1.ますはじめに
「当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第六条第一項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。以下同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」
(4条第1項11号)
拒絶理由の王様(?)であって、言わずと知れた登録商標と商標登録出願とを調整するための規定ですね。
本号の拒絶理由が適用されるためにのポイントは3つあります。
- 出願した商標と登録された商標とが類似していること。
- 登録商標の指定商品またはサービスと類似した商品またはサービスを指定していること。
- 先願の商標が登録されていること。
です。
つまり、出願した商標と同じまたは似ている商標が既に登録されており、その登録商標の指定商品またはサービスと同じまたは似ている商品またはサービスを指定して後から出願した場合、本号の拒絶理由が通知されます。
なお、この場合の登録商標は他人の登録商標ですので、先に自分の商標が登録されている場合には該当しません。
2.商標の類似とは
ここから話が少し難しくなりますが、「商標の類似」について説明させていただきます。
非常に簡単に説明しますと商標が似ていることです。
もう少し丁寧に説明しますと、似たような商品に商標を付して市場に流通させた場合に、需要者が商品の出所を混同してしまうほど比較する二つの商標が似ていることです。
商標法の趣旨は競業秩序の維持にあります。
つまり、取引秩序を正常に保つことであり、上記の三つの要件を満たす商標の登録を許すと、似ている商標を付された商品またはサービスが市場にあふれることとなり、需要者は商品またはサービスの出所を混同し商品またはサービスの取り違えが生じてしまいます。
また、商品またはサービスの提供者サイドとしても、本来自らの商品を求めていた需要者が類似した商標が世に出回っているため、類似した商標を目印に他者へ顧客が流出してしまいます。
このような取引秩序が混乱した状態を未然に防止するために、商標法は登録商標と類似する商標を指定商品またはサービスと類似する商品またはサービスを指定した出願を審査に通過させません。
加えて、商標権者には登録商標に類似する商標を指定商品またはサービスと類似する商品またはサービスに使用するものに使用の中止を求める権利を与えているのです。
話をもとに戻しますと、商標法は上記の通り競業秩序の維持を目的としています。
出所の混同を防止するために商標の類似という道具を使って過去の経験から出所の混同が発生するであろう範囲をあらかじめ形式的に確定しているのです。
なお、審査における商標の類似を判断するための要点を特許庁は「商標審査基準」の中で事細かに説明しています(十、1.〜10.14.〜18.)。
3.商品またはサービスの類似とは
商品またはサービスの類似とは商品またはサービスが似ていること、つまり、同じまたは似ている商標が使用された場合に、出所の混同が生じる可能性のある商品の範囲をいいます。
商標権の効力は「商標」と「指定する商品またはサービス」によって決まるため、商品またはサービスの類似も重要になります。
例えば、「アサヒ」と読める商標は指定商品「ビール」に対してはアサヒグループホールディングス株式会社が保有しており(商標登録第2055143号)等、また、指定商品「印刷物」に対しては株式会社朝日新聞社が保有しています(商標登録第1620653号)等。
つまり、類似する商標であっても、指定する商品またはサービスが異なれば商標権は適法に併存することが許されるのです。
商品の類似、サービスの類似、商品とサービスの類似を判断する際の要点を特許庁は「商標審査基準」の中で事細かに説明しています(十、11.〜13.)。
また、実際の審査においては「類似商品・役務審査基準」に記載された類似群コードを基準に審査は進められます。
類似群コードは数字とアルファベットを組み合わせた五桁の共通コードであって、過去の日本の分類を基に共通性を有する商品またはサービスをグループ分けしています(現在は国際分類を基準とした新しい分類が採用されています)。
例えば「サプリメント」の類似群コードは「32F15」、「工業所有権に関する手続の代理又は鑑定その他の事務」は「42R01」となっております。
審査実務上、同じ類似群コードが付された商品またはサービスは原則として類似するものと推定されます。
また、あまり知られてはいないようですが、異なる区分に属する商品に同じコードが与えられていることもありますので、異なる区分に属する商品同士が類似するということもあります。
例えば「ペット用の洋服」は第18類に属する商品であり、類似群コードは「19B33」です。
また「ペット用のおもちゃ」は第28類に属する商品ですが、同じく「19B33」の類似群コードが与えられています。
つまり、コードが共通する「ペット用の洋服」と「ペット用のおもちゃ」とは区分を超えて類似する商品に該当するということになります。
ちなみにこのような関係は多類間類似と呼ばれています。
ファーイースト国際特許事務所
弁理士 秋和 勝志
03-6667-0247