商標権と著作権―著作権処理を忘れていませんか?

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1.商標権と著作権の関係

商標は文字だけでなく、図形やキャラクターを含むデザインも登録可能です。例えば、アニメーションキャラクターを含むデザインが商標登録されるケースも多くあります。

以下の例では、商標登録されたデザインがDVDなどの商品に使用されています。

商標登録第5243740号の商標公報より引用

この場合、商標登録を経て商標権を取得した上で使用されているのです。

一方で、このような商標登録されたデザインに含まれるアニメーションキャラクターは、著作権法の保護も受けます。

著作権法は創作物を保護する法律であり、アニメーションキャラクターは「著作物」に該当します。そのため、無断でキャラクターを複製する行為は、著作権侵害にあたる場合があります。

商標登録と著作権処理の注意点

商標登録の際、出願するデザイン(商標)を誰が作成するかで対応が異なります。

1. 自分で作成する場合

自らデザインを作成する場合、職務著作(業務中に作成した著作物)の取り扱いに注意が必要です。この場合は著作権の帰属については特別な手続きが不要な場合が多いです。

2. 第三者に作成を依頼する場合

第三者にデザインの作成を依頼する場合、出願する商標が著作物に該当する場合があります。

この場合、著作権の帰属を明確にしておくことが重要です。具体的には、契約書を作成し、著作権がどこに帰属するかを事前に取り決めておくことをお勧めします。

3. 忘れがちな著作権の確認

商標登録のプロセスでは、商標権だけでなく著作権も適切に処理しておくことが必要です。特に第三者に作成を依頼する場合は、契約書の作成を忘れず、トラブルを防ぎましょう。

2.商標権と著作権の優先順位

著作物を第三者が作成する場合の注意点

第三者(B)が作成した著作物を出願商標として利用する場合、出願人(A)はその著作物を提供された上で商標登録出願を行うことが一般的です。

しかし、このとき AとBの間で契約を結び、著作権の帰属を明確に定めておかないと、著作権がBに帰属すると判断されるリスク があります。

著作権法では、原則として著作物の創作者(著作者)に著作権が帰属すると定められているためです。

商標登録出願の審査では、第三者の著作権が理由で拒絶されることは通常ありません。その結果、商標権はAに帰属する一方で、著作権はBに残ったままになるというケースが生じる可能性があります。

商標権と著作権が分かれた場合の優劣

商標権と著作権が別々の者に帰属した場合、その優劣が問題になります。この点について、商標法第29条では以下のように定められています。

(他人の特許権等との関係)

商標法第29条 商標権者、専用使用権者又は通常使用権者は、指定商品又は指定役務についての登録商標の使用が、その使用の態様により以下の権利と抵触する場合には、登録商標を使用することができない。

  • 商標登録出願の日前に生じた他人の著作権、著作隣接権
  • 他人の特許権、実用新案権、意匠権

この条文からわかるように、 商標権者であっても、先行する著作権と抵触する場合には登録商標を使用できない とされています。つまり、 商標権よりも著作権の方が優位 だということです。

実例:商標権者Aと著作権者Bの関係

上記のルールを適用すると、Aが商標権を取得していたとしても、Bが著作権を保有している限り、以下のような結果になります:

1. 商標の利用制限

BがAに対して商標の使用中止を求める権利を持つため、Aはその要求に応じざるを得ません。

2. ビジネスへの影響

Aは商標を使用できなくなり、商品やサービスの展開が停止する可能性があります。

3. 適切な対応策

このようなトラブルを防ぐためには、以下の対応が不可欠です:

  • 契約書で著作権の帰属を明確化:第三者に著作物の作成を依頼する場合、事前に契約書を交わし、著作権を出願人に譲渡する旨を明確に記載します。
  • 著作権処理の確認:商標登録を進める際には、著作権の処理が適切に行われているかを確認します。

ここがポイント

商標権と著作権はどちらも重要な知的財産ですが、著作権の方が優位とされる場合があります。商標登録の際には、著作権に関するリスクを事前に回避することが、トラブル防止の鍵となります。

3.著作権譲渡契約の重要性

商標登録が完了しても、著作権の処理が適切でない場合、登録商標を使用できないという事態が起こり得ます。そのため、出願人は事前に著作権者から著作権を譲り受けておくことが非常に重要 です。

契約書作成の必要性

著作権譲渡について、黙示の合意が成立する場合もあると考えられますが、トラブル防止の観点からは契約書を作成して合意を明文化するべきです。

また、著作権は単一の権利ではなく、以下のような複数の権利が束になったものです:

  • 複製権
  • 上映権
  • 譲渡権

など。

これらの権利を包括的に譲渡対象とすることが必要です。特に、著作権法第27条(翻案権等)および第28条(二次的著作物の利用に関する権利)については、契約書に明記しない限り、これらの権利が著作権者に留保されると推定されるため注意が必要です。

著作権法の関連条文

著作権譲渡に関しては、以下の条文を理解することが重要です:

1. 翻訳権・翻案権等(第27条)

著作者は、著作物を翻訳、編曲、変形、脚色、映画化などを行う権利を専有しています。

2. 二次的著作物に関する権利(第28条)

原著作者は、二次的著作物の利用に関しても、同様の権利を有します。

3. 著作権の譲渡(第61条)

著作権は譲渡可能ですが、第27条および第28条の権利について特に明記がない場合、これらの権利は譲渡されず、元の著作権者に留保されると推定されます。

著作者人格権の扱い

著作者は著作権に加え、「著作者人格権」を有していますが、この権利は著作者の人格に強く結びついた権利であり、譲渡することができません(第59条)。

そのため、契約書には必ず以下の内容を盛り込む必要があります:

  • 著作者人格権の不行使特約:著作者が自らの人格権を行使しない旨を明確に記載します。

著作権譲渡契約書作成時のポイント

1. 譲渡範囲を明確化する

  • 全ての著作権を譲渡対象とすることを明記。
  • 第27条および第28条に基づく翻案権等も対象に含むことを記載。

2. 著作者人格権の不行使特約を記載

  • 著作者人格権の譲渡ができないことを踏まえ、著作者が権利を行使しないことを契約で明記。

3. 契約書の明文化

  • 曖昧な表現を避け、明確かつ包括的に権利範囲を定める。

ここがポイント

適切な著作権譲渡契約を結ぶことは、商標登録後のトラブルを防ぐための重要なステップです。特に、著作権法第27条および第28条の権利や著作者人格権の不行使について契約書で明確に定めることが、円滑な権利活用の鍵となります。

4.おわりに

第三者に著作物の作成を依頼し、それを商標出願に使用する場合、通常、出願人(依頼者)は依頼の趣旨を第三者に説明するでしょう。そして、多くの場合、第三者も自身の著作物が商標として使用され、商標登録されることに同意していると考えられます。

そのため、このようなケースで紛争に発展する可能性は低いといえます。しかし、リスクを完全に排除するためには、著作権の処理を適切に行い、権利の帰属や使用条件を明確にしておくことが極めて重要です。

契約書を通じて双方の合意を明文化することで、万が一のトラブルを未然に防ぎ、商標登録やその後の使用が円滑に進むことを確実にすることができます。

「備えあれば憂いなし」——著作権処理を怠らないことが、ビジネスの安定と成功への第一歩です。

ファーイースト国際特許事務所
弁護士・弁理士 都築 健太郎
03-6667-0247

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