1. 歴史の節目を迎えた2018年の意義
平成30年(2018年)は、明治元年から数えて150年という記念すべき年でした。この歴史的な節目を迎え、日本政府は内閣官房に「明治150年」関連施策推進室を設置し、全国規模で記念事業を展開しました。
明治時代は、日本が鎖国から開国へ、そして近代国民国家として世界の舞台に登場した時代です。文明開化の波が押し寄せ、西洋の技術や制度を取り入れながら、日本独自の近代化を進めました。政府は、この先人たちの努力と精神を次世代に継承するため、各種記念イベントを企画しました。
2. 全国で展開された記念イベントの内容
イベント名 | 場所 | 日程 |
---|---|---|
日本赤十字社における関連施策の実施 | 日本赤十字社 本社1階 | 通年(月曜から金曜) |
明治150年記念「近代化を支えた偉人たち」 | 常陸太田市郷土資料館梅津会館 | 2018年7月22日まで |
西郷隆盛と大河ドラマの登場人物たち-明治人の筆あと- | 旧多摩聖蹟記念館 | 2018年7月29日まで |
建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの | 森美術館 | 2018年9月17日まで |
明治150年記念 NIPPON 鉄道の夜明け | 鉄道博物館 | 2018年9月30日まで |
明治150年を記念して実施されたイベントは多岐にわたりました。日本赤十字社本社では通年で関連施策が実施され、地方では常陸太田市郷土資料館梅津会館で「近代化を支えた偉人たち」展が開催されました。旧多摩聖蹟記念館では「西郷隆盛と大河ドラマの登場人物たち−明治人の筆あと−」展が催され、森美術館では「建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」が、鉄道博物館では「明治150年記念 NIPPON 鉄道の夜明け」が開催されるなど、文化・芸術・技術の各分野で明治の遺産を振り返る機会が設けられました。
これらのイベントは過去の振り返りにとどまらず、明治の精神を現代に活かし、未来へつなげる意図が込められていました。若い世代にとっては、日本の近代化の原点を知る機会となりました。
3. 記念ロゴマークの商標戦略
明治150年を記念するロゴマークは、内閣官房会計担当内閣参事官の名義で商標登録されています。商標登録第5987062号として、全ての商品・サービス区分で登録されました。通常、商標登録は特定の商品やサービスに限定して行われますが、このロゴマークが全区分で登録された理由は、政府機関だけでなく、民間企業、教育機関、個人事業主など、あらゆる主体がこのロゴマークを使用して明治150年を盛り上げることを想定していたためです。
国民参加型のロゴマーク制作プロセス
このロゴマークは、政府が国民からデザイン案を公募し、多くの応募作品の中から選定されました。選ばれたデザインには、深い意味が込められています。
特許庁の商標公報より引用
明治の「明」の字の下部分を人の足に見立て、150年前の大きな一歩を表現しています。配色には日本を象徴する赤と白のジャパンカラーを採用し、150の数字を囲む円は日の出と日の丸を同時に表現しています。過去から未来へ、新たな一歩を踏み出す決意が、シンプルながら力強いデザインに表現されています。
ロゴマーク使用の実務的な手続き
このロゴマークは、一定の手続きを踏めば誰でも使用できました。「明治150年」関連施策推進ロゴマーク使用ガイドラインに同意し、使用者情報や使用目的を申告することで、商品パッケージ、イベントポスター、ウェブサイトなど、様々な用途で活用できました。
商標権者が独占的に使用するのではなく、国民全体で共有し、記念事業を盛り上げるツールとして機能させました。これは商標の活用方法として、今後の政府関連事業の参考事例になる可能性があります。
文字商標も同時に保護
ロゴマークだけでなく、「明治150年」という文字自体も商標登録されています。商標登録第5962689号と第5962688号として、こちらも全区分で登録されました。図形と文字の両面から、明治150年ブランドが法的に保護されることになりました。
4. 商標登録が示す政府の戦略的思考
この一連の商標登録から見えてくるのは、政府のブランディング戦略です。記念事業を実施するだけでなく、統一的なビジュアルアイデンティティを確立し、それを法的に保護しながら、同時に国民に開放しました。これは行政のブランド戦略として、参考になるアプローチです。
商標登録の観点から見ると、この事例は政府による知的財産権の活用方法として価値があります。権利を独占するのではなく、適切な管理のもとで共有財産として活用しました。これは今後の公共ブランディングの参考事例となる可能性があります。
明治150年は過ぎ去りましたが、このロゴマークが示した「過去を振り返り、未来へ歩みを進める」という精神は、時代を超えて受け継がれていくでしょう。商標登録という法的な枠組みを通じて、歴史的な記念事業がどのように保護され、活用されたか。この事例は、知的財産権の活用可能性を示す先例として、記憶に留めておく価値があります。
ファーイースト国際特許事務所所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247