党名公募の落とし穴。民進党の事例から学ぶ商標の防衛術

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1. はじめに

党名を公募する。SNSで候補名を発表する。世論調査で決める。こうしたプロセスは、支持を広げるうえで非常に効果的です。

しかし同時に、その瞬間から「党名=ブランド(商標)」としての争奪戦が始まることを、どれだけの人が意識しているでしょうか。

かつて2016年に話題になった「民進党」の商標横取り出願騒動は、この盲点を可視化した事件でした。本稿では、2016年5月当時に問題になった内容を、最新の整理情報を踏まえて現時点の実務感覚でお伝えします。

2. 党名は「言葉」ではなく「権利」になる

民進党の党名について、民主党と維新の党の合流の流れの中で、党名候補をめぐって世論調査が行われました。2016年3月12日から13日に世論調査を実施し、3月14日に「民進党」への合意に至っています。そして3月27日に結党大会を迎えました。

ここのポイントは、「党名が公になる前後」が、第三者出願の権利横取りの狙い目になりやすいという点です。

政治の世界は注目度が高く、党名が世に出ると、ポスター、印刷物、Web、イベント、寄付、グッズ、動画、SNSと一気に露出が増えます。

第三者から見れば「使う可能性が高い強い名前=換金性のある名前」に見えるのです。

その結果として起き得るのが、第三者による無断の先取り商標出願です。

特許庁の商標制度は、原則として「早い者勝ち」の先願主義で運用されているため、タイミングを外すと本来の当事者が不利な立場に追い込まれかねません。

3. 民進党は商標登録を取得できた

ここは2016年当時の第三者の権利横取り出願による炎上構図だけで終わらせると、誤解が生じます。現在からみた情報に基づけば、民進党については最終的に以下のことが確認できます。

民進党自身が、「民進党」標準文字の商標を2016年3月14日に出願し、2016年12月2日に登録(登録第5901183号)を取得しています。区分は16(印刷物)と41(教育・イベント等)で、ステータスも「存続-登録-継続」となっています。

一方で、第三者側と見られる「民進党」出願は複数回にわたり行われましたが、いずれも「終了-出願-拒絶/却下又は無効」となっており、権利として残っていません。

2016年3月11日出願、同年4月3日出願、以降も2019年まで断続的に出願がありましたが、すべて終了しています。

つまり結果としては、「民進党」という党名について、第三者が商標権を持つ状態には至らず、民進党側が防衛に成功したという結果になります。

ただし、この結末はいつでも再現できる保証がないため、安心してはいけません。

4. 本当に怖いのは「結果」ではなく「構造」

上記の民進党のケースは、結果的に党側が登録を取り、第三者出願が終了しています。

しかし実務家として懸念されるのは、「党名公募(または公開プロセス)」と「先願主義」が正面衝突すると、第三者が漁夫の利を狙える構造が成立してしまう点です。

典型的なシナリオを説明します。

まず党名を公募・発表すると、候補名がSNSやニュースで拡散します。すると第三者が、当事者より先に商標出願します。当事者が後から出願すると、先願の壁にぶつかります。

そして第三者が「譲渡しないと困るでしょう?」と圧をかけ、名義移転や金銭を要求するケースがあり得ます。あるいは、周辺ビジネスをブロックして混乱を起こすこともあります。

法律の建付け自体は、争いを減らすための合理的な仕組みです。

ところが、この制度を逆手に取る人が出ると、当事者は「名前を決めたのに使えない、使いにくい」という悪夢が生じます。党名は理念の象徴であると同時に、印刷物、Web、動画、イベントの看板です。看板を押さえられると、政治活動以前に広報活動が止まってしまいます。

この構造は、政党に限りません。NPO、住民運動、クラウドファンディング、自治体キャンペーン、YouTuber、VTuber、コミュニティなど、「名前を公募・発表する文化」すべてが同じ危険を抱えています。

5. 特許庁は「横取り出願」をどう扱うのか

「第三者が先に出したら終わりなのか?」という不安が核心ですが、特許庁はこの種の横取り型の大量出願について、明確に注意喚起しています。

特許庁は、他人の商標の先取りとなるような出願が大量に行われ、手数料未納などの瑕疵が多いことを前提に、一定期間後に却下処分を行う旨を公表しています。

また仮に手数料が納付されても、出願人が自己の業務に使用するものではない場合(商標法3条1項柱書)、あるいは他人の著名商標の先取りや公益的マークなどに該当する場合(商標法4条1項)は登録されないことも明らかにしています。

さらに2018年には、手数料未納で却下された元の出願を分割で延命して出願日を遡らせるような手法に対し、改正法施行により遡及しないことを周知しています。

これにより横取り側が有利になりにくくなりました。加えて、当時の大量出願問題については、特許庁が運用見直し等で対応したことも報道されています。

ここまで読むと、「放っておけば消えるのでは?」と思うかもしれません。ただ実務ではそう単純ではありません。

6. 「放っておけば消える」は危険な考え方

特許庁の注意喚起があるとはいえ、次の現実は変わりません。商標出願は、出した瞬間から公開され、検索にも表示されます。

つまり、第三者出願が存在するだけで、党側がグッズや印刷物を作るときにスポンサーや制作会社が「権利は問題ありませんか?」と確認が入ります。

広報が慎重になり、スピードが落ちます。支援者が「名前を使えなくなるのか?」と不安になります。対外的に揉めている印象が出て、信頼コストが発生します。

こうした実務コストは、たとえ最終的に第三者出願が却下・拒絶されても、戻ってきません。

そして何より、第三者が手数料を払って審査を粘ったり、周辺区分に細かく出願してきたり、SNSで騒いだりすれば、面倒の総量は一気に増えます。

結論として、最も安全なのは「争い方」ではなく、争いを起こさない設計です。

7. 党名を公募するなら、先に出願して地雷原を更地にする

党名公募を否定する話ではありません。むしろ、支持を広げる意味で有効です。しかし、公募を行うなら、広報設計と同じレベルで、商標設計を前に置くべきです。

防衛はシンプルです。「公募の前に、出願を済ませておく」これができれば、第三者の横取りはほぼ無力化します。

では、「まだ党名が決まっていないのに出せるのか?」という疑問が出ます。ここに実務の工夫があります。

公募を行う側は、通常、完全な白紙ではありません。候補の方向性や、最終候補の絞り込み、略称の想定、英語表記の有無、ロゴの案など、何らかの型があります。その段階で、最終候補になり得る名称(複数案)を、先に出願しておく。これが、現実的で強い防衛策です。

民進党の流れでも、党名の最終決定(3月14日)と結党(3月27日)の間には時間があり、党名が注目される局面が存在しました。党名の露出が始まる前に法的な杭を打つ発想が重要になります。

8. 「どの区分で出すか」が勝負を分ける

民進党の登録は区分16(印刷物)と41(教育・イベント等)です。実際、ここは政治活動の現場に直結します。

ただ、現代の政党活動は、紙と集会だけではありません。Web配信、動画、オンラインサロン、物販、寄付の仕組み、広告、イベント運営、会員向けサービスなど、活動実態に合わせて、取得すべき区分の発想が広がります。

第三者出願側が、16・41以外(たとえば金融系や流通系の区分)に出して嫌がらせの囲い込みをするケースもあり得ます。実際、第三者側と見られる出願に、16・41以外の区分が含まれているケースも見られます。

公募前の出願設計では、「党として現にやること、やりそうなこと」を棚卸しして、使う現場から逆算した区分設計をしておくことが、防衛の完成度を上げます。

9. もし第三者に先に出願されたら

ここまで読んでも、現場では「もう出願されていました」が起こります。そのときに一番やってはいけないのが、パニックで出願を諦めることです。

特許庁自身が「他人から先取り出願されていても、商標登録を断念する等の対応をしないように」と注意しています。

実務的には、状況に応じて対処します。審査中なら、審査官に材料を届ける(情報提供など)。もし登録されてしまったら、異議申立や無効審判などを検討します。さらに、使用実態がないなら不使用取消の可能性もあります。ただし、個別事情で最適解が変わるため、案件対応が前提です。

こうした後追いの手当ては、時間もコストもかかります。だからこそ、やはり結論は戻ってきます。公募するなら、先に出願する。これが最も安い保険であり、最も強い防衛です。

10. まとめ:党名公募は「拡散力」、商標出願は「防衛力」

民進党の件は、結果として党側が登録を得て、第三者出願が終了しています。しかし、学ぶべきポイントは「たまたま助かった」ではなく、党名公募が商標ハイジャックの引き金になり得るという構造です。

SNS時代の公募は、発表と同時に拡散します。拡散は支持を集めますが、同時に横取りの標的にもなります。

次に同じ状況が起きたときに守るべき合言葉はこれです。「発表する前に、出願する。」党名を守るとは、理念を守ることです。名前の主導権を手放さない設計を、最初から組み込んでください。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

参考資料

[1]: https://www.jpo.go.jp/faq/yokuaru/trademark/tanin_shutsugan.html “自らの商標を他人に商標登録出願されている皆様へ(ご注意)”
[2]: https://www.jpo.go.jp/faq/yokuaru/trademark/tanin_shutsugan_180608.html “自らの商標を他人に商標登録出願されている皆様へ(ご注意)”
[3]: https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1706/22/news081.html “特許庁、不備ある「商標大量出願」に対策 審査運用を一部見直し”

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