(1)下町ボブスレーの商標は日本で登録済み
「下町ボブスレー」という名称は、2013年7月19日に商標として正式に登録されています。
下町ボブスレー
- 登録番号:第5600086号
- 登録日:平成25(2013)年 7月 19日
- 指定商品:第28類「おもちゃ,運動用具」
この商標は、第28類「運動具」を指定商品としており、登録したのは「下町ボブスレー合同会社」です。ボブスレー用のそりも運動具に該当するため、この商標を使用してそりを販売できるのは、商標権者である下町ボブスレー合同会社またはその許可を得た者のみです。
許可の範囲と商標権侵害のリスク
下町ボブスレー合同会社から正式な許可を得ている場合、商標権侵害の問題は発生しません。
しかし、外部からは「誰が許可を受けているのか」すべてを知ることは難しいのが実情です。
そのため、商標を使用している業者が商標権侵害をしているかどうかは、商標権者自身が指摘しない限り明確にならないケースがあります。
商標権の重要性と影響
下町ボブスレーが商標登録されていることで、商標権者の許可なくスポーツ用具に「下町ボブスレー」の名称を使用することは商標権侵害に該当します。
この点を理解していないと、知らず知らずのうちに法的リスクを背負う可能性があるため注意が必要です。
(2)複数の下町の登録商標が存在するが問題はないのか?
1. 商標権は指定商品・役務の範囲で管理される
現在、「下町」という文字を含む商標登録や出願は140件以上あります。その中には、「下町ボブスレー」や単独の「下町」(商標登録第5905339号)など、多様なものが含まれています。それでは、なぜこれほど多くの「下町」を含む商標が登録されても問題がないのでしょうか?
その答えは、商標権が「指定商品・役務」によって管理されている点にあります。
同じ文字列でも、指定されている商品や役務が異なれば、別々に商標登録を受けることが可能なのです。
2. 実例で見る「指定商品・役務」の違い
例えば、「下町」(商標登録第5530341号)は、第32類の「ビール,ビール風味の麦芽発泡酒,アルコール分を含まないビール風味の清涼飲料,その他の清涼飲料,果実飲料,飲料用野菜ジュース」を指定商品として登録されています。
一方、別の「下町」(商標登録第2424879号)は第32類の商品を指定していますが、指定商品は「ビール製造用ホップエキス,乳清飲料」であり、上記の範囲とは重複がありません。
このように、区分は同じでも指定商品が異なる場合は同じ文字列の商標でも登録が可能になります。
3. 指定商品が同じ場合でも登録されるケース
指定商品が同じ場合でも、商標が「互いに類似しない」と判断されれば、複数の登録が認められる場合があります。
商標権は独占排他権であり、似た商標を同じ商品に対して登録することは原則認められません。しかし、以下のようなケースでは例外が生じます。
実例1: 「下町のナポレオン」と「城下町のナポレオン」
下町のナポレオン
- 登録番号:第3307406号
- 登録日:1997年5月16日
- 指定商品:第33類「麦焼酎」
城下町のナポレオン
- 登録番号:第3369323号
- 登録日:1998年3月27日
- 指定商品:第33類「日本酒」
これら2つの商標は、いずれも第33類の商品を指定しているものの、商標法上「互いに類似しない」と特許庁が判断しています。
麦焼酎と日本酒は類似する範囲に含まれますが、商標の構成(文字や意味)が異なるため、別の商標と認められました。
4. なぜ「下町」と「城下町」は別の商標なのか?
「下町」と「城下町」は、一部文字が重複していますが、意味や構成が異なります。
そのため、特許庁ではこれを別の商標として扱いました。こうした判断があるため、同じような名称でも用途や構成に応じて複数の商標が成立することが可能です。
(3)下町は一般名称とはいえないので注意しよう
「下町」という言葉を聞くと、多くの人が「誰でも自由に使える一般名称ではないか?」と思うかもしれません。
しかし、商標法において「一般名称」であるかどうかの判断は、その言葉と商標登録された指定商品・役務との関係性によって決まります。
1. お酒の商標として「下町」は一般名称ではない理由
例えば、「下町」という言葉を聞いても、誰も即座にお酒を思い浮かべるわけではありません。
そのため、商標法上、「下町」はお酒を指定商品とする商標において一般名称には該当せず、商標登録が認められます。
2. 実際に登録されている「下町」を含む商標
以下は、「下町」を含む登録商標の一例です:
- 下町食堂(商標登録第5492048号)
- 下町洋食屋(商標登録第5567662号)
- 下町定食屋(商標登録第5711522号)
- 東京下町(商標登録第5488755号)
これらの商標は、単なる一般的な名称ではなく、商標法上の識別標識として認められています。
したがって、これらを事業目的で無断使用することは、商標権侵害に該当します。
3. 商標を無断使用するリスク
商標登録されている言葉は、事業において識別標識としての役割を果たします。そのため、無断で使用すると商標権侵害となり、法的トラブルに発展する可能性があります。
「下町」のような親しみやすい言葉であっても、商標登録されている場合は注意が必要です。
(4)まとめ
「下町」という文字を含む商標は意外に多く存在し、その中には正式に登録され、商標権が発生しているものも少なくありません。これらの商標を事業用で無断使用すると、商標権侵害に該当するリスクがあります。
事業で使用する前には、必ず商標登録の有無を確認し、権利者から適切な許可を得ることが重要です。親しみやすい言葉だからこそ油断せず、法的トラブルを回避しましょう。
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ファーイースト国際特許事務所所長弁理士 平野 泰弘 03-6667-0247