索 引
1. 「ポテチ」は湖池屋だけが使える言葉だった
健康に意識高い系の方々からは恐れられるポテトチップス。あまりにおいしいので、食べすぎはいけないと思いつつ、手が伸びてしまいます。
実は、商標「ポテチ」は株式会社湖池屋が特許庁に既に商標登録しています。このため、販売するお菓子の商品パッケージに「ポテチ」と表示するのは、湖池屋以外は認められないのです。
2. 湖池屋の「ポテチ」商標登録の詳細
登録商標「ポテチ」の詳細は以下のとおりです。
- 登録番号:第2474349号
- 登録日:平成4(1992)年 11月 30日
- 権利者:株式会社湖池屋
- 指定商品:菓子及びパン
現在でも上記の商標権は有効で、実際に特許庁に登録されていて、権利が維持されています。
つまり、もう30年以上もの間、「ポテチ」という言葉は湖池屋の知的財産として守られてきたというわけです。私たちが日常的に使うこの略称は、実は特定企業の資産だったのですね。
3. 「ポテチ」という言葉、普段使いはOK?
では、「ポテチ食べる?」といった日常会話まで規制されるのでしょうか?答えはノーです。商標権の効力は、登録商標を事業上の商品表示として使用する場合に問題になります。
このため、個人的にポテチの表現を使うのは問題になりません。友達同士で、ポテチ食べる?とか、ポテチおいしいね、と日常生活で使う場合は、商標法上の商標の使用に該当しません。
同様に、ブログ記事で、「ポテチの売上が好調」とか「最近のポテチはひと袋の量が減ったと感じる」等の論評を発表しても、商標権侵害の問題は生じません。他社の商品から自社の商品を区別するために、商標としてのポテチが使用されているとはいえないからです。
4. 商標権侵害になるケースとは?
では、どんな場合に「ポテチ」の使用が問題になるのでしょうか?
商標権は登録商標を事業上使用する場合に問題になります。湖池屋以外のお菓子に「ポテチ」と表記することや、「ポテチ」の表記を掲げてお菓子を販売すると、商標権侵害の問題が発生する可能性があります。
ただし、実務では、商標権者の湖池屋が許可している場合には、商標権侵害の問題は生じません。個別の案件について、湖池屋が実際に登録商標「ポテチ」の使用を許可しているかどうかは、部外者には分からないです。
無断でポテチの商標を使用した商標権侵害がある、と部外者が指摘した後に、実際は湖池屋の公認を受けていた、ということが判明することもありますので、商標権侵害かどうかの判断には事実関係の裏取りが必要です。
5. ポテトチップス市場のダイナミックな動き
「ポテチ」の商標をもつ湖池屋ですが、実はポテトチップス市場では2位の企業なのをご存じでしょうか?日本のポテトチップス業界の現状を見てみましょう。
カルビー:市場の王者
国内ポテトチップス市場でシェア約70%と圧倒的トップ企業がカルビーです。最近の業績を見ても、売上は右肩上がりの成長を続けています。
直近3年間のポテトチップス製品売上高は以下の通りです:
- 2022年(2022年3月期):約834億円(83,434百万円)
- 2023年(2023年3月期):約909億円(90,932百万円)
- 2024年(2024年3月期):約983億円(98,274百万円)
カルビーの代表的なポテトチップス製品として「カルビー ポテトチップス うすしお味」があります。その内容量(1袋あたり)は標準サイズで60gとなっています。
湖池屋:「ポテチ」の商標を持つ老舗
湖池屋はカルビーに次ぐ国内ポテトチップス市場第2位のメーカーです。売上も順調に伸びています。
直近3年間のポテトチップス製品売上高は以下の通りです:
- 2022年(2022年3月期):約304億円(30,395百万円)
- 2023年(2023年3月期):約446億円(44,574百万円)
- 2024年(2024年3月期):約548億円(54,829百万円)
代表的製品は「湖池屋 ポテトチップス のり塩」で、1962年発売のロングセラーです。内容量は通常サイズで60g入りとなっています。
山芳製菓:わさビーフの会社
山芳製菓は「わさビーフ」で知られる老舗ポテトチップスメーカーで、業界第3位に位置します。非上場企業のため正確な売上高は公表されていませんが、生産規模から相当な規模であることがわかります。
2023年稼働の関西工場では年間約2,800トンのポテトチップスを生産しており、これは一般的な50g袋に換算して約5,600万袋分に相当する大量生産です。これだけでも年間売上高は数十億円規模に達するとみられます。
代表的製品は看板商品「ポテトチップス わさビーフ」です。内容量は1袋あたり50gと他社よりやや少なめに設定されています。
6. まとめ:「ポテチ」の知られざる物語
「ポテチ」という言葉が湖池屋の登録商標だということは、実はポテトチップス好きの間でもあまり知られていない事実です。私たちが日常的に使う言葉の中にも、実は法律で守られた知的財産が潜んでいるという興味深い例といえるでしょう。
日本のポテトチップス市場は、三つ巴の競争が続く中で着実に成長しています。「ポテチ」という商標を持つ湖池屋はカルビーに次ぐ2位の企業ですが、見事な成長を遂げています。私たちが何気なく食べているポテトチップスの背景には、こうした商標や企業間の競争が隠れているのです。
次にポテトチップスを手に取るとき、この「ポテチ」という言葉の秘密を思い出してみてはいかがでしょうか?
ファーイースト国際特許事務所所長弁理士 平野 泰弘
03-6667-0247