1.商標権における「地理的範囲」の真実とは?
商標権とは、特許庁で登録を完了させることで発生する権利です。この権利がどこまで効力を持つのか、意外と知られていない重要なポイントがあります。
商標権の効力は、日本の法律である商標法が施行される地域に限られます。そのため、商標権は日本全国に効力を及ぼします。
この関係で日本国外には効力が及びません。
たとえば、中国で商標権を主張したい場合は、中国国内で商標登録を行う必要があります。これが国ごとに商標登録を求められる理由です。
ライセンス契約による地理的制限
商標権者(ライセンサー)は、自分の登録商標を他者(ライセンシー)に使用させるライセンス契約を結ぶことができます。興味深いのは、この契約によって商標使用が認められる範囲が柔軟に調整できる点です。
例えば、全国的に商標の使用を許可することもできますし、北海道、四国、九州といった特定の地域に限定することも可能です。ライセンシーは契約の内容によって使用範囲が制限される場合があります。
ここがポイント
- 商標権は日本国内にのみ効力を持つ
- 海外で商標権を主張するには、その国での登録が必須
- ライセンス契約により商標使用の地理的範囲を自由に調整可能
2.商標権が及ぶ地理的範囲
商標権は、全国的に効力を持つ強力な権利です。一方で、地域密着型のビジネスや商圏が異なる事業同士では、商標権の適用がどのように影響するのでしょうか?
地域密着型ビジネスと商標保護
商標権は日本全国で効力を持つため、広範囲で流通する商品やサービスに対する保護が可能です。たとえば、全国的に販売される化粧品の商標は、全国的に保護を受けるのが適切でしょう。
一方で、飲食店や美容室、病院のような地域密着型ビジネスはどうでしょうか?これらのサービスは、その性質上、特定の地域に限られて提供されることが一般的です。このような場合、事業が展開される商圏のみで商標が保護される方が現実的と思われるかもしれません。
しかし、商標法では商圏の違いを考慮せず、商標権は全国的に保護されると理解されています。
実例:パチンコ店の商標権侵害訴訟
商圏の相違が商標権侵害にどのように影響するのか、実際の裁判例を見てみましょう。
過去の裁判例(大阪地判平成23年6月2日)では、関東地方でパチンコ店を展開する原告が、関西地方で営業する被告に対し、商標権侵害を主張しました。
被告は、「関東と関西で商圏が異なるため競合しない」と反論しましたが、裁判所は以下のように判断しました。
「商標権は全国的に効力を有するものであり、現時点で競合が認められないとしても、差止請求を否定する根拠にはならない。」
結果として、商圏の違いによる商標権侵害の免除は認められませんでした。
ここがポイント
- 1. 商標権は地域に関係なく全国的に効力を持つ
- 2. 地域密着型ビジネスでも、商標権侵害は発生し得る
- 3. 商圏の違いを理由に商標権侵害が免除されることはない
商圏が異なるからといって油断は禁物です。商標権をしっかり理解し、トラブルを未然に防ぎましょう。
商標登録の具体例:意外な単語が商標侵害になる可能性も?
商標権の効力は日本全国に及び、商圏の違いを理由に商標権侵害が否定されることはありません。これを踏まえ、商標選択時に注意すべきポイントを解説します。
商標選択時の注意点:造語 vs 一般的な単語
商標を選ぶ際、事業者はその商標が与えるイメージを重視することが多いでしょう。しかし、造語ではなく、一般的な単語を商標として選択する例も珍しくありません。
特に地域密着型ビジネスであっても、こうした単語が商標登録を受けているケースは多く見られます。
実例1:「女将の日本酒ハイボール」のような単語にも注意!
- 商標登録第6869030号
- 登録商標「女将の日本酒ハイボール」
- 権利の範囲「飲食物の提供」等
- 登録日:令和6(2024)年 11月 26日
飲食店など地域密着型のサービスに関連する商標の中には、意外な単語が登録されていることがあります。たとえば、「女将の日本酒ハイボール」という単語に類似する商標が登録されている場合、この単語を使った名称やロゴを採用すると、商標権侵害の警告を受けるリスクがあります。
実例2:「これがプロの答え」
- 商標登録第6871157号
- 登録商標「これがプロの答え」
- 権利の範囲「美容,理容」等
- 登録日:令和6(2024)年 12月 2日
ポイントまとめ
- 1. 商標権は全国的に効力を持ち、商圏の違いでは侵害の否定が難しい
- 2. 一般的な単語であっても、商標登録されている場合がある
- 3. 商標を選ぶ際は、商標データベースで事前に類似商標の有無を確認することが重要
「単純な名前だから大丈夫」「地域が違うから大丈夫」は禁物! 商標登録の実例を学び、リスクを避けましょう。
3.おわりに:地域密着型事業者にこそ商標登録の重要性を
飲食店、美容室、病院といった地域密着型の事業者は、限られた地域で事業を展開することが多いでしょう。しかし、ここで押さえておきたい重要なポイントがあります。それは、商標権の効力は日本全国に及ぶということです。
たとえ実務で商圏が限定されていても、商標権侵害が成立する可能性は否定できません。
一般的な単語を商標として選んだ場合でも、その単語が既に登録されていれば、ある日突然、商標権侵害の警告を受けるリスクがあります。もちろん、造語を商標として選んだ場合でも同じことが起こり得ます。
地域限定の事業者こそ商標登録を!
限られた地域での事業展開であっても、商標登録は事業を守る強力な武器となります。商標登録を行うことで、自分のブランドを保護し、不意のトラブルを未然に防ぐことが可能です。
「自分には関係ない」と思っていませんか? 商標登録の重要性を今一度考え、事業の未来をしっかりと守りましょう。
ファーイースト国際特許事務所弁護士・弁理士 都築 健太郎
03-6667-0247