1.訴え提起に向けて
権利者が被疑侵害者に対し警告書を送付したとしても、被疑侵害者から必ず回答が得られるとは限りません。
また、被疑侵害者から回答を得た上で、権利者と被疑侵害者との間で交渉が行われたとしても、交渉がまとまるとは限りません。
そうした中、被疑侵害者が商標使用を継続し、権利者の商品やサービスの売上げが減少するなど、実害が看過し得なくなった場合、被疑侵害者の商標使用を止めさせる手段として、民事訴訟が有力な選択肢となります。
民事訴訟により、商標権侵害の成立などを主張立証することができれば、裁判所の判決を得て、被疑侵害者の商標使用の差止めに加え、損害賠償の請求などが可能となります。
権利者が訴えを提起すれば、被告は応訴せざるを得ず手続を無視すれば、重大な不利益を被ります。
また、裁判所の判決は原告・被告を拘束するため、争いを終局的に解決することが可能です。
民事訴訟を選択する場合、訴え提起前に充実した準備が必要となります。
警告書送付時や交渉時に被疑侵害品に関する一定の証拠は確保しているはずですが、民事訴訟において被疑侵害者が反論する内容を予測できる場合には、被疑侵害者の反論に対する再反論の根拠となる証拠を準備しておくことが望ましいといえます。
商標権など知的財産権に関する訴訟は専門性が高いため、通常、弁護士・弁理士に手続の代理を依頼します。
弁護士・弁理士に訴訟手続を依頼する場合、弁護士・弁理士との間で委任契約書を取り交わす必要があり、委任契約書を取り交わしていない段階では、弁護士・弁理士は訴訟手続の依頼を受任したとは認識していないので注意が必要です。
2.審理の流れ
(1)訴えの提起
訴えを提起する場合、原告は訴状を裁判所に提出します。
裁判所は日本全国に存在し、その種類も最高裁判所から簡易裁判所まで複数にわたるところ、任意の裁判所に訴状を提出すればよいというわけではなく、管轄を有する裁判所を選択する必要があります。
事件処理に適しない裁判所を選択した場合、訴訟は適切な裁判所に移送されることになります。
裁判所の選択に当たっては、訴訟追行に有利な裁判所を選択します。
商標権侵害訴訟は専門性が要求されるため、知的財産権部が設けられている東京地方裁判所や大阪地方裁判所に訴えを提起することも可能です。
東京地方裁判所や大阪地方裁判所に訴えを提起すれば、より適切な判断を得ることが期待できます。
裁判所に提出した訴状は裁判長の審査に付され、不備がなければ、第1回口頭弁論期日が指定されます。
第1回口頭弁論期日は訴え提起の日から原則30日以内に指定されます。
また、被告には訴状の副本が送達され、第1回口頭弁論期日への出頭と答弁書の提出が求められます。
(2)商標権侵害の成否に関する審理
口頭弁論は、裁判官の主宰の下、訴訟代理人(当事者)が出席し、公開の法廷で開かれます。
第1回口頭弁論期日においては、原告は訴状を陳述し、被告は答弁書を陳述します。
東京地裁や大阪地裁の知的財産権部では、迅速な審理の実現のため、計画審理を徹底しています。
商標権侵害訴訟においては、二段階審理が行われ、まず、商標権侵害の成否を判断し、商標権侵害が認められて初めて、損害について判断するという審理構造が採用されています。
争点や証拠の整理のための手続は、第1回口頭弁論期日後の続行期日において行われ、公開の法廷で行われることもあれば、非公開の場で行われることもあります。
商標権侵害の成否の判断に際しては、まず、被告が原告の登録商標と同一又は類似の商標を使用しているか、被告が原告の登録商標の指定商品等と同一又は類似の商品等に使用しているか、が問題となり、これらが認められることが商標権侵害の成立の前提となります。
次に、これらが認められたとしても、商標権侵害の成立が妨げられるかが問題となります。
例えば、原告の商標権につき商標登録が無効となるべきものであれば、結局、商標権侵害は成立しないことになります。こうした被告の主張が認められるか審理されることになります。
争点や証拠が整理されれば、口頭弁論期日が設けられ、裁判官の心証が開示されます。
裁判官が商標権侵害は成立しないとの心証を抱き、和解等が行われなければ、手続は終了し、後日、原告敗訴の判決が言い渡されることになります。
(3)損害に関する審理
裁判官が商標権侵害は成立するとの心証を抱けば、損害の有無及びその金額に関する審理に移ります。
損害に関する主張立証責任は原告が負うものであり、原告は商標法の推定規定を利用しつつ損害に関する主張立証を行います。
これに対し、被告が原告の主張を認めない場合には、資料を開示した上で積極的に事実関係を争う必要があります。
被告が資料の開示に応じない場合や被告の主張が信用できない場合には、原告は書類提出命令を申し立てることができます。
損害に関する審理に先立ち、商標権侵害成立の心証が開示されているため、書類提出命令の申立ては認められやすいといえます。
損害に関する審理を通して、原告と被告との間において、落とし所がみえれば、和解となり、訴訟は終了します。
他方、原告と被告との間において歩み寄りがみられず、裁判所が十分であると考えれば、弁論を終結した上で、判決言渡し日が指定されます。
3.判決以降
判決の言渡しは公開の法廷で行われます。判決の主文のみが朗読され、判決の理由は朗読されないのが通常です。判決書の正本は、後日、送達されます。
知的財産関係民事事件の平均審理期間は、2017年(平成29年)においては、12.6ヶ月であり、第一審の判決を得るまで、少なくとも1年の時間はみておく必要があります。
また、第一審の判決に不服があれば、控訴提起につき、速やかに検討しなければなりません。控訴は判決書の正本の送達を受けてから2週間以内に提起する必要があります。
ファーイースト国際特許事務所
弁護士・弁理士 都築 健太郎
03-6667-0247