1.オープンイノベーションの推進に向けて
(1)オープンイノベーションの背景
企業が成長を続けるためには、研究開発への取組みが不可欠です。
研究開発によりイノベーションを惹き起こし、優れた商品やサービスを生み出すことができれば顧客の支持を獲得することができます。
企業は研究開発に多額の資金を投資し、挑戦が評価される組織文化を構築するなど、技術やアイデアの創出に努めなければなりません。
研究開発は自社単独で行われることも多く、かつて大企業では中央研究所が優れた技術を開発し、革新的な商品やサービスを世に送り出していました。
ところが、今日では、デジタル化の進展や顧客のニーズの多様化など事業環境はめまぐるしく変化しており、自前主義に基づく研究開発には限界があることも否めません。
そのため、大企業であっても、スタートアップや大学など社外の組織と協同することにより、その技術やアイデアの活用を図ろうとしています。
複数の組織が技術やアイデアを持ち寄りイノベーションを惹き起こすことをオープンイノベーションと呼びます。
オープンイノベーションの成功が企業の成長の鍵となります。
(2)オープンイノベーションの難しさ
研究開発が自社内部で完結していれば、研究開発の成果は自社に帰属するのが原則であり、その他様々な利害の調整に配慮する必要性は低いかもしれません。
他方、オープンイノベーションのため、社外の組織と協同する場合には、メリットのみではなくデメリットにも十分留意する必要があり、デメリットの発生を防止・軽減するため、共同研究開発を初めとした諸活動を意識的にマネジメントする姿勢が大切となります。
ところが、スタートアップは様々な面で制約を抱えており、社外の組織と協同する際、そのマネジメントが困難な場合が少なくありません。
例えば、知的財産の内容や法律の知識に通じた人材が社内に存在しないことや交渉力に劣ることは珍しいことではありません。
そのため、スタートアップが大企業と連携すると、スタートアップの知的財産が大企業に流出したり、スタートアップに不利な契約を結んでしまったりといった事態が生じることがあります。
こうした事態を放置しておくと、公正・自由な競争秩序が阻害されるだけでなく、オープンイノベーションが促進されず、個々の企業のみならず日本経済全体の成長にとってもマイナスとなります。
(3)経産省・特許庁による「モデル契約書ver1.0」
そこで、経済産業省と特許庁は、オープンイノベーションの促進に向けた取組みとして、「研究開発型スタートアップと事業会社のオープンイノベーション促進のためのモデル契約書ver1.0」(以下「モデル契約書ver1.0」)を公開しました。
「モデル契約書ver1.0」は、スタートアップと大企業との間に法律知識等のギャップが存在することを前提として、このギャップを埋め、スタートアップと大企業が交渉を進める際の参考となるよう作成されました。
オープンイノベーションのプロセスは、以下の図のとおり、事業アイデアの選択から上市(商品やサービスの販売開始)まで息の長いものです。
「モデル契約書ver1.0」は、このプロセスのうち、①協議開始(秘密保持)②PoC(技術検証)③共同研究開発/ライセンスを対象とします。この①〜③のプロセスに特に法律上留意すべき点が多々存在するためであると思われます。
「モデル契約書 ver1.0 の公表について」から抜粋
「モデル契約書ver1.0」はスタートアップの立場に配慮したものとなっています。スタートアップが社外の組織と協同する際は、協同が自社の成長につながるものとすべく、「モデル契約書ver1.0」も適宜参考にすることで、戦略を練る助けとすることができます。
2.専門家への相談と契約書の作成・レヴュー
(1)早期の相談を!
「モデル契約書ver1.0」は、事例を前提に条項案を提示した上で、各条項案に詳細な解説を付したものであり、契約条件の交渉や条項案の作成の際、参考となるものです。
一方、社外の組織と共同研究開発に取り組む際、各当事者の狙いは様々であり、自社の狙いに沿った交渉や契約書作成が必要となります。
各場面においてどういった選択肢があり、各選択肢にどういったメリット・デメリットがあるのか検討するに際しては、法制度を踏まえる必要もあり、法律の専門家の助言を得るのが望ましいことも確かです。
可能であれば、できるだけ早い段階において法律の専門家に相談し、状況を整理した上で、交渉の戦略を練るようにしてください。
(2)契約書の作成・レヴュー
交渉の結果、当事者間に基本的な合意が形成されれば、契約書案の準備に移ることになります。
当事者の一方が契約書案を準備し、その契約書案を叩き台として、当事者間において条項の調整が行われます。
契約書案の準備にはコストを要するものの、自社で準備するのが望ましいでしょう。契約書案の準備の段階において、初めて、契約条件の細部が形となることもある以上、自社から提示する方が有利といえるためです。
契約書案の準備は自社で行うこともできますが、重要な契約であれば、法律の専門家に依頼することもご検討ください。
専門家には、面談等により、ビジネスの背景事情や交渉経過を伝えます。
専門家は、具体的な事情を踏まえ、依頼者の狙いが実現できるよう契約書案を準備します。
他方、相手方が契約書案を準備することもあります。その場合、提示された契約書案をレヴューすることになりますが、契約書案のレヴューも可能であれば専門家に依頼するのが望ましいでしょう。
当事者間において、契約書案の修正を繰り返し、契約書を完成させることになります。通常、契約書に盛り込まれた事項が当事者間における最終的な合意と扱われることになりますので、契約書の内容や文言に十分注意した上で、契約書を確定させる必要があります。
(3)費用
契約書の作成・レヴューを弊所にご依頼いただく場合、費用の目安は以下のとおりとなります。ビジネスの枠組みや契約の内容が非定型的なものについては、契約書の作成・レヴューに要する作業量が変化するため、依頼者との協議の上、お見積書を提示させていただくことになります。
ご依頼に際しては、面談・メールなどにより、ビジネスの枠組みや契約の条件など伺い、具体的な状況を把握した上で、作業に着手することになります。
作業に要する時間は、事案によるものの、交渉を妨げることがないよう、依頼者と協議の上、調整することになります。契約書の作成をご依頼いただいた場合、弊所が契約書案を起案します。
契約書のレヴューをご依頼いただいた場合、依頼者から提示された契約書案を弊所でチェックします。
3.おわりに
事業環境の変化に伴い、自社単独でのイノベーションには限界があるところ、社外の組織といかにうまく協同し、オープンイノベーションを惹き起こせるかが、今後の企業の成長の鍵となり得ます。社外の組織と協同する際、法律を踏まえた利害の調整が不可欠となり、その結果が契約書にまとめられることになります。
オープンイノベーションの時代には、契約の問題を避けることは難しくなります。法律の専門家をうまく活用し、競争を勝ち抜くよう知恵を絞ることが大切といえます。
ファーイースト国際特許事務所
弁護士・弁理士 都築 健太郎
03-6667-0247