どうなる?YOSHIKIの「商標登録してあると思うけどなー」とイーロン・マスクのXとの関係

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1. はじめに

イーロン・マスクがTwitter社を買収、Twitter社の社名を「X」に変更すると発表しました。もしTwitter社の社名がXに変更になるなら、Twitter Japanの日本法人の名前はX Japanになります。

これを聞いたX Japan のYOSHIKIが「商標登録してあると思うけどなー 」とつぶやいてネットで話題になりました。

YOSHIKIの「商標登録してあると思うけどなー」とイーロン・マスクのX社への社名変更は一体どうなるのか。今後予想される特許庁の取扱等についてまとめてみました。

2. 商標登録とは?

商標登録は、特許庁にバンド名や会社名の権利付与の申請をして、審査に合格できれば、登録したネーミングの権利を独占できる制度です。

ただし制限があります。特許庁で商標登録したネーミングをオールマイティに使えるのではなく、そのネーミングをどの範囲で使うかも一緒に指定しなければなりません。この指定した範囲で商標権が発生する仕組みになっています。

つまり、YOSHIKIのX Japanが、イーロン・マスクのXと同じ業務範囲に権利申請している場合には、イーロン・マスク側がつかうX Japanが、商標法上問題になります。

3. YOSHIKIのX Japanが商標登録した権利範囲は?

イーロン・マスク側が業務上提供している「コンピュータ・携帯型コンピュータ及び有線又は無線の通信機器を利用したユーザー間のリアルタイムで且つ双方向のオンラインによる通信」の業務は、商標法上、第38類に属する指定役務です。YOSHIKIのX Japan側は、ざっとみる限り、このツイッター関連の業務範囲の権利を押さえていない様にみえます。

YOSHIKIは「商標登録してあると思うけどなー」とつぶやきましたが、ここで場合が2つに分かれます。一つは、YOSHIKI側が商標「X Japan」を登録していて、かつ、業務範囲についてもツイッターの業務を押さえている場合。もう一つは、YOSHIKI側が商標「X Japan」を登録していて、かつ、業務範囲についてもツイッターの業務を押さえていない場合です。

仮に、YOSHIKI側がツイッターに関連する業務範囲を押さえていないなら、YOSHIKI側は商標「X Japan」の商標権を持っていても、ツイッターの業務範囲まで商標権の射程範囲が届かないため、商標権によりイーロン・マスク側の商標「X Japan」を止めさせることができません。

ただ、話はそこまで単純ではないのです。

4. 商標法以外にも不正競争防止法が

仮に商標権の効力の射程範囲が届かなくても、有名な商標と混同を生じる場合には、商標法と別の法律が働いて、相手の商標の使用を止めさせることができます。その法律が不正競争防止法です。

YOSHIKI側の商標「X Japan」は相当有名ですので、この不正競争防止法をイーロン・マスク側は無視することができないと思います。つまり、何らかの形でイーロン・マスク側が日本で商標「X Japan」を使うのを止めるものと見込まれます。裁判うんぬん以前に、当事者同士で揉める商標を使うのは得策ではないので、争いが生じないように現実的な幕引きが行われると考えられます。

5. イーロン・マスクのXは日本で商標登録できるのか?

今後、イーロン・マスクのXが日本の特許庁で商標登録を認められるなら、登録した商標を、審査に合格した業務範囲で使用するのは可能になります。

ところが一つ問題があります。「X」の様な、アルファベット一文字の商標は、極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標として、特許庁の審査に合格できないです。アルファベット一文字の表記は誰もが使う必要のある表記ですから、一人が独占するのは認めない、というのが特許庁の一貫した姿勢です。

では「X」の様な、アルファベット一文字の商標は、登録できないか、というとそうではありません。商標法の規定では、ありふれた標章「のみ」からなる商標は登録をみとめない、といっているので、ありふれた標章「のみ」からなる商標ではない場合には、この排除規定が働かないことになります。

つまり、商標「X」の文字に独特なデザインを加えたなら、特許庁の審査に合格して商標登録される可能性がでてきます。

通常の文字表記であるありふれた文字フォントで「X」と打っても商標登録されませんが、デザイン込みなら商標される場合があります。この場合、ありふれた文字フォントで「X」と打った商標を使っても、そもそも商標権が与えられない表記ですから、これが商標権の射程範囲に入ることはありません。

けれども登録された同じデザインの商標「X」を使うとデザイン込みで登録された商標「X」の権利侵害になる関係になります。

6. YOSHIKI側は、「X」だけの商標を登録しているのでは?

商標法の話では、そもそもアルファベット一文字で、独特なデザインなしの商標は登録できないです。ですので、YOSHIKI側が「X」だけの商標を登録しているといっても、それは何らかのデザイン要素などが加えられているはずです。このデザインまで一致しない場合には、原則として商標権の問題は発生しないと考えられます。

ただし、これはあくまで商標法上の解釈であって、商標権の効力の射程範囲外であっても、先に説明した別の法律の不正競争防止法が働いて法律違反になる場合も可能性としては残ります。

7. まとめ

結局、イーロン・マスク側が商標「X」を使えるかどうかは、今後実際に特許庁に商標登録出願して、登録されるかどうかの結果を待つ形が得策です。特許庁の審査に合格したなら、YOSHIKI側は商標「X」を使うな、とはいいにくくなるでしょう。

一般論ですが、有名な商標を変更するのはイーロン・マスクみたいに無尽蔵にお金を動かせる方ができる裏技みたいなもので、一般の方は、有名な商標と権利でもめる様な商標は使うべきではないです。仮に裁判になり最終的に裁判に勝つとしても、裁判費用で目を覆うような費用を要することもありえるからです。

しかもYOSHIKI以外との関係で世界中のあちこちで新たな問題が生じる可能性もあります。仮に訴訟合戦にでもなれば訴訟費用も大変な額になるでしょう。一般人としては誰からも注目されていない段階で社名変更を行うのがよいです。

ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247

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