ノベルティ商品に商標登録は必要ですか?

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1.商標法におけるノベルティの取り扱いと考慮点

商標権者の独占的権利

商標権者は、登録商標を指定商品または指定役務に使用する独占的な権利を持っています。この「商品」の定義について、商標法では次のような条件を満たすものとされています。

  • 1. 商取引の対象となるもの
  • 2. 市場で流通するもの
  • 3. 有体動産であること

ノベルティの位置づけ

ノベルティは、主たる商品の販売促進を目的とし、顧客に提供される付加的な物品です。これらは一般的に、独立した商取引の対象とはみなされません。たとえば、Tシャツやペン、バッグなどがノベルティとして配布される場合、それ自体が市場で商品として販売されることは意図されていません。

商標としての機能性

しかしながら、ノベルティに登録商標が付されている場合、その商標が顧客に対して識別標識として機能する可能性があります。具体的には、ノベルティが商標を使用した商品の一部として認識される場合や、顧客がその商標を見て特定のブランドや商品の出所を連想する場合です。

判断基準のポイント

ノベルティが商標法の観点でどのように扱われるかを判断する際、次の点が重要となります:

1. ノベルティ自体が独立した商取引の対象かどうか

市場で販売される商品として認識されているか、または単なる広告媒体としての位置づけにとどまるかが問われます。

2. 商標の機能

登録商標がノベルティに付されていることで、その商標が顧客に対して識別機能を果たしているかどうかが検討されます。

3. 流通の可能性

ノベルティが市場で広く流通する可能性がある場合、登録商標が使用された商品の一部として扱われる可能性が高くなります。

実務の考え方

商標権者にとって重要なのは、ノベルティが登録商標の適切な使用範囲に該当しているかを明確にし、無用なトラブルを防ぐことです。一方で、他者が配布するノベルティについて商標権侵害を主張する場合、そのノベルティが独立した商品か否かを慎重に判断する必要があります。

ノベルティが顧客に与える印象や流通の状況次第で、商標法の適用が変わる点を理解し、ケースごとの対応を検討することが求められます。

2.「BOSS事件」の商標法における解釈とその判断基準

商標法における基本的な考え方

商標法では、商標は商品を識別するための標識として機能します(商標法第2条第1項参照)。しかし、ここでいう「商品」は商品そのものを指し、その包装や広告媒体は含まれません(同法第2条第3項参照)。

商標権者は登録商標を使用する権利を独占しており、これを侵害する者に対して差止請求権や損害賠償請求権を行使することができます(商標法第25条参照)。ただし、この権利が及ぶ範囲は登録商標が指定する商品またはそれに類似する商品に限定されます。そのため、指定商品と無関係な包装物や広告媒体に登録商標が使われた場合、商標権侵害には当たりません。

さらに、ある物が独立した商品とみなされるか、それとも包装物や広告媒体に過ぎないかは、その物が独自の交換価値を持ち、商取引の対象となるかどうかで判断されます。

「BOSS事件」の概要

この裁判では、被告が「BOSS」という商標を電子楽器の商標として使用しており、同じ商標が付されたTシャツを無償配布していた事案が争点となりました。このTシャツについて裁判所は以下のように判断しました(大阪地裁昭62.8.26)。

1. Tシャツの性質と配布方法

被告のTシャツは、電子楽器の広告や販売促進を目的としたノベルティとして、楽器購入者に限定的に無償で配布されていました。このTシャツ自体を商品として販売しているわけではなく、独立した商取引の対象ではありませんでした。また、配布方法から考えて、これらのTシャツが市場で流通する可能性も低いとされました。

2. 指定商品との関連性

原告の登録商標は「被服」や「布製身回品」を含む第17類の商品を指定していましたが、電子楽器はこの指定商品にも類似商品にも該当しないことが明らかでした。

裁判所の結論

以上の事実から、裁判所は以下のように結論付けました:

  • 被告のTシャツは商取引の目的物として扱われる独立した商品ではなく、単なる広告媒体に過ぎない
  • 被告がTシャツを配布した行為は、原告の商標権を侵害するものではない

ここがポイント

この事件のポイントは次の通りです。

  • 1. 商標法における商標権侵害の判断は、商標が使用された物品が「指定商品または類似商品」に該当するかどうかが鍵となる
  • 2. 広告媒体やノベルティなど、商取引の目的物ではない場合、商標権侵害は成立しない
  • 3. 配布方法や市場流通の可能性も商標権侵害の判断に影響を与える

実務への影響

「商標がどのように使われているか」「それが商品として独立しているか」を冷静に判断することが、商標権を正しく行使し、他者とのトラブルを避けるための重要な鍵となります。この事件は、商標法の適用範囲を考える上での良い事例と言えるでしょう。

商標法におけるノベルティの扱いと現代的視点

BOSS事件の結論

BOSS事件では、ノベルティとして配布されたTシャツについて、以下の理由から商標権侵害に該当しないと判断されました。

1. 独立した商取引の対象ではない

配布されたTシャツが商取引の目的物として独立して流通していないことが認定されました。

2. 市場での流通可能性が低い

ノベルティが顧客に限定的に配布されており、市場での再販や流通がほぼ想定されなかった点が考慮されました。

時代の変化と商標法

この判決が出された昭和62年当時と比較すると、現在の商取引環境は大きく変化しています。その背景には、次のような要因があります:

インターネットの普及

電子商取引が一般化し、商品の購入や配布が簡単に行われるようになりました。

商標法における「商品」の定義の拡大

以前は有体物のみが「商品」として認識されていましたが、現在では電子出版物やソフトウェアプログラムなど、無体物も商標法上の商品とされています。

これにより、ノベルティが商取引の対象として扱われる可能性が以前よりも高まっています。特に、ブランドロゴが付されたノベルティがインターネット上で転売されるケースも少なくありません。

現代の視点からの対応策

商標の使用がノベルティに及ぶ場合、特に以下のポイントを検討する必要があります。

1. ノベルティの使用目的

ノベルティが広告的な役割を果たすだけでなく、市場で流通する可能性があるかを考慮します。

2. 指定商品への追加

ノベルティの配布を想定する場合、登録商標の指定商品に「衣類」や「文房具」など、配布予定のノベルティに該当する商品区分を一部でも追加しておくことを検討すべきです。

3. 市場流通の防止策

無償配布後の転売を防ぐため、ノベルティの受領者に明確な条件を付与するなど、ブランドの管理を徹底する必要があります。

3.まとめ

昭和62年のBOSS事件判決では、ノベルティの配布が商標権侵害に当たらないとされましたが、現在の商取引環境では必ずしも同じ結論になるとは限りません。特に、インターネットの普及により、ノベルティが独立した商品として認識されるケースも増えています。

商標の使用目的や今後の流通可能性を慎重に見極め、一歩踏み込んで、必要であれば指定商品にノベルティが含まれる商品区分を追加することが、安全な商標運用となるでしょう。

ファーイースト国際特許事務所
弁理士 秋和 勝志
03-6667-0247

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