(1)ドメイン名と商標登録
1-1. ドメインとは何でしょうか?
ホームページのURLなどに使用されているドメインとは、「インターネット上に存在するコンピューターやネットワークを認識するための名前」です。簡単に言うと「インターネット上の住所表示」です。
ドメインの例
- ホームページURLの場合
`http://www.fareastpatent.com/` の場合、「www」がホスト名、「fareastpatent.com」がドメイン名です。
- メールアドレスの場合
`Syouhyou@fareastpatent.com` の場合、「fareastpatent.com」がドメイン名です。
このように、ドメインはURLやメールアドレスの一部として使われ、これがなければホームページの公開はできません。
ドメインの登録方法
ドメインは、他の人が登録していない文字列であれば登録できます。しかし、次のような名前をドメインとして使用する行為は不正とみなされます。
- 他人の名前
- 他社の名前
- 他社の商品・サービスの名前
では、ドメインの登録の流れを簡単に説明します。
- 1. 指定事業者にドメイン名の登録を申し込む
指定事業者はいくつかあり、それぞれ特徴が異なるため、自分に合った事業者を選びましょう。 - 2. ドメインが登録される
- 3. 運用する組織のネットワークやネームサーバーを用意する
基本的にはインターネット接続サービス事業者などに依頼しましょう。 - 4. 登録したドメインに対するネームサーバーを設定する
1で申請した指定事業者へ申し込みます。 - 5. 登録したドメインが使用できるようになる
これらのステップを踏んで、登録したドメインが使用可能となります。
1-2. すでに商標登録されていたときは
商標登録とドメイン名の登録には、先願主義という共通点があります。しかし、ドメイン名の登録には商標登録のような審査はありません。また、登録申請者が所有していない商標登録と同一の名前があった場合に調整を行う制度も整備されていません。
では、登録しようとしているドメイン名が既に第三者によって商標登録されていた場合はどうなるでしょうか?
商標には以下の4つの機能があります。
- 自他商品または役務の識別機能
- 出所表示機能
- 品質保証機能
- 広告機能
もし、既に第三者が商標登録している名称をドメインとして使用し、そのドメインを利用しているホームページ上で、登録商標と類似する商品やサービスを提示・販売している場合、提訴される可能性があります。
さらに、商標法だけでなく、不正競争防止法に基づいて損害賠償請求されることもあります。
ドメイン名の選定には慎重を期し、既存の商標登録との重複を避けることが重要です。これにより、法的リスクを回避し、安全にビジネスを展開することができます。
(2)商標登録しましょう
商標法における登録の条件を満たせば、ドメイン名であっても商標登録が可能です。そのため、商標登録を行い、自身のドメイン名を守りましょう。
ドメインを商標登録する場合、「○○○.com」や「○○○.jp」で登録すれば良いのか、それとも「○○○」だけで登録すれば良いのか迷うかもしれません。
理想的には両方を出願・登録するのが良いですが、費用の問題もあるでしょう。どちらか一方だけを登録する場合は、「○○○」を登録することをおすすめします。
「○○○」を登録していれば、「○○○.com」や「○○○.jp」は類似商標となり、禁止権の発生により保護されます。ただし、必ずしも禁止権(注1)の範囲に入るとは限りませんので、注意が必要です。
(注1)禁止権とは、登録商標の類似範囲で他人の商標の使用を排除できる権利のことです。
商標登録を活用して、ドメイン名をしっかりと保護し、ビジネスを安全に展開しましょう。
(3)ドメイン名をめぐる事件
ここでは、ドメイン名が商標権を侵害しているとして裁判になった事例を紹介します。
ジェイフォン事件
これは日本でのドメイン名をめぐる裁判の事例です。
経緯は以下の通りです。
- 1. ジェイフォン東日本が「J-PHONE」というサービスを開始しました。
- 2. 大行通商が「j-phone.co.jp」のドメイン名を取得しました。
- 3. 大行通商が「http://www.j-phone.co.jp」でホームページの運用を開始しました。内容はジェイフォングループの各社へのリンクと携帯電話関連商品の販売でした。
- 4. ジェイフォン東日本が大行通商を訴えました。
訴えの内容は以下の通りです。
- ドメインの使用の禁止
- インターネットのホームページから「j-phone」の表示を削除
- 損害賠償950万円
この事件は、商標権の侵害ではなく、不正競争防止法の不正競争に該当することになります。
不正競争防止法は、自身の商品などの表示として、他人の著名な商品などの表示と同一あるいは類似の表示を使用したり、そのような表示が使用された商品を譲渡、引渡しなどすることを禁止しています(不正競争防止法2条1項2号)。
ここでの争点は以下の2点でした。
- a) 大行通商がジェイフォン東日本の「J-PHONE」と同一の「j-phone」を使用することは、不正競争防止法2条1項2号の「商品などの表示」の「使用」にあたるのか
- b) ジェイフォン東日本の「J-PHONE」というサービス名称は営業表示として「周知」または「著名」なものなのか
裁判所の判断は以下の通りです。
- a) 大行通商が開設したウェブサイト上で商品の販売や役務の提供について、消費者に情報を提供したり注文を受け付けたりする場合は「商品などの表示」の「使用」にあたると判断されました。
- b) 全国的な広告宣伝活動の結果により関東周辺地区において「J-PHONE」が周知であることは当事者間に争いがなく、「周知」または「著名」なものであると判断されました。
(4)決めるときの注意点
ドメインを登録する際は、他者がその名称について商標登録していないか確認することが重要です。
商標登録されている場合、ドメイン名としては使用できても、サイト名や商品名としては使用できません。商標に関わるドメイン名については、不正使用の差止や損害賠償規定が定められており、商標権を持つ者が保護されるようになっています。
消費者が商品やサービスを選ぶ際に混乱を招かないようにし、不要な争いに巻き込まれないためにも、必ず商標の状況を調査しましょう。
また、自身がドメインを使用することになった場合は、商標登録を行い、そのドメイン名に付随する信用を守ることが大切です。商標登録を行うことで、ドメイン名に対する法的な保護が強化され、ビジネスの信頼性も向上します。
ファーイースト国際特許事務所
所長弁理士 平野 泰弘
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