1.TPP11と著作権の保護期間延長
TPP(環太平洋パートナーシップ)協定は、日本を含む12か国が経済連携を深めるために交渉・合意した枠組みです。
2018年12月には、日本やメキシコ、シンガポールなど6か国で発効し、関税削減だけでなく、投資や金融サービス、知的財産など多岐にわたるルールが整備されました。
この協定を受け、日本国内の法律が改正され、知的財産に関しても重要な変更が行われました。そのひとつが著作権の保護期間延長です。以前は著作者の死後50年間だった保護期間が、70年間に延長されました。
著作権保護期間のルール
現在の著作権法では、著作物の創作から始まり、以下の期間、権利が守られます:
- 著作者個人の場合:著作者の死後70年
- 共同著作物の場合:最後に亡くなった著作者の死後70年
(※著作権法50条より)
著作権保護期間延長の影響
著作権の延長により、著作者やその遺族が利益を得られる期間が長くなるというメリットがあります。一方で、以下のような懸念も指摘されています:
- 1. 文化の発展の阻害:保護期間が延びることで、著作物が自由に使えるタイミングが遅れ、創作者や企業が既存の作品を活用しづらくなる
- 2. 経済的価値の低下:保護期間が長くても、著作者の死後数十年経過した作品の多くは、経済的価値がほぼなくなるケースが多い
つまり、保護期間の延長は、著作権者にとっての利益と文化の発展とのバランスをどう取るかという課題を伴います。
著作権法の意義
著作権法は、創作者に権利を付与し、創作活動を促進する一方で、一定期間が過ぎた作品は自由に使えるようにすることで、文化の発展を目指しています。保護期間の延長に伴う利点と課題を理解し、私たち自身が文化発展の一翼を担う意識を持つことが重要です。
2.著作権と商標権
(1)商標権の存続期間と特徴
商標権は、登録から10年間の存続期間があります。しかし、著作権と異なり、更新登録の申請を行うことで存続期間を延長できるため、理論上は半永久的に保護されます。
例えば、味の素株式会社の商標権は、1908年(明治41年)に取得されて以来、更新を重ね、現在まで約110年にわたり存続しています。
(商標登録第34220号の商標公報より引用)
商標権がこうした長期間にわたって守られる理由は、以下のような商標法の目的にあります。
- 信用の保護:商標は、商品やサービスの「目印」として、企業の信用を消費者に伝える役割を果たします。
- 業務の継続性:企業の事業は必ずしも10年で終了するわけではないため、更新可能な仕組みが設けられています。
(2)著作物と商標登録の関係
著作権と商標権は、それぞれの役割や保護対象が異なります:
権利種類 | 保護対象 | 存続期間 |
---|---|---|
著作権 | 創作的な表現を守る | 70年(著作者の死後) |
商標権 | 商品やサービスの目印を守る | 更新により半永久的に保護可能 |
ただし、著作物が商標登録を受けた場合、両方の権利で保護されることがあります。例えば、企業のシンボルマークは、著作物としての著作権と、商標としての商標権の両方が適用されることが可能です。
著作権が満了した場合の商標登録のメリット
著作権の保護期間が満了すると、著作物は自由に利用できるようになります。しかし、以下のようなケースでは、商標登録が重要な役割を果たします。
- 長期間使用されるシンボルマーク:著作権が満了しても、商標権が継続していれば、企業の信用を守ることができます
- 商標登録の効果:著作物が商標として登録されている場合、商品やサービスに関わる範囲で保護を受けられます
例えば、著作権が満了した著作物を利用してTシャツを製造すること自体は自由ですが、そのデザインが商標として認識される場合、利用者がトラブルを避けるために利用を躊躇するケースがあります。
商標登録による懸念と課題
近年、著作権の存続期間が満了した著作物が大量に商標登録されている例が見られます。これには以下のような問題が生じる可能性があります。
- 1. 著作物利用の妨げ:自由に使えるはずの著作物が、商標登録により利用しにくくなる
- 2. 判断の困難さ:その利用が「商標としての使用」に該当するかどうかを判断するのが難しい場合がある
これらの状況を理解し、著作権と商標権の特性を正しく把握することが重要です。
結論:著作権と商標権の賢い活用
商標権は更新可能であるため、著作権が切れた後も、商品やサービスの信用を守り続ける手段として有効です。ただし、権利を活用する際は、自由な文化の発展を阻害しないよう、配慮を欠かさないことが求められます。
このような視点から、自社のブランド戦略を構築する際には、著作権と商標権をバランスよく活用することが鍵となるでしょう。
3.おわりに
TPP11協定の発効により、著作権の存続期間は70年間に延長されました。しかし、この延長が著作物の自由な利用を妨げる要因になる可能性は否定できません。
著作物の利用を促進するためには、適切な制度設計が求められます。著作権の保護は著作者やその遺族の利益を守るために重要ですが、それが過剰になれば、文化の発展を阻害するリスクがあります。
著作者の利益と文化の発展との間で適切なバランスを保つことが、今後の知的財産政策の課題といえるでしょう。このバランスがうまく取れることで、新たな創作活動が生まれ、多様な文化が未来へと受け継がれていくはずです。
日本をはじめとする文化の豊かな発展のために、今後も知的財産制度のあり方を見直しながら進んでいく必要があります。
ファーイースト国際特許事務所弁護士・弁理士 都築 健太郎
03-6667-0247