(1)日本代表チームの愛称を登録商標に
(1−1)すでに登録している競技とは?
いまでは、「なでしこジャパン」という言葉がサッカー女子日本代表を示すことは、多くの人に知られているのではないでしょうか。
このように、日本代表チームに愛称を付けている競技はいくつもあります。
愛称の決め方は公募によって選ばれたり、協会によって決定されたり、とさまざまなケースがあるようです。
そしてこれらの愛称のなかには、商標登録によって保護されているものもあります。
実際にどのようなものがあるか、みていきましょう。
なでしこジャパン(商標登録 第4845345号/第5478980号)/サッカー(女子)
商標登録 第4845345号
- 商標:なでしこじゃぱん/NADESHIKO JAPAN
- 権利者:日本サッカー協会
- 出願日:2004年7月7日
- 登録日:2005年3月11日
商標登録 第5478980号
- 商標:なでしこジャパン
- 権利者:日本サッカー協会
- 出願日:2011年8月2日
- 登録日:2012年3月16日
龍神NIPPON(商標登録 第5282541号)/バレーボール(男子)
- 権利者:日本バレーボール協会
- 出願日:2009年5月1日
- 登録日:2009年11月20日
火の鳥NIPPON(商標登録 第5334538号)/バレーボール(女子)
- 権利者:日本バレーボール協会
- 出願日:2009年5月1日
- 登録日:2010年7月2日
TOBIUO JAPAN(商標登録 第5358849号)/競泳
- 権利者:電通
- 出願日:2009年6月23日
- 登録日:2010年10月8日
(1−2)愛称が変更されることも
2016年4月、日本バスケットボール協会は記者会見の席で、日本代表チームの愛称をそれまでの「ハヤブサジャパン」から、「AKATSUKI FIVE」に変更することを発表しました。
これは、日本代表のチームカラーである赤と黒を、「日出ずる国」である日本の日の出=「暁の空の色」になぞらえ、選手5人を示す=「FIVE」と組み合わせて名付けられました。
ここには世界に挑む日本代表に「日の出の勢い」をもたらすようにという願いが込められているのです。
そして愛称の変更に伴って、「AKATSUKI FIVE」は、以下のように商標登録されています。
アカツキファイブ/AKATSUKI FIVE(商標登録 第5832863号)/バスケットボール
- 権利者:日本バスケットボール協会
- 出願日:2015年12月11日
- 登録日:2016年3月11日
特許庁の商標公報・商標公開公報より引用
AKATSUKI FIVE(商標登録 第5886104号)/バスケットボール
- 権利者:日本バスケットボール協会
- 出願日:2016年4月4日
- 登録日:2016年9月30日
特許庁の商標公報・商標公開公報より引用
(1−3)東京オリンピックの新種目でも商標登録
東京オリンピックで新種目となったサーフィンでは、2016年に日本代表の愛称を広く募集しました。
その後、一番多く寄せられた「波乗りジャパン/NAMINORI JAPAN」に決定しました。
これにより、以下の4つの商標が登録されました。
波乗りJAPAN(商標登録 第5921414号)/サーフィン
- 権利者:日本サーフィン連盟
- 出願日:2016年8月9日
- 登録日:2017年2月10日
NAMINORI JAPAN(商標登録 第5921415号)/サーフィン
- 権利者:日本サーフィン連盟
- 出願日:2016年8月9日
- 登録日:2017年2月10日
特許庁の商標公報・商標公開公報より引用
波 NAMINORI JAPAN(商標登録 第5921416号)/サーフィン
- 権利者:日本サーフィン連盟
- 出願日:2016年8月9日
- 登録日:2017年2月10日
特許庁の商標公報・商標公開公報より引用
波 NAMINORI JAPAN(商標登録 第5921417号)/サーフィン
- 権利者:日本サーフィン連盟
- 出願日:2016年8月9日
- 登録日:2017年2月10日
特許庁の商標公報・商標公開公報より引用
(2)愛称にまつわる問題も 〜「サムライJAPAN」と「SAMURAI JAPAN」
日本代表チームの愛称は、多くの人に親しみを込めて呼ばれています。けれど思わぬことが起こった過去もあります。
野球男子日本代表チームの愛称として知られる「SAMURAI JAPAN」(「侍JAPAN」)ですが、実は同じ呼び方で先に商標登録されていたのは、ホッケー男子日本代表チームの「サムライJAPAN」(「さむらいJAPAN」)でした。
その経緯は次のようになります。
(2−1)ホッケー男子日本代表チーム「サムライJAPAN」
2008年4月に行われた北京オリンピックを前に、日本ホッケー協会は日本代表チームの愛称を公募し、「サムライJAPAN」に決定したことを発表しました。
そして、以下の2つの商標が登録されました。
これは、「サムライJAPAN」「さむらいJAPAN」という文字のみの商標です。
サムライJAPAN(商標登録 第5195556号)/ホッケー
- 権利者:日本ホッケー協会
- 出願日:2008年3月18日
- 登録日:2009年1月9日
さむらいJAPAN(商標登録 第5195564号)/ホッケー
- 権利者:日本ホッケー協会
- 出願日:2008年3月27日
- 登録日:2009年1月9日
(2−2)野球男子日本代表チーム「SAMURAI JAPAN」
2008年11月、日本野球機構はワールドベースボールクラシック(WBC)に向けて、日本代表チームの愛称を「SAMURAI JAPAN」と発表しました。
そして、日本野球機構によって、以下の商標が登録されました。
これは「SAMURAI JAPAN」という文字に図形が加えられたものです。
SAMURAI JAPAN(商標登録 第5297420号)/野球
- 権利者:日本野球機構
- 出願日:2008年10月29日
- 登録日:2010年1月29日
特許庁の商標公報・商標公開公報より引用
その後、日本野球機構は「SAMURAI JAPAN」と「侍JAPAN」に関連する商標をさらに4つほど登録しています。
(2−3)なぜ、商標登録できたのでしょうか?
日本野球機構が「SAMURAI JAPAN」という愛称を発表したのは、日本ホッケー協会が「サムライJAPAN」という愛称を発表してから約8カ月後に当たります。
では、なぜ「サムライ ジャパン」と同じ呼び方をする商標が登録できたのでしょうか? そこに問題はなかったのでしょうか?
異なる指定商品・指定役務
日本野球機構の商標登録が可能となったのは、両者の指定する区分の指定商品・指定役務が異なっていた、という背景があります。
日本ホッケー協会の場合
日本ホッケー協会の「サムライJAPAN」「さむらいJAPAN」の商標は、ともに、以下の1区分を指定しています。
- 第41類「ホッケーの興行の企画・運営または開催、ホッケーに関する電子出版物の提供、ホッケーに関する図書および記録の供覧、ホッケーに関する書籍の制作、ホッケーに関する映画の上映・制作または配給」など
日本野球機構の場合
一方、日本野球機構が出願した上記の「SAMURAI JAPAN」の商標では、17区分にわたって指定されています。
- 第3類「せっけん類、歯磨き、化粧品、香料類、靴クリーム」など
- 第9類「電気通信機械器具、電子応用機械器具およびその部品、家庭用テレビゲームおもちゃ、携帯用液晶画面ゲームおもちゃ用のプログラムを記憶させた電子回路およびCD-ROM、電子出版物」など
- 第14類「キーホルダー、宝石箱、記念カップ、身飾品、時計」など
- 第16類「紙製のぼり、紙製旗、文房具類、印刷物、写真」など
- 第18類「愛玩動物用被服類、かばん類、袋物、携帯用化粧道具入れ、傘」など
- 第20類「クッション、座布団、まくら、マットレス、家具」など
- 第21類「なべ類、食器類、水筒、清掃用具および洗濯用具、愛玩動物用食器」など
- 第24類「布製身の回り品、敷布、布団、ふきん、カーテン」など
- 第25類「洋服、コート、手袋、帽子、運動用特殊衣服」など
- 第26類「テープ、リボン、衣服用ブローチ、頭飾品、ボタン類」など
- 第28類「愛玩動物用おもちゃ、おもちゃ、人形、遊戯用器具、運動用具」など
- 第30類「茶、コーヒーおよびココア、菓子およびパン、穀物の加工品、べんとう」など
- 第32類「ビール、清涼飲料、果実飲料、乳清飲料、飲料用野菜ジュース」など
- 第33類「日本酒、洋酒、果実酒、中国酒、薬味酒」など
- 第35類「広告、経営の診断または経営に関する助言、市場調査、商品の販売に関する情報の提供、野球チームのファンクラブの運営」など
- 第38類「電気通信(放送を除く。)、放送、報道をする者に対するニュースの供給」
- 第41類「技芸・スポーツまたは知識の教授、ゴルフの興行の企画・運営または開催、相撲の興行の企画・運営または開催、ボクシングの興行の企画・運営または開催、野球の興行の企画・運営または開催」など
商標権のおよぶ範囲
商標登録では、選択した区分の指定商品・指定役務と関係のない商品や役務には、その権利がおよびません。
日本ホッケー協会の商標は、1つの区分のみを選択し、指定役務をホッケーに限定していたため、商標権の侵害とはならなかったのです。
もし、その商標を独占したい場合は、将来必要だと思われる多くの区分で登録しておくと安全でしょう。
(3)まとめ
現在、さまざまな競技の日本代表チームが親しみを込めた愛称で呼ばれています。
ただそのなかには、まだ商標登録されていないものもあります。
この先、東京オリンピック・パラリンピック開催が近づいてくると、第三者による不正行為の危険性も高まります。
日本代表チームの大切な愛称が勝手に使用されたり、無断でグッズの製造や販売が行われることは防ぎたいものです。
そのためには、早めの商標登録を行うことが必要です。
コートの外での懸念材料をなくし、関係者もファンも安心して選手たちの勇姿を見守りたいものですね。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247