商標登録を考えるとき、「標準文字」と「ロゴタイプ」という2つの選択肢があることをご存じですか?それぞれの特徴を理解し、自分のブランドに最適な選択をすることが重要です。
商標登録の基本
商標登録を受ける際には、特許庁長官に願書を提出します。この願書には商標の内容を記載する欄があり、登録が認められると、その記載内容が「登録商標」として保護されます。
標準文字とロゴタイプの違い
商標登録を希望する場合、標準文字とロゴタイプのどちらか、または両方で登録することが可能です。それぞれの特徴を簡単に解説します。
標準文字
特許庁長官が指定したシンプルで一般的な文字スタイルを指します。特に装飾やデザイン性を持たないため、広く利用できるのが特徴です。
(商標登録第4478963号の商標公報より引用)
ロゴタイプ
ブランドのイメージやコンセプトを表現した独自のデザイン文字です。色、形状、フォントなど自由にカスタマイズでき、視覚的なインパクトを与えます。
(商標登録第5893980号の商標公報より引用)
出願はどう選ぶべき?
商標登録をする際に、標準文字だけで十分とするか、ロゴタイプも併せて登録するかは、出願者自身のブランド戦略に基づき決定します。例えば、ブランド名をどのように使用するかや、視覚的な特徴を重視するかによって異なります。
実際の例
以下は、標準文字とロゴタイプの両方で商標登録を受けているケースの一例です。(具体例を画像やリンクで示すとさらに分かりやすくなります)
ロゴタイプは著作権で保護されるのか?その境界線とは
ロゴタイプのデザインを考えるとき、「著作権法による保護」が気になる方も多いのではないでしょうか。本記事では、ロゴタイプと著作権の関係について、具体例を交えながら解説します。
著作権法における著作物の定義
著作権法では、著作物を以下のように定義しています。
(1) 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
(著作権法2条1項1号)
ロゴタイプがこの定義に当てはまる場合、著作権による保護が認められる可能性があります。しかし、その判断には厳密な基準が存在します。
ロゴタイプと著作物性の判断基準
1. 創作性の有無
ロゴタイプは装飾が施された文字であり、一見すると創作性があるように見えます。しかし、文字は本来、情報を伝える実用的な機能を持つため、著作物として保護されるためには美的特性や独創性が必要とされます。
2. 判例から見るロゴタイプの著作物性
【著作物性が認められた例】
装飾文字「趣」事件(大阪地裁平成11年9月21日判決)
この事件では、装飾文字に美的創作性が認められ、著作権による保護が認められました。
【著作物性が否定された例】
「Asahi」ロゴタイプ事件(東京高裁平成8年1月25日判決)
「Asahi」のロゴタイプはデザイン的な工夫が見られたものの、美的創作性が不足していると判断され、著作物性は否定されました。
(商標登録第2055143号の商標公報より引用)
判旨では、「文字の装飾だけでは、美的創作性を感得するには至らない」としています。
ところで、右ロゴマークは欧文字「Asahi」について、「A」、「a」、「h」、「i」の各文字における垂直の縦線を太い線で表し、その上下の辺を右上がり四四度の傾斜とし、「A」、「s」、「a」、「h」の各文字における傾斜線を細い線で表し、その傾斜を右上がり四四度とし、「A」、「s」の各文字の細い傾斜の先端にあるはねを三角形状となし、その右上がり傾斜辺を四四度とするといったデザインを施した点に特徴があり(中略)、また、「A」の書体は他の文字に比べてデザイン的な工夫が凝らされたものとは認められるが、右程度のデザイン的要素の付加によって美的創作性を感得することはできず、右ロゴマークを著作物と認めることはできない。
(「Asahi」ロゴマーク事件:東京高判平成8年1月25日判時1568号119頁)
ロゴタイプとタイプフェイスの違い
印刷用書体がここにいう著作物に該当するというためには、それが従来の印刷用書体に比して顕著な特徴を有するといった独創性を備えることが必要であり、かつ、それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えていなければならないと解するのが相当である。
(ゴナ書体事件:最判平成12年9月7日民集54巻7号2481頁)
ロゴタイプと混同されがちなタイプフェイス(書体)も、著作物性を判断する際に重要なポイントです。
最高裁は、タイプフェイスに著作物性が認められるのは極めて例外的で通常は認められない判示しています(ゴナ書体事件:最判平成12年9月7日)。
タイプフェイスが著作物として保護されるためには、顕著な独創性と美的特性が必要です。
タイプフェイスは印刷や文書作成で広く使用されるため、著作物性を認めると情報伝達の自由を阻害する可能性があります。この点で、ロゴタイプとは異なる扱いがされる理由の一つです。
ロゴタイプが著作物と認められる条件とは?
ロゴタイプが著作権で保護されるためには、次のような条件を満たす必要があります。
- 1. 独創性があり、他に類を見ない特徴があること
- 2. 美的特性を備え、単なる装飾ではなく芸術作品として鑑賞可能であること
- 3. 情報伝達の妨げにならないこと
結論:ロゴタイプの著作権保護を得るには?
ロゴタイプが著作権法による保護を受けるには、美的創作性と独創性が欠かせません。ただし、デザインによっては認められないケースも多いため、商標登録を活用することで確実にブランドを守る手段を検討するのが賢明です。
ロゴタイプを作成する際には、法的な保護の可能性を視野に入れつつ、ブランド価値を最大限に高めるデザインを目指しましょう。
おわりに:ロゴタイプと著作権に関する注意点
ロゴタイプが著作権で保護されるケースは、非常に限られています。そのため、ロゴタイプを商標登録する際に著作権への配慮が必要になるケースは、一般的には少ないといえるでしょう。
しかし、ロゴタイプが第三者によって作成された場合には注意が必要です。製作者との間で著作権に関する権利を明確にしておかないと、後にトラブルに発展する可能性があります。
裁判例から学ぶリスク回避
過去には、ロゴタイプの製作者が著作権に基づいて使用料を請求した事例もあります。このような紛争を防ぐためには、事前に製作者との間で権利関係を明確に合意しておくことが重要です。
実践ポイント
著作権の留意点
ロゴタイプが商標登録の対象になる場合でも、著作権が絡むリスクは限定的。過度な心配は不要です。
第三者製作者との契約の重要性
制作を依頼する際は、著作権の譲渡や使用許諾に関する取り決めを明文化しておきましょう。
紛争を回避するための準備
契約書や合意書を作成し、将来的なトラブルの種を排除しておくことが安心への近道です。
ロゴタイプを活用したブランド展開を円滑に進めるためにも、法的リスクを最小限に抑える対策を講じておくことが重要です。事前準備が、後々の安心と信頼につながります。
ファーイースト国際特許事務所弁護士・弁理士 都築 健太郎
03-6667-0247