1.ブランドの種類と役割
コーポレートブランドとは?
「コーポレートブランド」は、企業そのものを象徴するブランドです。
企業の理念やイメージと密接に結びついており、長期的に維持されることが前提となっています。そのため、ブランド価値を損なわないよう慎重に扱う必要があります。
プロダクトブランドとは?
一方、「プロダクトブランド」は、特定の商品を象徴するブランドです。
商品が市場で売れなくなった場合などには終了させることも容易であり、必ずしも全ての商品で必要とされるわけではありません。
例えば、一般消費者が商品を購入する際、商品の特性を理解しやすくするために「プロダクトブランド」が役立つ場合があります。
一方で、専門家が購入する商品では、性能や価格を自ら精査できるため、商品そのもののブランド化が重要視されない場合もあります。
この場合、企業の信頼性や理念を伝える「コーポレートブランド」の重要性が高まります。
2. 型番の役割と商標登録に関する注意点
型番の役割
商品を特定するために使われる「型番」は、ローマ字と数字の組み合わせで構成されることが多く、例えば「XY1000」のような形式が一般的です。
この型番は商標登録の対象外である場合が多いため、他者の商標権を侵害するリスクが低く、安心して使用できる特徴があります。
商標登録ができない型番の例
特許庁の商標審査基準では、以下のようなシンプルで一般的な型番は商標登録が認められないとされています。
- 1. ローマ字1~2文字+数字(例:A2、AB2)
- 2. 数字+ローマ字1~2文字(例:2A)
- 3. 上記の組み合わせで、さらに簡単な形式(例:A2B、2A5)
ただし、これらが特定の業界で特定の企業のものと認識されるようになった記号である場合には例外となることもあります。
ここがポイント
「コーポレートブランド」と「プロダクトブランド」は、目的や役割が大きく異なります。
企業全体の信頼性を高めるためには「コーポレートブランド」を強化し、商品ごとに必要に応じて「プロダクトブランド」や型番を活用することがポイントです。型番の使用には商標登録のルールを意識しつつ、安全かつ効果的に運用しましょう。
2.型番の使用とその課題<
型番の利便性と課題
型番は商品を特定するために便利であり、商標権侵害のリスクが低いことから、比較的安心して使用できます。
また、商標管理のコストを省ける利点もあります。しかし、型番の多用は商品のブランド構築を疎かにするリスクがあるため注意が必要です。
家電製品における型番の使用例
日本の電気メーカーは、家電製品に型番を使用する傾向が強いです。
しかし、家電はエンドユーザー向けの商品であるため、型番だけでは消費者にブランドイメージを伝えにくい場合があります。
例えば、SONYは知的財産やブランド戦略に力を入れる企業として知られています。
同社は「WALKMAN」「BRAVIA」「HANDYCAM」などのプロダクトブランドを展開していますが、一部の製品では型番しか使用されていないことがあります。
型番のみで製品を識別する場合、商品のブランド化が難しくなることが課題として挙げられます。
SONY製品の具体例
SONYのノイズキャンセリングイヤフォン「WF-1000XM3」は、その性能が非常に高く評価されています。
しかし、「WF-1000XM3」という型番のみでは、エンドユーザーにとって製品名を覚えにくいという指摘があります。
アメリカのテクノロジー誌『WIRED』US版では、以下のようなコメントが掲載されています。
- 「ソニーのノイズキャンセリングイヤフォンの最大の欠点を挙げるとすれば、その製品名だろう……製品名を覚えられない。」
このような指摘は、型番だけでは消費者にブランドイメージを定着させることが難しい現実を示しています。
他メーカーとの比較
ノイズキャンセリングイヤフォン市場では、他社が明確なブランド名を使用して差別化を図っています。
- Apple:商標「AirPods」
- BOSE:商標「SoundSport」
これらの商標は、消費者に商品を容易に想起させ、ブランドイメージを形成するのに役立っています。一方で、SONYの「WF-1000XM3」のように型番しかない商品は、性能の高さが評価されてもブランド認知が弱くなる可能性があります。
型番使用のバランスを考える
型番は商品の特定に役立つ一方で、商品のブランド化や認知度向上には不十分です。
特にエンドユーザー向けの商品では、プロダクトブランドや明確な商品名を併用することが重要です。型番の多用に頼ることなく、ブランドイメージを消費者に伝える工夫を検討する必要があります。
3.おわりに
「コーポレートブランド」と「プロダクトブランド」は、その役割や目的が異なるため、状況に応じて適切に使い分けることが重要です。
特に、エンドユーザー向けの商品では、商品そのものを差別化し、消費者に印象を残すために「プロダクトブランド」を構築することが有効です。
一方で、すべての商品において必須というわけではなく、その必要性を商品の特性に応じて慎重に判断することが求められます。
ブランド戦略の成功は、ターゲット顧客に対してどのように商品や企業の価値を伝えるかにかかっています。企業全体を象徴する「コーポレートブランド」と、商品を象徴する「プロダクトブランド」を上手に組み合わせ、ブランド価値を最大化することが鍵となります。
ファーイースト国際特許事務所弁護士・弁理士 都築 健太郎
03-6667-0247