗)第一条
国旗及び国歌に関する法律
第1項 国旗は、日章旗とする。
第2項 日章旗の制式は、別記第一のとおりとする。
日本国の国旗は日章旗とも呼ばれ、白地に朱色の赤丸を描いたデザインです。これは「国旗及び国歌に関する法律」によって規定されています。従来から使用されてきた日の丸が、法律により再確認された形です。
ここで注意が必要なのは、法律の条文で使われている「制式」という言葉です。これは「正式」の誤記ではなく、「定められた様式」という意味を持つ専門用語です。
このように、日章旗としての日の丸は、日本を象徴する重要なマークであり、その意義は法律によって明確に示されています。
(3)天皇を示すマークとしての菊花紋章
天皇の象徴として使用されているのが、十六八重表菊の紋章です。歴史的に見ても、天皇のマークといえばこの十六八重表菊の紋章が使用されてきました。
天皇は日本国の象徴であるため、この天皇のマークである十六八重表菊は、国家紋章に匹敵する重要なシンボルとされています。
日本国のパスポートの表紙には日の丸が記載されていません。代わりに、十六一重表菊という意匠が加えられた菊花紋章が採用されています。
この菊花紋章は「菊の御紋」とも呼ばれ、日本の象徴として広く知られています。
特許庁ホームページより引用
(4)日本国政府を示すマークとしての桐花紋章
日本国政府が使用しているマークは五七桐花紋の紋章です。
桐花紋章は嵯峨天皇の時代から使用されているとされ、明治政府でも使用されていました(首相官邸ホームページより)。そもそも桐は鳳凰という縁起の良い鳥が宿る木とされています。
五七桐花紋は、三本の花が立ち、左から五枚の葉、七枚の葉、五枚の葉という配置からその名が付けられました。
桐花紋章にはいくつかのバージョンがありますが、日本国政府が採用しているのは五七桐花紋です。
このように、日本国政府を示すマークとして五七桐花紋は広く認識され、重要なシンボルとして使用されています。
(5)菊花紋章と商標法第4条第1項第1号との関係
商標法と菊花紋章の関係について見ていきましょう。菊花紋章の取り扱いについては、商標法第4条第1項第1号に規定があります。
商標法第四条
商標法条文より引用
第1項 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
第1号 国旗、菊花紋章、勲章、褒章又は外国の国旗と同一又は類似の商標
一部では、商標法の規定から菊花紋章が国旗と同等に扱われているという説がありますが、商標法自体は菊花紋章と国旗を同格とは直接言っていません。
商標法では、国旗や菊花紋章を個人や法人が商標として独占的に使用することは許可されていません。この規定は、国旗や菊花紋章、勲章などを個人や法人が独占的に使用することを防ぐためのものです。
つまり、国旗=菊花紋章=勲章という相互関係が規定されているわけではなく、これらのシンボルを商標として独占的に使用することを認めないという規定に留まるということです。
菊花紋章が国家紋章クラスの扱いを受けている理由は、歴史的に天皇や皇室が使用してきた実績によるものと考えるのが自然でしょう。
(6)まとめ
日本には日の丸の国旗以外にも、非常に重要なマークが二つ存在します。それは、天皇を示す菊花紋章と、日本国政府を示す桐花紋章です。
これらのマークがどのようにして生まれ、使用されてきたのか、その歴史を知ることで、さらに興味が湧いてくることでしょう。
例えば、日本のパスポートには菊花紋章だけでなく、桐花紋章も記載されています。次回、パスポートを手にする機会があれば、ぜひ確認してみてください。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247