金のとりからと黄金のとりからの商標権が激突!

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以前、唐揚げ業界で起きた興味深い商標権争いについて、今回はお話しします。「金のとりから」と「黄金のとりから」という、一見似ているようで実は法的に異なる扱いを受ける二つの商標が、どのような形で衝突し、最終的にどう決着したのか。商標登録の専門家として、この事件の重要なポイントを解説していきます。

1. 事件の概要:両者とも商標登録済みなのに紛争が発生

「金のとりから」を販売する店舗と「黄金のとりから」を販売する店舗の両方が、それぞれ特許庁で正式に商標登録を済ませていたにもかかわらず、紛争が発生したという点です。

通常、商標登録を済ませていれば、その商標を使用する権利は法的に保護されているはずです。では、なぜ問題が生じたのでしょうか。

この疑問を解くためには、商標権の性質と、実際の商標使用における落とし穴について理解する必要があります。商標登録は万能の盾ではなく、その使用方法によっては他者の権利を侵害する可能性があるのです。

シマナカ陣営の登録:デザイン性のある登録商標

左が商標登録第5428398号のもの、右が商標第5587592号のもの。(両者とも説明のために一般公開された商標公報の情報より引用)。

説明用登録商標第5428398号「金のとりから」説明用登録商標第5587592号「金のとりから」

株式会社シマナカが保有していた商標登録第5428398号は、単なる文字列ではなく、デザイン性を持った商標でした。また、嶋中興産株式会社が保有していた商標第5587592号(現在は権利期間満了により失効)も同様にデザイン要素を含んでいました。

この二社が共同事業を展開していたため、実質的に「シマナカ陣営」として一体となって商標権を行使できる立場にあったことです。つまり、「金のとりから」というブランドについて、文字だけでなく、視覚的なデザイン要素も含めた権利を持っていたということになります。

ピーコック陣営の登録:標準文字のみの商標登録

一方、当時ピーコックフーズ株式会社が保有していた商標登録第5573104号「黄金のとりから」は、標準文字の文字列のみの登録でした。

標準文字での商標登録は、その文字列そのものは保護されますが、デザインや装飾を加えた使用方法までは保護の範囲に含まれません。つまり、「黄金のとりから」という文字をそのまま使う分には問題ありませんが、それをデザイン化したり、特定の装飾を加えたりした場合、その使用形態は登録商標の範囲を超えてしまう可能性があるのです。

2. 「金」と「黄金」は本当に似ていないのか?

特許庁の登録実務では、「金」を含む商標と「黄金」を含む商標は、原則として併存が認められる傾向にあるということです。これは一般の感覚からすると意外に思われるかもしれません。

実際、「金のとりから」と「黄金のとりから」は、文字数も異なり、音の響きも異なります。特許庁はこれらを類似しない商標として扱い、それぞれの登録を認めていました。商標の類似性は、外観(見た目)、称呼(発音)、観念(意味合い)の三要素から判断されるので、文字列だけで判断されるものではないということです。

3. 登録商標の変形使用がもたらす危険性

ピーコック陣営が直面した最大の問題は、登録商標の変形使用にありました。

仮に「黄金のとりから」という標準文字の商標を、シマナカ陣営の「金のとりから」のデザインに似せて使用した場合、それは登録商標の適正な使用とは認められない可能性が高いのです。

商標法では、登録商標と同一の商標を使用する場合に、その使用が適法であることが推定されます。登録商標を変形して使用した場合、その変形された商標が他人の商標権を侵害していないかどうかは、別途検討が必要になります。

さらに深刻なのは、登録商標の変形使用により、消費者に商品の出所や品質について誤認を生じさせた場合、せっかく取得した商標権自体が取消審判により取り消される可能性もあるということです。

4. 紛争の決着と意外な展開

この紛争は最終的に、ピーコックフーズが保有していた「黄金のとりから」の商標権を株式会社シマナカに移転することで解決しました。これにより、「金のとりから」と「黄金のとりから」の両方の商標権がシマナカ陣営に統一され、商標権を巡る争いは決着しました。

ただ、物語はここで終わりませんでした。その後、移転された「黄金のとりから」の商標権は更新されずに権利期間満了で失効し、現在ではなんとエバラ食品工業株式会社が商標登録第6718552号として新たに取得しています。

5. この事件から学ぶべき教訓

この一連の出来事から、商標登録を検討している事業者が学ぶべき重要な教訓がいくつかあります。

まず第一に、商標登録は単に文字列を登録すれば済む話ではありません。実際に表示する形で商標権を取得しておかないと、他の商標権者との間で権利侵害の問題が生じる場合があります。標準文字のみの登録は、確かに幅広い書体での使用が可能ですが、デザイン込みの登録ではない点を理解しておく必要があります。

第二に、商標権を取得したからといって、どのような形でも自由に使用できるわけではありません。登録商標の変形使用は、他人の商標権侵害のリスクを伴います。特に、競合他社が類似の商標を持っている場合は、より慎重な使用が求められます。

第三に、商標権は永続的なものではなく、定期的な更新が必要です。「黄金のとりから」のように、権利が失効した隙を突いて第三者が取得することも可能なのです。重要なブランドについては、権利の維持管理を怠らないことが極めて重要です。

6. まとめ:商標権の奥深さと実務上の注意点

「金のとりから」と「黄金のとりから」の商標権争いは、一見単純な文字の類似性の問題のように見えて、実は商標法の複雑な側面を浮き彫りにする一つの事例でした。商標登録は事業者にとって重要な知的財産権ですが、その取得と使用には専門的な知識と慎重な判断が求められます。

特に飲食業界のように、商品名やブランド名が直接的に売上に影響する業界では、商標戦略は事業戦略の重要な一部となります。

単に商標を登録するだけでなく、どのような形で登録し、どのように使用し、どのように維持管理していくかという総合的な視点が必要不可欠なのです。

この事件は、商標権の世界が想像以上に奥深く、そして時に予想外の展開を見せることを教えてくれます。事業者の皆様には、ぜひこの事例を参考に、自社の商標戦略を見直していただければと思います。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

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