商標登録費用をチェックする際に、見落としてはいけない項目

無料商標調査 定休日12/28-1/5

索引

  1. 初めに

  2. 権利取得漏れ疑惑案件が急増

  3. 商品や役務は、増やせば費用が増加する範囲と、費用が増加しない範囲がある

  4. 最初のチャレンジで必要な商品役務は全て取り切るのが最も安上がり

  5. まとめ

初めに

商標登録の費用をチェックする際に、料金は安いか、確実に登録できるかをチェックする人は多いと思うのですが、これだけでは後で思いがけない追加費用が発生することがあります。特に2020年前後を境に、商標登録の実務が大きく変わってきています。狭い権利範囲を安い料金で取得するケースが圧倒的に増えています。安ければ問題がないと思いますか?必要のない広い権利を取得したなら、その通りですが、実際はそうではない、という点が問題なのです。今回はこの問題点を解説します。

(1)権利取得漏れ疑惑案件が急増

(A)本来なら最初に追加費用なしで取得できたのに、権利取り忘れで再取得に多額の追加費用発生案件が急増

コロナ騒動と歩調を合わせる様に、狭い範囲の商標登録事例が増えています。百聞は一見にしかず、なので、事例を見てましょう。

下記の図1のグラフは、「ヘアートリートメントやリンスが商標権の権利範囲に入っているのに、シャンプーの権利範囲を取り忘れた疑いのある商標権数の推移を表したものです。

ヘアトリートメントやリンスを含むのにシャンプーの権利が抜け落ちた商標件数の推移
Fig.1 権利範囲にヘアートリートメントやリンスを含むのに、シャンプーの権利が抜け落ちた商標権数の推移

2019年は「シャンプーの権利が抜け落ちた案件」は1402件だったのに対し、2020年では1832件、2021年では2401件に増加しています。

つまり2年間で1000件程の権利申請漏れが疑われる案件が増加しています。

取得しなかったシャンプーについて権利を取得しなおすなら、特許庁に支払う印紙代だけでも軽く数千万円を超えます。

例えば、商標「雪肌精」について、商標権の権利範囲として、「ヘアートリートメント,リンス,化粧品」を含むのに、「シャンプー」の権利をわざわざ除外して商標登録することがあるでしょうか。ありえないです。

仮にシャンプーを権利範囲から外すと、他人に商標「雪肌精」のシャンプーについて、権利を取られてしまう可能性があるからです。

商標権は土地の権利と同様の性質を持っています。希望する人がいるなら、オークションと同じで双方の合意価格で取引することができます。仮に権利の取得漏れがあると、本来なら高値で売却できた権利が二束三文になってしまいます。

下記の図2のグラフは、「洋服は商標権の権利範囲に入っているのに、下着や靴下の権利範囲を取り忘れた疑いのある商標権数の推移」を表したものです。

洋服を含むのに下着や靴下の権利が抜け落ちた商標件数の推移
Fig.2 権利範囲に洋服を含むのに、下着や靴下の権利が抜け落ちた商標権数の推移

下記の図3のグラフは、「日本酒は権利範囲に入っているのに、洋酒やワインの権利範囲を取り忘れた疑いのある商標権数の推移」を表したものです。

日本酒を含むのに洋酒やワインの権利が抜け落ちた商標件数の推移
Fig.3 権利範囲に日本酒を含むのに、洋酒やワインの権利が抜け落ちた商標権数の推移

年を追う毎に、権利取得漏れの疑惑がある商標権の取得件数が増えています。いらないなら、別によいのではないか、と思いますか?

もし、最初から権利に入れることにより、追加費用が発生するなら、その通りです。

ところが上記の事例では、最初に権利範囲に含めておけば、追加費用は発生しなかったのに、権利から除外したために、後から権利を取得するなら、同じ範囲の料金の倍額を支払う必要があります。

(B)本当に、シャンプーは権利範囲に含めないで、と依頼したのですか?

商標権の権利範囲となる、指定商品の願書の記載欄に記載しなかった商品は、一度願書を特許庁に提出してしまうと、後から追記することが認められていません。仮に、権利申請漏れを起こしたとすると、最初に出願した総額と同額の費用を支払って、追加の出願を出し直す必要があります。

つまり、倍額費用がかかる、ということです。出願費用が倍額になるだけでなく、登録費用も、これから未来永劫商標権を維持するために支払う費用も、永遠に倍額になります(本来なら一つの商標権でよかったのに、二つ分の商標権を維持するのですから、業者は永遠に倍額をもらえます)

「ヘアートリートメント,リンス,化粧品」を指定商品に含む商標権を取得する際に、本当に、「シャンプーは権利範囲に含めないで」、と業者に依頼したのですか?

本当は、この願書の内容では、シャンプーが権利範囲から抜け落ちることを案内されていないのではないですか?

もしプロが商標登録出願の願書をひと目見れば、「ヘアートリートメント,リンス,化粧品」だけの記載しか指定商品になければシャンプーが抜け落ちることは一撃で分かります。

それにも関わらず上記の図1の様なシャンプーの権利漏れが起きる理由は、あなたがどの様な権利範囲の商標権を取得するのか関心がない者が、願書を作成しているように、私には見えるのです。例えば、実務に疎い下請け無資格業者とか、AIの人工知能という名前の機械とか..

(2)商品や役務は、増やせば費用が増加する範囲と、費用が増加しない範囲がある

私があなたに一番知って頂きたいことは、商標権の権利範囲を拡張した場合に、追加の料金がかかる場合と、かからない場合がある、ということです。

商標登録の費用は、区分の数にほぼ比例して高くなります。区分とは、商標権の指定商品役務が格納されている分類で、第1類から第45類まで45個に分類されています。

特許庁の印紙代も業者の手数料もこの区分を単位に規定されているところが多いです。

仮に3区分を指定すれば、約3倍に、10区分を指定すれば約10倍に特許庁印紙代の費用が膨らみます。

これに対し、同一区分であれば、特許庁印紙代は同一です。特に類似の幅が同じで同一区分なら、記載する商品役務の数が1個でも、1千個でも、1万個でも発生する費用は同額です。

記載量で費用が決まらない場合がある、ということです。

「ヘアートリートメント,リンス,化粧品」の指定商品に「シャンプー」の指定商品を追加しても、特許庁印紙代も手数料も変わりません。つまり、出願段階で追加しても、追加料金は発生しないです。

ところが先に説明した通り、仮にシャンプーの記載を落としたなら、後からシャンプーについての権利を取り直すなら、最初に「ヘアートリートメント,リンス,化粧品」についての商標権を取得した金額と同額の金額が必要になります。

業者側の視点から見れば、実は、権利範囲を狭く取得してもらう方が端的に儲かります。

同じ権利範囲を一人に売ったところで、一回分の手数料しかもらえませんが、例えば、同じ範囲を三分割して、1/3ずつ、3人に販売すれば、3倍の手数料がもらえます。

お客さまから「ヘアートリートメント,リンス,化粧品」を権利範囲に含む商標権が欲しい、と言われた際に、「追加料金なしでシャンプーも取得できますが、シャンプーは権利範囲に入れなくてよいのですか?」と確認してくれる業者がどんどんいなくなっている、ということを上記のグラフは示しています。

(3)最初のチャレンジで必要な商品役務は全て取り切るのが最も安上がり

(A)追加料金が発生しない範囲で、権利の取り忘れがないか、弁理士弁護士と必ず相談すること

商標登録のプロが見れば、権利取得漏れがあれば、一発で気が付きます。それにも関わらず、権利取得漏れが疑われる案件が急増している背景には、プロが願書の内容に目を通さないまま、そのまま願書が特許庁に提出されている実務が横行していることが懸念されます。

願書の草案ができあがってきたなら、弁理士・弁護士と、必ずその内容について協議してください。

弁理士・弁護士と直接相談せずに、願書を特許庁に提出するのは控えてください。

一度特許庁に願書を提出すると、記載漏れのあった事項の追記を特許庁では一切認めていないからです。

本当にこの内容でこちらの意図する商標登録ができるのか、願書に記載されている弁理士・弁護士に直接相談してください。願書に記載されている弁理士・弁護士が、あなたの商標登録出願の内容を把握していないことは考えられません。

いつ質問しても、丁寧に答えてもらえます。

(B)商品の数を増やすと審査が遅くなるのでは?

商標権を早く取得しても、取得した権利が穴だらけではライバルが喜ぶだけです。一度特許庁に願書を提出すれば、その内容について後から、他の誰かがこちらを追い越して先に商標権を取得することはないです。

商標登録は、先に願書を特許庁に提出した者に権利を与える先願主義が採用されているため、先に権利申請をした者が商標権者になります。

審査期間で商標権の取得が決まるわけではない点に注意してください。

仮に今回権利取得を見送った場合、今回チャレンジしておけば追加費用が発生しなかったのに、権利申請を見送った段階で後で権利取得する場合の追加費用の支払いが確定します。

このため追加費用が発生しない場合には、現時点で必要な商品役務について商標権を取得するのではなく、将来必要になる分まで先を見越して権利申請を検討すべきです。

(C)後から必要になった段階で権利取得すればよいのでは?

今回追加費用が発生しない段階でチャレンジしなければ後の追加支払いが確定するばかりでなく、権利申請しなかった部分を他人に取られてしまう可能性もあるのです。

他人に取られてしまうと、それを取り戻すためには審判・裁判が必要になり、数十万円単位で余分な費用が必要になります。

商標登録の法律相談の90%以上は、最初に権利を取得すれば発生しなかった問題ばかりです。

(4)まとめ

弁理士・弁護士に直接相談しないで、願書を特許庁にそのまま提出するのは控えてください。願書に記載されている弁理士・弁護士なら、あなたの願書の内容について丁寧に説明してもらえます。

上記のグラフの様に、権利欠損がある商標権では、後からその穴埋めに多大な追加費用を要します。追加費用を払って解決できればまだよい方で、お金を払っても、権利を取り戻せない事例は多くあります。

後になって困らないよう、出願段階では専門家と十分に協議してから願書を特許庁に提出するようにしてください。一度提出してしまうと追加ができませんから。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

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